仮説 8人目の遺体

「遺体を……隠したかった? やっぱり盗まれた5人の遺体の中に、トミコさんと深く関わっている人がいたんじゃないでしょうか? 無関係の人の遺体を盗んで隠すとは思えません。


 さっき天井から降らされた田畑さんは、機関が保護した田畑さんの親族のようでした。機関が見つけられないだけで、5人にも同じような繋がりがあるんじゃないでしょうか?」


「どうかな。K支部は長い間みとし村に関わってきた。見逃す可能性は低いはずだよ」


(それに)と四辻は考えを巡らせた(委員会もこの事象を解決したがっている。捜査を妨害しているとは思えない)


「5人に繋がりがなかったとして、どうして遺体を隠したんでしょうか?」


「人間が遺体を隠したいときって、どういう時だと思う?」


「え? えっと~……誤って殺してしまったとき、ですかね」


 四辻が頷いたのをみて、逢は青褪めた。


「殺人が関係しているということですか⁉ でも、事件性があるのは交通事故だけです。これがトミコさんの仕業だったなら、どうして彼女は遺体を隠して罪から逃れようとしたんでしょう? 幽霊なのに」


「彼女自身が罪から逃れたかった訳じゃないのかもしれない。でも、もし殺人に関わったのが、自分にとって大切な人だったとしたら?」


「……自分の命よりも大切に思える人なら、庇ってしまうかもしれません」


「トミコさんには、そんな人がいたのかもしれない」


四辻はそう言って、こめかみを押さえ、「でもそうすると、おかしな点があるんだよ」と話を続けた。


「君が言う通り、事件性があるとすれば交通事故だけなのに、それが起こる前に、佐藤千代子さんの遺体が消えてるんだ。もしかすると、んじゃないかな」


「それが8人目。天井から降らされていない、本命の遺体ってことですね」


「もしかすると、最初の5人の遺体を盗んだ時から、霊は飢餓状態で、村人の恐怖を煽るために遺体を盗んでいたのかもしれない。だから遺体に共通点はなく、バラバラだったんだ」


「それを確認する為に、田原さんに『最近亡くなった人はいないか、生きている人間で、行方不明になっている人はいないか』って聞いたんですか?」


「いや、さっきは、あくまで可能性を広げる為に、トミコさん以外の人間が霊になっていないかを確認しようとしたんだ。でも、君が遺体を隠すと言ったから、この仮説を閃いた。……村人は、誰も消えていないらしいけどね」


「誰もいなくなってないのに、誰かが消えている、ということですか。これも異常現象ですね……」


「こういうのはどうだろう。だった。


 トミコさんの霊は、その殺人に関わったこの村に住む誰かを庇う為に、殺害された人間の遺体を異界に隠し続けている。


 霊として存在を保てなくなれば、その人を庇えなくなるから、村人に危害を加えることで、彼女は村に留まり続けている。天井下り事象を起こしたのはその為だったけど、村の穢れにより凶暴化したトミコさんは、田畑さんを襲って施設での犯行も行った。そう考えれば、一応辻褄は合う」


「ひと月前にこの村を訪れた人に、捜索願が出されていないか確認します!」


「ありがとう。でも、たぶん出されてはいないよ」


「どういうことです?」


「捜索願が出されていたら、警察やK支部が把握していないのはおかしい。つまり行方不明になった人間を探す人は、誰もいなかったんだ。

 でも太田捜査官達が、池柁一家の捜査を機関に依頼してくれていた。もうじき結果が届くはずだよ。トミコさんが今回の騒動に関わっていれば、何かわかるはずだ」


「もしこの家に何もなくて、トミコさんが庇うような人物も見つからなかった場合は……?」


「トミコさんは、この事象の容疑者ではなくなる。霊は、別の誰かということになる」


 四辻は視線を子供部屋の方へ向けた。


「トミコさんの霊がここを住処としているなら、彼女はこの家のどこかを異界に繋げて、8人目の遺体を隠しているはずだよ。まずは、子供部屋から探してみよう。最初に落ちてきた佐藤さんと、太田捜査官の遺体は、あの部屋の天井から落ちてきたようだから」


 子供部屋に視線を向けた逢が身震いした。

 励ますように、四辻の手が逢の背に添えられた。


「大丈夫。結界がある限り霊は入ってこないよ」

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