第6話 植物モンスターって、つまり食物繊維だよね!

 この森で暮らすようになってから、ずっとウサギとスライムしか食べていない。

 ほかの魔物も食べたいなぁ。出てこないかなぁ。

 そう願ったのに出てきたのはウサギでした。


 はあ……君のお肉はもうとっくに食べ飽きたのよね。

 けれど生き延びるには好き嫌いを言ってられない。

 食べなきゃ。

 逃げるな待てー。


 私はやる気なくウサギを追いかける。

 すると茂みの中から触手みたいななにかがニュッと伸びてきて、ウサギに絡みついたではないか。

 そんなに食べたかったわけじゃないけど、横取りされると腹が立つ。


「返してください!」


 私は触手が消えた先に向かう。

 そこで待ち構えていたのは植物だった。

 いや、森の中だから植物だらけなんだけど。

 そいつは明らかに、ほかと違った。


 まず目についたのは私よりも大きなつぼみ。

 どれほど見事が花が咲くのだろう。そう思っていたら、つぼみが開いた。そして現われたのは花ではなく、口だった。

 花びらに似ている二枚のそれは、上顎と下顎だ。私なんか簡単に丸呑みできそう。


 食虫植物。

 その単語が頭に浮かんだけど、このサイズの植物が虫ごときで満足できるのだろうか?

 私の疑問に答えるように、緑色の触手が、さっきのウサギを口の中に運ぶ。

 二枚の顎が閉じ、ウサギを閉じ込めた。

 そして硫黄のような匂いがたちこめる。

 顎の隙間から黄色い粘液がこぼれ落ちた。

 再び口が開かれると、ウサギは跡形もなく消えていた。

 骨も残さず消化されてしまったのだ。

 恐るべき溶解能力。

 食肉植物とでも呼べばいいだろうか。


 触手は一本だけでなく、食肉植物を囲むように何本も地面から生えており、しなやかに蠢いている。

 今まで遭遇した魔物の中で、ぶっちぎりに強い。たんに体が大きいだけでなく、魔力も相応に膨大だ。


 ところが私は恐れを感じなかった。

 それよりも食欲が勝る。

 まだ食べたことがない魔物の出現に、私の心と胃袋が躍っている。


「食物繊維ぃぃぃぃぃぃっ!」


 私は雄叫びをあげながら植物に突っ込んでいった。

 触手たちが一瞬、怯んだように固まる。

 その隙をついて、私は触手の根元に噛みついた。


「うまぁぁぁぁいっ!」


 新鮮なサラダはドレッシングがなくてもいけるのよ!

 さあ二本目!

 ぬっ!? 絡みついてきやがったっ!

 野菜の分際で生意気な。

 こうなったら内側から食ってやる。

 さあ私をその口で飲み込むがいい。

 聖女の回復速度を舐めるなよ。溶けるより早く治るんじゃい。

 うおおおおおっ、お野菜食べ放題ぃぃぃぃっ!

 ムシャムシャムシャムシャ!

 顎を食い破って穴を開けてやったぞぉぉぉぉっ!

 次は茎を噛み千切ってやるぅぅぅぅっ!


《ケモノトリグサから『スキル:溶解液』をラーニングしました》

《説明。溶解液とは、酸性の液体を作るスキルです》


 魔力が増えたし、スキルをゲットしたし、食物繊維を摂取したし、今日の食事は最高だね。

 さて、溶解液スキルをどう活用しよう?

 とりあえず、手のひらから発射してみよう。

 ぴゅっぴゅっ。

 おお、葉っぱとか草が簡単に溶けちゃう。

 これを応用して、服だけ溶かすスライムなんか作れないかな……むっ? 発想がオッサンくさいぞ。私は前世も今世も女だから! ただちょっとネットに入り浸るオタクなだけだから!

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