終
終
『女性は、
平安時代に、そんな俗説が
それを「ロマンティックだな」と感じるか「いや、地獄絵図かよ」と思うのかは、人によってそれぞれ明暗が分かたれることだろう。
それこそ、背負う方も、背負われる方も。
「仮にも
光る君はそう言って、
「うるさいな……」
脩子は気まずさを
その
それがどうにも面白くなくて、脩子はついつい
時刻はすでに
少しずつ、夜空の
「もう少しこうしていたいけど、そうもいかないから。もう行きますね」
平安時代において、日が昇ってから男を帰すというのは、女人側の恥にもなる。
どこに出しても恥ずかしい宮姫に、今さら恥も外聞もないだろうに。彼は
そうして光る君は、拍子抜けするほどあっさりと、
てきぱきと身支度を整えた彼は、脩子の
何やら圧のある笑みに、脩子はひくりと顔を引き
「これからはもう、人目を忍んで通ってくる必要も、ないですよね?」
「………………」
「もちろん三夜連続で通って来ますけど、問題ありませんよね? お
「うわぁ、むちゃくちゃ畳み掛けてくる……」
「そりゃあもう。一世一代の
平安時代の結婚というのは、男が女のもとに三夜連続で通ったのち、三日目の晩に、
光る君の表情は、いよいよ退路は
非常に
「……責任は、ちゃんと取るわよ」
そういう意味では、脩子の行いは『源氏物語』の光源氏が若紫に行ったことと、そう大差ない。
まさか己が、無自覚ながらにも『逆・光源氏計画』を
だが、たとえ無意識下の行いだったとはいえど、それを自覚させられてしまったからには、もう腹を
「うーん、責任って表現は、ちょっと
光る君は、脩子が観念するのを待っていたとばかりに、それは満足そうに破顔する。それから、彼は
やがて、一刻(約十五分である)と経たないうちに、爆速で届いた
〝あくまでも形式として送っているだけなので、宮さまは無理に和歌を
──とのことである。
何故なら、初夜の事後にこれが届かないと、ヤリ捨てられたという意味合いになるのである。
また、届くのが遅いというのも「あー、私って微妙だったんだな……」と女側が思う羽目になる、なかなかに
確かに光る君の対応は、この時代において、非の打ちどころがないほどに完璧なものだったといえよう。
おまけに、和歌を苦手とする脩子に対してのフォローまで添えた、嫌味なまでにスマートな対応であるともいえる。
そりゃあ確かに、脩子は気の
何だか昨夜から、光る君にいいように転がされてばかりのような気がして、非常に面白くないのである。脩子はむっすりと口を引き結んで、筆を取った。
とはいえ、何と書いてやったものだろう。
ちょっとくらい、
しばらくあれこれ文面を考えていた脩子だったが、やがては先人(というか未来人)の句を借りることに決める。
自分ではろくな文言を思いつかなかったのだから、これはもう仕方がない。
〝三千世界の
烏が鳴き始めるよりも早くに、帰って行ってしまうあなたへ。
この世の全ての烏を全て殺してでも、あなたとゆっくり朝を迎えたいものだ。
そんな意味にも取れるこの
これならさすがに、光る君も面食らうに違いないと、脩子は一人ほくそ笑む。
せいぜいこれを見て、赤面でもするがいい──などと、この時は思っていたのだが。
それは、三日夜の儀礼が終わってすぐのこと。
脩子は
引越し先は、光る君の所有する二条院だった。
「ただの意趣返しの冗句を、本気にする奴があるか!」
脩子がそう叫んだのは、言うまでもない。
fin. (約110,000字)
数ある作品の中から見つけてくださり、また、完結までお付き合いくださり、本当にありがとうございました!!
以下は、読んでも読まなくてもいい後書きとなっております。
よろしければ、ページ下部までスクロールしていただき、☆☆☆にて評価をいただければ、大変励みになります!!
【以下、後書き的なもの】
はてさて、唐突なのですが。
私のペンネームではなく本名は、『源氏物語』の紫の上に由来しています。
姉妹の名も、他の源氏の女君に
そういうこともあってか、小学生の頃には『あさきゆめみし』を、穴が空くほど読み込んでいました。
ですが、よくよく考えてみると。
『源氏物語』における紫の上は、決して幸福な人物としては、描かれていないのです。
彼女は、
血筋としては、申し分ありません。
ですが、父・
彼女は名実共に、源氏の正妻
その晩年も、けっこう可哀想というか、悲惨なものです。
『よっしゃ。紫の上の
本作は、そんな私情マシマシの不純な動機から、スタートしたのでありました。
さて、本作において、結末がどうなったのかというと。
若紫ちゃんは無事、現役皇族と一世源氏を養い親としてゲットします。
原作の待遇よりかは、まぁ、幾分かはマシでしょう。やったね!!
一方で、本作では光る君に『暗殺の危険』を添えてみました。
けれど実際のところ、平安貴族の頭の中に『暗殺する』という発想や選択肢は、恐らく無かったに違いありません。
何故なら彼らは、心の底から、
それこそ、死刑制度そのものは存在するにも関わらず、朝廷による死刑の執行は、350年ものあいだ途絶えていたくらいです。
だからこそ、
だって、殺すと怨霊になっちゃうから。
彼らにとって怨霊とは、確かに身近に存在して、自分たちの生命を
さて、ここでいう怨霊とは、深い
とりわけ、『生前に知名度が高い人 』であったり『政治のいざこざに巻き込まれて、死に追いやられてしまった人 』は、この怨霊になりやすい。
つまり、いくら目の上のたんこぶだからといって、光源氏を暗殺するというのは、
だからこそ、
それが、当時の文化や習俗、史実を踏まえた見方です。
多分、リアルではそっち。
でも、それじゃあフィクションとして面白くないよね、と。
だから、あえて本作では、光る君に対し「暗殺の可能性」を身にまとわせてみました。
ぶっちゃけ筆者は、『源氏物語』の研究者どころか、日本文学専攻卒ですらありません。
フィクションだと割り切って、あえて創作した部分もあれば、勉強不足で間違ってしまっている部分もあるのでしょう。それも込み込みで、創作物語としてお楽しみいただければ、と思います。
私は、キャラクター小説/ライト文芸というものに挑戦したのは、本作が初めてでした。ですが、振り返ってみれば、総じて楽しく書くことが出来たと思います。
書き手が詰め込んだ「楽しい!」を、読者の皆さまにも共有することが出来たなら、これに勝る喜びはありません。
また余談にはなりますが、本作は『カクヨムコンテスト10』の【ライト文芸部門】に参加しております。
ご存じの方も多いかとは思いますが、カクヨムコンは【読者選考】を突破できなければ、話になりません。
重ね重ねにはなりますが、評価や感想、レビューなど頂ければ、たいへん励みになります。何とぞ、ご支援いただければと思います!!!
改めまして、最後までお付き合いくだだり、ありがとうございました!!
伊井野いと
藤壺の宮は〝物の怪のせい〟にしたくない【源氏物語あや解き異聞】 伊井野いと@『祓い屋令嬢3巻』2月発売 @purple0421
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