丸く、湿った、黒い穴に落ちていった。
あっと、思った時には
ゆっくり落ちていく様子が見えたのに、
手を伸ばした時には、一瞬で姿が消えていった。
音がしない。
上から小さな黒い穴をのぞき込む。
落ちたはずなのに、金属音の高い音すらしなかった。
まずい。
非常にまずい。
私は慌てて、賃貸アパートの24時間サポートセンターに電話した。
この24時間サポートセンターというのは、
大変頼りになる存在で、
先日シャワーの水が止まらなくなって困っていた時も的確な指示で水を止める方法を教えてくれたのだ。
『あの……すみません』
私は大変情けない声をスマホ越しにあげた。
『どうされましたか?』
電話口のお兄さんは、ハキハキと答えてくれる。
『洗面所の排水溝に……落としてしまいまして……』
なにを
とはやはり言わなければならないのだろうか…。
『なにを落とされましたか?』
やはり尋ねられた。
えーっと、えーっと
毛抜きなんですけれど
『ピンセットです』
私はごまかした。
毛抜きもピンセットも変わらないだろう。
ナイス変換!
ナイスよりのナイス!
すると足元で、息子がこういった
「ママ、ぼくも石落とした。そこに」
息子よ……なぜ、今言う……。
『あと、石ころも落としました』
もう、正直に言った。
『ピンセットと……石……こっwwろですね』
お兄さん、笑い声を隠せていない。
『ww洗面台の下をみていただきたいのですが…w』
めっちゃ笑うやん、お兄さん。仲良くなれそう。
『排水溝の形を教えていただきたいのですが』
私は洗面台の下をのぞく。
白いホースのようなものが、ウォータースライダーのようにうねり、伸びている。
形…?
どうやって説明すればいいのだ?
小腸にしか見えない。
『えー、えーっと』
小腸みたいだと伝えたら、
絶対このお兄さん笑ってくれるんだろうな
とニヤニヤしつつも、その衝動をおさえる。
『U字みたいですか?』
『そうです!上のUと下のUが合体しています!」
お兄さんの助け船に、私は嬉しくなって説明した。
果たして、Uに上も下もあるのだろうか。
『わかりました!上のUをお客様の方で外せるようになっていますので、おそらく、そこにピンセットとwww石がwwあると思います』
めっちゃツボにはいってるやん。
『ありがとうございます!やってみます!』
『はい、がんばってください!』
『ありがとうございます!』
『失礼します』
そんな感じで、やりとりは終わった。
お兄さんのおかげで、楽しい時間をすごせた。
まだ、ピンセットと石はとれていない。
カクコン、あと少しで終わりと知って宣伝しておきます〜
アホエッセイはこちらです
「なんでもない日の妻ですけれど」
https://kakuyomu.jp/works/16818093090256972388
よろしくです〜