第11話 黒騎士の聖堂
黒騎士とは、百年ほど前に活躍した剣士が有していたギフトだ。
数多くの魔物を倒して、大勢の人々を救った。
前例のないギフトであり、本人も黒騎士と名乗るのを好んだことから、黒騎士は彼個人を指す言葉となった。
黒騎士は、別に他人を救うのが趣味だったわけではない。
たんに強い魔物と戦うのが好きだった。それが結果的に大勢を助けただけだ。
それでも、助けた事実は変わらない。
彼を慕う人々は多く、黒騎士がそれを煩わしく思おうとも、数はドンドン増えていった。
黒騎士は指導者になることを周りから望まれた。あちこちの剣術道場から誘いがあったし、国の兵士の指南役になってくれとも言われた。
だが黒騎士はマイペースに魔物と戦い続け、そして、生涯最後の戦いに臨んだ。
その相手は、暗黒竜と呼ばれる魔物。
三つの町を滅ぼすという暴虐を行い、多額の懸賞金をかけられていた。腕に覚えのある冒険者たちが挑み、誰も生きて帰ってこなかった。
国の騎士団が動いたが、それでも討伐できなかった。
もはや倒す手段はないのか。
被害が広がるのを指をくわえて見つめ、暗黒竜がどこかに去るのを待つしかないのか。
そんな絶望が広がった。
黒騎士は世の絶望などお構いなしに、暗黒竜に単独で挑んだ。
無論、みんなを助けるためではない。
強いなら戦ってみたい。名前に黒が入っていて自分と被るからムカつく。そんな理由だった。
戦いは最初、互角だった。
しかし暗黒竜は凄まじい生命力を誇り、いくら傷をつけても再生してしまう。
次第に黒騎士は劣勢になり、死が眼前に迫ってきた。
ずっと勝ち続けたのに、最後に負けて終わる――黒騎士はそんな人生をよしとしなかった。
自分の命を犠牲にして封印の護符を発動させ、暗黒竜を森の奥深くに縛ったのだ。
ただ負けるのは嫌だ。どうせ死ぬなら嫌がらせしてやる。
黒騎士自身の想いは、そんな子供じみた悪あがきでしかなかった。しかし結果的に暗黒竜の脅威を取り除いた。
本人の心の内など、周囲からすれば知ったことではない。
黒騎士は命を犠牲にしてみんなを救った英雄。そういう物語を作り出して、勝手に盛り上がった。
ついには黒騎士を祀る聖堂まで建ててしまう。
百年以上経った今でも、剣術を極めようとする者たちが訪れ「黒騎士のように他人のために戦う立派な戦士になる」と静かに祈りを捧げている。
そんな黒騎士の聖堂が、今日は騒がしかった。
神官たちが日々の業務をしている前に、突然、白いモヤが現われ、髭面の中年の姿を形作ったのだ。
それは黒騎士の石像にそっくりだった。
「もしや、黒騎士様では」と神官たちが思っていると「あー、俺、黒騎士の幽霊だけど」とモヤが名乗った。
「や、やはり! 私たちの日々の祈りが届き、お姿を見せてくださったのですね!」
「いや。祈りとか知らん。俺、暗黒竜を封印した森でずっと地縛霊をやってたんだけど、いよいよ昇天することにしたから、挨拶に来たんだ」
「昇天ですか……? 天に召されるのは祝うべきことですが、暗黒竜は黒騎士様の魂を楔にして封印していたのでは? 黒騎士様が昇天したら……」
「ああ、そうだな。暗黒竜の封印は解かれる」
黒騎士がそう答えると、神官たちに動揺が広がる。
「あ、暗黒竜はあなた様でさえ倒しきれなかった相手! 解き放たれては困ります!」
「そう言われてもな。俺は百年も封印したんだぞ。十分頑張ったほうだろ。ぼんやりした意識のまま骸骨を続けるのは退屈なんだよ。俺はもともと誰かを助けたくて暗黒竜と戦ったんじゃない。戦いたいから戦っただけだ。お前らが俺に幻想を抱くのは勝手だが、俺がそれに従う義務はない」
「そんな……無責任ではありませんか!?」
「だから俺に本来、責任なんてなんだっての。こうやって教えに来ただけ、ありがたいと思え。あと、暗黒竜に対して、全く無策ってわけじゃない。俺の代わりに倒してくれそうな奴を見つけた。だから俺は昇天することにしたんだ」
「おお!? それは何者ですか? もしや剣聖ですか!?」
「当代の剣聖とか知らんし。なんか小さい女の子だ。十歳くらいの」
「……十歳くらいの女の子? それがどうして暗黒竜を倒せそうなのですか!?」
「だって、その子。急に現われて俺の骸骨と戦い初めてな。意識がボンヤリしていたから詳しいところまでは覚えていないが、何度負けても立ち向かってきた。凄い勢いで成長して、ついに俺を倒しやがった。倒して終わりじゃなく、変な魔法で俺の骸骨を修復して、また何度も戦い始めた。俺も生前、色々やったが……あの子は輪をかけて執念深いな。強くなるためなら、なんでもやるって感じだ」
「骸骨を修復? つまりアンデッドを回復する魔法……そんな魔法が存在するのですか?」
「知らんよ。俺、魔法詳しくないし。とにかく、その女の子は俺の全盛期より強くなった。暗黒竜にも勝てるだろ。多分」
「多分って……その子が暗黒竜と戦ってくれる保証は?」
「ない。どうしても戦って欲しいなら、お前らが探し出して説得すれば?」
「そ、その子の特徴を教えていただけませんか……?」
「あー……淡い金髪で、小さくて、ふわふわした印象で……とにかく美少女だった。ありゃ何年か経てば凄い美人になるな。俺は負けるのは嫌いだが、ああいう美少女にボコられるのは……ご褒美だな! できればもっとボンキュッボンな大人に成長してからボコりに来て欲しかったが、贅沢は言ってられねぇ」
「あの……それだけでは探しようが……もっとこう、特殊なオーラをまとっているとか、体に紋章が刻まれているとか……」
「知らん。メッチャ美少女なのを除けば、ただの女の子だ。頑張って探せ。それじゃ、俺は昇天するから。がんばれよー」
そう言って黒騎士の幽霊は消えてしまった。
神官たちは唖然として固まった。が、いつまでも固まってはいられない。
とにかく、暗黒竜が復活するらしいというのを王宮に知らせなくては。
「それと! 黒騎士様があんな無責任な奴だったというのは、我らだけの秘密だ! 聖堂への寄付金が減るからな……絶対に漏らすなよ!」
「「「はいっ!」」」
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