第41話 二次試験
「あ、おかわりが歩いて来た! ふんっ!」
「ひぃっ!」
試験官は私から離れていく。顔の割りに繊細な人なのね。
「私はただウサギの首を切っただけなのに……この程度、冒険者なら日常茶飯事なのでは?」
「お前みたいに小さい子供がやってると未知の怖さがあるんだよ! 血を拭け! 返り血が凄いぞ!」
「返り血!」
やだ、もう、私ったらはしたない。
急いで洗い流さなきゃ。
全身から水魔法ドババババ!
「うわぁっ、なんだ、それ! 汗か!?」
「水魔法です」
「知り合いに魔法師が何人かいるけど、そんな水魔法の使い方してる奴はいねぇぞ……」
「お風呂とお洗濯が同時に終わって便利ですよ」
「そうか……あんまり人前でやらないほうがいいぞ……」
哀れまれた……やはりズボラすぎたか……。
前世で「服を着たまま風呂に入れば一石二鳥じゃん!」って実行したら、お母さんに「あんた社会人にもなってなにやってるの!」って鬼のように叱られたのを思い出す。お父さんにも「こいつに一人暮らしはさせられねぇな」って呆れられたし。
でも転生した私は、森で一年間も一人で暮らしたんだから、一人暮らしに向いてると思うんだ。
なんてことを考えながら、私が五匹目のウサギを食べ終えると、太陽が真上に来た。
一次試験、終了の時間だ。
受験生は三十人くらいいたけど、半分は脱落した感じだ。次回頑張って!
「よーし。今ここにいない奴は失格な」
「あの、試験官……その辺に白骨死体が散乱しているのですが……これはまさか試験で犠牲になった過去の参加者では……!?」
「いや、違う。あいつに食べられた哀れな魔物の骨だ」
試験官は私を指さす。
ちなみに私は六匹目を食べてる最中。だって待ってたらお腹空いたんだもん。
「凄い……本当に魔物を食べている!」
「でも生肉じゃないな……焼いてる……」
「野生の聖女が生肉を食べているところを生で見たかった」
「肉を焼いて食べるとか、思ったより人間なんだな……」
なんでガッカリされなきゃいけないんですかね。
釈然としないものを感じながら、二次試験の会場へ移動。
「この洞窟はゴブリンの巣だ。ギルドに討伐依頼が来たんだが、せっかくだから試験に利用させてもらう。お前ら、一人三匹ずつ倒せ。そして倒したことを証明するため心臓を集めろ。いいか、ほかの内臓は駄目だ。心臓だぞ」
「えー。つまりバラさなきゃ駄目ってことか。汚いのやだなー」
受験生の一人が呟く。
すると試験官が眉をつり上げた。
「バカか! 冒険者ってのは汚れてなんぼだろ。魔物の特定の部位を集める仕事は珍しくないんだ。汚れるのが嫌なら今すぐ家に帰れ!」
試験官に怒られた人はシュンと大人しくなる。
やはり冒険者は辛い仕事なのだ。
でも私なら大丈夫。
ここは一つ、やる気をアピールしておこうか。
「ふふん。その点、私は熊の皮を剥がして服の代わりにしていましたからね。汚いのには慣れています。冒険者の資質、バッチリですね」
「汚きゃいいってものでもねーぞ」
オデ……褒めて欲しい……。
「とにかく、お前ら、洞窟の奥に進め。ゴブリンは五十匹以上いる。椅子取りゲームにはならねーから、そこは安心しろ。あとお前らが余したゴブリンは俺が倒す。試験は大事だが、依頼も疎かにできねーからな」
おお、プロ意識が高い。
顔は大雑把なのに几帳面。さすが試験官に選ばれるだけのことはある。
受験者のみんなは自分が合格することで頭が一杯なのか、緊張した表情ばかりだ。依頼に心を傾ける余裕はなさそう。
「ゴ、ゴブリンなんてどこにもいないじゃん……」
「俺らにビビって隠れてるんじゃねーのか……」
洞窟を進むと、開けた場所に出た。
ゴツゴツと起伏に富んでいて、待ち伏せには最適って感じ。
受験者たちもそれが分かるから、なかなか前に進もうとしない。
「お前ら、慎重なのはいいことだ。考えなしよりはずっといいぜ。けどな、ゴブリン相手にビビって動けない奴が冒険者になれんのか? 魔法師はなんのためにいるんだ? こういうときに前衛の突撃を助けるんじゃないのか?」
試験官の指摘で、みんなの空気が変わる。
そして魔法師の何人かが頷き合い、同時に魔法を放った。
それは空中で弾け、無数の火の玉となって飛び散る。
一つ一つは大した火力じゃない。
でも、いきなり頭上に火の玉が落ちてきたら、誰だってビックリする。ゴブリンも例外じゃない。
キーキーと叫びながら、岩陰から飛び出してきた。
「おら、お前ら行け!」
試験官の発破と共に、受験者たちが突撃する。
ゴブリンは基本的に弱い。待ち伏せをするような小賢しさはあるが、逆にいえば、それを封じてしまえば一般人でも倒せる。
「ふふふ。この調子だと、全員合格しそうですね」
私は試験官に話しかけた。
「一次試験を突破できる奴なら、ゴブリンくらい倒せて当然だ。あとは度胸の問題。そうは言っても、油断は禁物だ。ゴブリンたちは最初のパニックから脱している。あいつら、群れで戦うの上手いからな……戦いながら心臓を抜き取ろうとしちゃ駄目だ。まず全員で協力して全滅させてから、ゆっくりやるんだよ」
「なるほど。初対面の人と咄嗟に連携できるかも見てるんですね」
「そういうこった。ところで野生の聖女さんは戦わないのか?」
「私はもう心臓三つ集めたので」
両手でゴブリンの心臓をムニムニ。
「いつの間に……まあ、いいか。お前さんが本格的に参戦したら、試験にならねぇからな」
「そう思って、ここで観戦モードになってるんです。気をつかってるんですよ」
「本当にかぁ?」
「本当にです!」
本当に本当だからね。
あと、訳知り顔で後方腕組み観戦するのに憧れていたってのもある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます