第31話 王様からご褒美をもらえるらしい
私は今、リリアンヌ様と、それからお髭と筋肉が立派なオジサマの三人で、お茶会をしている。
いや、本当に立派。服の上からでも筋肉の形が分かる。
このマッチョなオジサマが国王陛下。つまりリリアンヌ様のお父様。
正直、似てないなぁ。
それと、王様と会うっていうから、謁見の間みたいな偉そうな場所をイメージして身構えていた。けれど、ここは王宮の庭。
考えてみると、王様だって玉座から動くし、別の場所で人に会うことだってある。ずっと同じ椅子に座ってたら運動不足になっちゃうよ。
謁見の間じゃなくて助かった。
私の礼儀作法は未熟ですので。
あんまり物々しい雰囲気だと、緊張して更に無礼を働いちゃうよ。
それにしても、なぜ私は王様のお茶会にお呼ばれしたのだろう。
こんな迫力あるオジサマと一緒にお茶を飲むなんて、謁見の間じゃなくても緊張しますぜ。
って、あれ?
もしかして王様も緊張してる?
ティーカップを持つ手が震えてるけど……目も泳いでるし……なにゆえ?
「リリアンヌよ……この少女が本当に『野生の聖女』なのか?」
「ええ、そうですよ、お父様」
「さまよう黒騎士や暗黒竜を倒したり、ゴブリン・ロードの生肉を食べたりしたという、あの……?」
「黒騎士と暗黒竜の件には立ち合っていませんが、クラーラさんがロードの生肉を食べるところをこの目で見ました」
「こんなに可愛いのに……君、ワシのこと食べたりしないよね?」
陛下は私を疑わしそうに見る。
「食べません! 野生の聖女の噂には、人間を食べたってのもあるんですか!?」
私はつい声を荒げてしまう。
でも仕方ないじゃん。こんなマッチョなオジサマに「食べないでくださーい」的なこと言われたら、ツッコみたくなりますよ。
「そういうのはないが……魔物の生肉を食べるんだから、人間も食べるかもしれんし……」
「むぅ。そんなに私が怖いなら、帰らせていただきます」
「ま、待て。済まなかった。リリアンヌが君を信頼しているのだ。ならばワシも信頼しよう……火を吐いたりしないでね?」
「しませんってば……そもそも私にどんなご用なんですか?」
ゴリラみたいなマッチョが私を見て、生まれたての子鹿みたいにプルプル震えている。
私がしてきたことってそんなに怖いか?
「そりゃあ、君。会わぬわけにはいかんだろう。君は黒騎士の剣を受け継ぎ、暗黒竜を倒し、ゴブリン・ロードから我が娘を救い、サラマンダーも倒した。昨日は剣聖ハロルドでさえ倒せなかった悪霊から王都を守ってくれた。君は英雄なのだよ。自覚がないのかね?」
「あ、ありませんでした……」
そうやって並べられると、私の功績、凄いな。
「国王であるワシが直接ねぎらうに値する。そして同時に、どのような人物か、この目で確かめる必要がある。なにせ君は、奇声を上げながら木こりを追い回したり、地面から急に生えてきて村人を泣かせたり、魔物の生肉を食べたり、熊の毛皮……というか生皮をかぶってウロついたり、話だけ聞いていると、人間とは到底思えんからな。そんな奴が剣聖さえ超える戦闘力を持っているなど、国防に影響することだ」
そうやって並べられると、私の奇行、酷いな!
マッチョの国王だって怯えますよ。
「しかし、こうして実際に会ってみて理解した。君は理性ある人間だ」
人間扱いしてくれてありがと~~。
「そもそも君はエヴァン・リンフィールド男爵の娘なのだろう? 本来なら恐れる必要などないのだ。今度エヴァンに、娘を疑ったことを謝らなくてはな」
「お父様をご存じなんですか?」
「もちろんだ。エヴァンはワシが最も頼りにしている男だぞ」
へえ~~。お父様、そんなに頼りにされてるんだ。凄いじゃん。
お父様って軍のお仕事してるのよね。でも、お父様はスリムな体型で、あんまり強そうじゃない。詳しいことを教えてくれないけど、多分、事務とかしてるんだと思う。
王様から頼りにされるレベルだから、きっと抜群の事務処理能力なのね。
お父様がいれば足りない物資がすぐ分かるし、どう調達すればいいかバシッと計画書を作っちゃう、みたいな。うーん、格好いい!
「ところで、クラーラよ。なにか欲しいものはないか?」
「欲しいものですか……? とりあえず、お父様に会いたいです」
「ああ、うむ。いずれ王都に帰ってくるから会うといい。そういうのではなく、ワシから君にあげられるものはないかな?」
「陛下から……」
そんなこと急に言われてもなぁ。
私は王様を見つめ、それからテーブルの上を眺める。
今日のお茶会に出されたお菓子はショートケーキ。私、ケーキに乗ってるイチゴを最初に食べちゃう派なんだけど、王様は最後まで取っておく派らしい。まだお皿にイチゴが残っている。
「じゃあ、陛下のイチゴをもらっていいですか?」
「だ、駄目だ! ワシは最後にイチゴを食べるのを楽しみにしているのだ! それに、これはリリアンヌが作ってくれたケーキ。ちゃんとワシが食べる。君には君の分があるだろう!」
ガチ目に拒否られた。
そしてこれはリリアンヌ様が作ったショートケーキだったのか。
美人で優しくておっぱい大きくてお菓子作りもできるとか凄いな。
赤の他人を妹にしたがる要素がなかったら本当に完璧超人だ。
「クラーラさん。陛下は、あなたの功績に対して報いたいんですよ」
「そういうことだ。暗黒竜を倒したり、悪霊から王都を守ったりしたのだ。なにも褒美をやらなかったら、フォルステア王家の名折れというものだ」
ああ、そういうあれか。
だとすれば、ますます迷うなぁ。なにを要求していいのやら。
「普通だと、どういうものをもらうのが一般的なんですか? というか、私は陛下の命令で戦ったんじゃなくて、勝手に魔物を倒しただけですけど。それでもご褒美をもらえるんですか?」
「ふむ。君の功績は魔物討伐だ。普通、魔物を倒すような人間は、軍隊か冒険者ギルドに所属していて、そこから報酬をもらう。しかし、その働きが国家への貢献であると特に認められた場合は、王の名の下に報奨を与えることになっている。一般的なのは、勲章だな。国家功労勲章というのがある」
「そのまんまな名前ですね」
「最初は、もっと捻ろうとしたらしい。有名な軍人とか発明家の名前からとった名前が候補だった。だが、分かりにくいのではという意見が出て、それで今の名前になったと聞いたな」
なるほど。
言われてみると、地球の勲章でも、名前が格好いいけど具体的にどんな功績でもらった勲章か分からないのあったなぁ。「俺、コンパニオン・オブ・オナー勲章持ってるんだよね」とかドヤっても、ギャルは理解してくれない。やはり分かりやすさが一番だ。
「じゃあ国家功労勲章ください」
「うむ。当然、与える。しかし君の功績が大きすぎて、それだけでは足りんのだ」
「足りんってことあるんですか」
「功績ある者にはそれに相応しい褒美を与え、罪を犯した者には罰を与える。信賞必罰を守らないと、臣下の心が王から離れていくのだ。というわけで、勲章のほかにも、なにかもらってくれないと困る」
報酬をもらえなくて困ったという話はたまに聞くけど、もらってくれないと困るってこともあるのか。
「うふふ。信賞必罰、いいですよね。ハロルド様も魔物を倒しすぎて、勲章だけでなく騎士爵を得ましたからね。この調子で強くなって功績を重ねれば、もっと高い爵位を与える必要が出ます。いずれ、王女と結婚しても不自然ではない爵位になるでしょうね」
リリアンヌ様が愉快そうに言うと、逆に王様はムスッとした顔になる。
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