6通目 そういうものにわたしはなりたい

拝啓 宮沢賢治様


 こたつの魔法がよりいっそう強まる季節となりました。先生におかれましては、いかがおすごしでしょうか?



 先生、まただめでした。

 だめだったというのは、小説の公募でいい結果が出せなかったということです。

 


 悲しいというよりむなしいというか、変な感じです。そう、私は悔しいだと思います。たぶん日本語的には悔しいというジャンルに入る感情です。


 先生も、同じような感情をもったことがありますか?

 先生は、物語をつくってそれを発表した時、やはり評価など気にされたのでしょうか。



 なにもかも放っておいて、ただ仕事と子育てと、読書とゲームやり放題で一日を過ごせたのならば、それはどのくらい楽で、楽しいのだろうと考えない日はありません。



 けれども、そのような一日を送ってみたところで、私は楽しいどころか、不安になってしまうのです。



「こんなことしている場合ではない」と思って再び、空想の世界へ迷いこんでしまうのです。



 馬鹿だなあと思いますか?

 プロの小説家でもなんでもないくせに、変だなあって思いますか?



 先生も、同じ経験をされたことありますか?

 もし、あるのならば私はうれしいと思います。

 なんて、身勝手ですね。


 

 もうすぐ一年が終わってしまいます。

 この一年間、いったい何をしていたのだろうと途方にくれることもあります。



 でも、一つ気がつきました。

 私は児童文学を目指しているようです。


 なのに、今年応募した先は児童文学ではありませんでした。




 え?


 なに言ってるかわからない?



 私も激しく同感です。



 新人賞というものが、デビューしたばかりの「新人」が応募する賞だと長年思っていました。



 ちがうみたいです。



 途中気がついて、応募先を変えたのですけど……。本当に何をやっているのでしょうね。



 たぶん、私は迷っていたのだと思います。

 何を書きたいのか。何を伝えたいのか。

 決めていたようで、実は何一つ決めていなかったのです。



 では、この一年は無駄だったのか。

 そうは思いません。



 迷ったからこそ、見えてくる場所はあります。



 それから、私は色んなことにチャレンジしたいと思います。ジャンルに囚われないで。

 楽しそうだなと心が向く方に、行ってみたいのです。



 だって、人生は一度きりですから。





 では、私はどんな物語をつくりたいのか……。


 


 先生、私は先生の物語が大好きです。

 幼いころから何度も、何度も読んできました。




 先生が評価されたのが、没後と知ったのは私が大学生のころでした。本格的に「宮沢賢治」という作家を勉強して、知ってしまった事実でした。


 それは、私にとてつもない衝撃をあたえました。

 こんなに、すばらしい物語を書く人がどうして。先生がご存命の時に……。


 と、ここまで書いて、先生はそんな名誉など気にしないであろうと思えてきました。



 話がそれてしまいましたね。

 私はどんな物語が書きたいのか。それは、やはり、もちろん先生が残されたような物語を書きたいのです。



 先生が残された物語は、うつくしく、面白く、時にさみしく、そしてあたたかい物語です。



 物語の宛先は、子どもたちでしょう。子どもたちにとって、大切なのは物語であって作家ではありません。


 私をふくめ、たくさんの子どもたちが、先生の物語を読んで、物語を大切に大切に心の中の宝石箱にとっておいていたのでしょう。


 子どもが大人になり、大人が子どもへ繋いで、繋いで、繋いで……。


 これが長く大切にされ、愛される物語なのだと思います。



 時を超えて先生に会うことが出来るということは、なんと幸せなことでしょうか。



 私も、そんな物語を残したいと思いました。



 先生、今日も話を聞いてくださりありがとうございました。

 また本をひらいて、何度でもひらいて、先生に会いにいきます。


 ですから、結びの言葉はこうしたいと思います。

 

 また、本で会いましょう。



                                       敬具

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拝啓、宮沢賢治様 あまくに みか @amamika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画