天井裏で見たもの

 二人は子供部屋に入ると、まず天井を見上げた。


「大野さんの一番下のお子さんは、部屋の天井を見上げて笑っていたそうですね。春子さんは、お子さんが異変に気付いていたんじゃないかと、気にしていましたが……」


「笑っていたのは、天井の木目が動物みたいに見えたからじゃないかと、大野茂さんは言っていたけど……」


 見上げれば、確かに動物の顔のような木目が見えた。


「ネコ」「イヌ」


「……事象とは、関係ないのかもしれませんね」

「だね」


 次に、分かれて壁や床を調べ始めた。ぐるっと部屋を一周すれば、二重に調べられたということになる。


 しばらくして。


「異常ありません。四辻さんはどうでした?」

 振り返ると、四辻はうつ伏せに横たわっていた。


「えっと……何してるんですか?」

「床下の気配を探っているんだ。次の部屋に行こう」


 廊下を這いながら移動する四辻を追い越し、「動きづらい。脚があともう四本欲しい」とぼやく四辻の為に寝室の襖を開けた。


「リュック持ちましょうか?」

「大丈夫。問題ないよ」


 次の部屋でも二人は同じことを繰り返し、やがて全ての部屋を調べ終えた。


「何もありませんでしたね」

「あとは——」


 四辻は立ち上がり、天井を見上げた。


「この上かな」


「下から見て、明らかな危険がないことは確認できましたが……本当に行くんですね?」


「トミコさんの死因は、天井と関係している」


 今から半年前、トミコは天井裏からロープを垂らして、首を吊って亡くなっていた。


「そして、天井下り事象の霊は天井と強く結びついている。下からじゃ分からない事が分かるかもしれない」


「行くなら、着替えが先ですよ」


 逢はリュックから作業着を取り出し、四辻に渡した。既に床を這いずり回った所為で服は埃塗れだが、着替えさせないよりはマシだと思った。


 作業着に着替えた四辻に、逢はライトとカメラ付きのヘルメットをかぶせた。さらに、手には軍手、口にはマスク、目にはゴーグルを装備させていく。


「大袈裟じゃない?」

「何言ってるんですか。足りないくらいですよ」

「えー……」


 天井裏に上がる方法は、あらかじめ大野から聞いていた。寝室の押入れの天井を押し上げると、四辻は点検口から天井裏に這い上がった。


 屋根裏は暗く、ライトで照らしても光が闇の中に吸い込まれていくようだった。


 四辻は梁を観察した後、ふと指を置いた場所に不自然な窪みを見つけた。手袋で埃を擦り取ると、天井板に掘られた文字が浮かび上がった。


 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 たばたのばあが かこめいったんかな

 びょうきのじいがいるもんで やらしいわ

 とみこはいんきだもんでもらいてがいねえって みんなわらっとった

 くやしいわ 

 くびりころしてやりたいわ

 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


(所々血が滲んでいる。怒りに任せて、爪で板に刻んだのか。タイミングから考えれば遺書だけど、『縊り殺してやりたい』とは、随分と物騒だな)


 四辻が遺書の写真を撮ると、下から

「どうですか?」

 と逢の声が聞こえてきた。


「遺書を見つけた。それから、梁にロープをかけた痕跡がある。トミコさんはこの梁にロープをかけて点検口から外に出し、押入れを背にして首を吊った。この高さなら、そこの窓から様子が見える」


 逢は視線を、押入れから右の方へ向けた、ちょうど手を楽に置けそうな位置に、長方形の窓がある。


「さっきのご婦人方は、押入れからトミコさんの脚が不自然にはみ出しているのを見たと言っていた」


「ご近所さん達、家に引き籠っていたトミコさんを心配する気持ちもあったのかもしれませんが。家の中を覗かれるって、何だか落ち着きませんね……。あれ、そういえば春子さんも、窓から覗かれたって言ってましたっけ?」


 天井から大きな音がした。


「四辻さん!?」

「ごめん、蜘蛛の巣に引っかかってビックリした。埃の量も酷いな……」


「無理しないでくださいね」

「大丈夫。子供部屋まで行ってみるよ」


 四辻が動くたびに、天井から音が響く。逢は四辻の気配を追いながら、子供部屋に入った。


「四辻さーん! 何か見つかりましたか?」


 しばらくの無音のあと、


「霊の犯行手段が分かった」


 四辻が道を引き返す音が聞こえ始めた。

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2025年1月11日 06:40
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照魔機関—■■■巫■— 木の傘 @nihatiroku

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