第32話 お父様だぁぁぁ!
「リリアンヌ。お前はよくできた娘だが、王族としては実に不真面目だ。ワシがせっかくお前に相応しい結婚相手を見つけても全て断りおって。おまけに王宮を抜け出して冒険者稼業などに精を出して……」
「あら。冒険者として活動した王族は、なにも私が最初というわけではありません。それに自分で言うのもなんですが、私が最前線で魔物を狩ることで、王家の人気はうなぎ登りですよ」
「分かっている。だから続けさせている。だが……なにも冒険者ギルドで恋人まで見つけることはないだろう! ハロルドは有能な男だが……平民の出だぞ!?」
「どんな貴族でも、ずっと遡れば平民でしょう。なにかの功績によって貴族になるのです。この国は信賞必罰を大切にしてきました。お父様がなにを言おうとも、ハロルド様をいつまでも騎士のままにしておくのは難しいですよ」
「くぅ……お前の望み通りにさせんぞ。そう簡単に爵位はやらん。金とか、別の勲章とか、風車や水車の管理権とか、軍の要職とか、そういうのを与え続けて誤魔化してやるからな!」
「ハロルドはそんな誤魔化しが通用しないほどの冒険者になりますよ。うふふふ」
王様とリリアンヌ様の視線がぶつかり合い、火花が散る。バチバチ。
しかし王様ってのは、人に色んなものを配れるんだなぁ。
「陛下。私は冒険者になりたいのですが、以前、ギルドに行ったら入団試験を受けさせてもらえませんでした。弱そうな子供だからというのが理由です。なので『私が強い』と一発で冒険者ギルドの人たちが納得してくれるようなものが欲しいのですが」
私がそう語ると、リリアンヌ様が反応した。
「入団拒否ですか。懐かしいですね。私が登録しようとしたときも、かなり渋られました」
「へえ。どうやって認めさせたんですか?」
「一ヶ月ほど通い詰めて、受付嬢さんたちを妹扱いし続けたら『もう勘弁してください』って泣かれて……それで通りましたね」
新手の妖怪かよ。
「すると、私も一ヶ月くらい受付嬢さんたちを『お姉ちゃん扱い』したら、なんとかなりますかね?」
「クラーラ。それはおそらく受付嬢たちを喜ばせるだけだぞ」
王様は呆れ気味に言う。
「そうですよ。クラーラさんにお姉ちゃんって呼ばれて喜ばない女性がこの世にいるものですか。そもそもクラーラさんは私の妹なんですから、ほかの人をお姉ちゃんって呼んでは駄目ですよ」
この人、なにを真顔で言ってんだ。
「済まんな、クラーラ。娘が迷惑をかけたらしい……」
「陛下、深々と頭を下げないでください! 国王ともあろう人が、駄目です! それに、リリアンヌ様に妹扱いされるのは、そこまで嫌じゃありませんから。うっすらと嫌なだけです」
「うっすらと嫌なんですか!? うぅ……でも諦めません!」
ときには諦めるのも大切だと思う。
王様はリリアンヌ様にジト目を向ける。娘を見る目じゃない。変態を見る目だ。
「それにしても……強いと一目で分かるものか。国家功労勲章を見せても、それが魔物討伐で得たものとは分からんからな……よし、では新しい勲章を制定しよう。強き者に与える勲章だと広く宣伝しよう。それをギルドに持っていけば、門前払いはされまい」
「私のために新しい勲章を作るんですか!?」
イチゴはくれなかったのに。
「もともと必要だと思っていたのだ。兵士の武勲に報いるための勲章は何種類もあるが……純粋に強さを讃える勲章もあるべきだろう」
は~~。
王様の権限ってのは凄いな~~。
「なりません、陛下!」
突然、男性の叫び声が聞こえた。
私はその声に、とても聞き覚えがある。
ハロルド様ではない。私に怯える木こりでもない。
この声は――。
「お父様!」
私は椅子から立ち上がって振り返る。
お父様だ、間違いない。お父様だ、お父様だ、お父様だ!
「お父様ぁぁぁぁぁっ、会いたかったぁぁぁぁぁっ!」
「クラぁぁぁぁラぁぁぁぁぁアアアアア! 私も会いたかったぞぉぉぉぉぉぉッ!」
こっちに向かって走ってくる三十代半ばくらいの細身の男性。格好いい軍服を着ている彼こそ、私のお父様。エヴァン・リンフィールド男爵なのです!
私もお父様に走り寄って、胸に飛び込んだ。
お父様はそれを優しく抱きとめ、くるくると回転。
「お父様だぁ……やっと会えたぁ……」
「ああ、クラーラ……ずっと森をさまよっていたらしいな。見つけてやれず、済まなかった……そして、こうして帰ってきてくれてありがとう……! しかも自分の力で走って私に飛びついてくるなんて……あのクラーラが! 強くなったなぁ!」
「はい、私、強くなりました!」
「しかぁし! 冒険者になるなんて私は認めないぞ!」
お父様は私の瞳を覗き込み、真剣な表情で言った。
「どうしてですか!?」
「当たり前だろう。一年も行方不明だった娘が見つかった。その報を受け、仕事を大急ぎで片付けて帰ってきた。そうしたら……冒険者になりたいだって!? なぜそうなる! ずっと家にいなさい! 私もこれからは仕事で王都を離れる回数を減らしてもらう。ずっと一緒にいようじゃないか。いっそ仕事を辞めてもいい!」
「エヴァンに辞められたら困るんだけど……」
国王が小さく呟く。
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