第一章 少年期-学園入学編

第11話 入学式

【創世歴674年 竪琴たてごとの月(4月) 5日】


オルフェンは自室の姿見の前に立つ。

鏡の中には、白を基調とし、薔薇の意匠が施された制服を着た自分の姿。

服装におかしなところがないか確認して、額から左目辺りまで伸びている傷跡をそっと触る。

5年前、木の魔物に襲われた際についた傷跡だ。もうすっかり塞がってはいるが跡は残ってしまった。


「オルフェン、レイン、準備できたか~?」

「おう」

リビングから聞こえるジェーンの声に返事をし、通学カバンを掴んでリビングに向かう。


テーブルの上には焼きたてのワッフルとベーコンエッグ、ほかほかのカフェオレが並んでいた。

いつもはパンとジャム、飲み物くらいなのに、前日に買った既製品のようだが新タマネギのサラダまである。

ジェーンが朝食を用意する当番の日は大体何かしら焦がしたり味付けを間違えたりしているが、珍しく今日はちゃんと美味しそうだ。

「お~!似合ってんじゃん!かっこいー」

「だろだろ?」

朝食を用意していたジェーンの言葉に、オルフェンは自慢げな表情を浮かべる。

「ていうかジェーン、今日はちゃんとした朝ご飯じゃん。こないだは消し炭みたいなトーストつくってたのに」

「まあな~。入学後は寮生活だから、次の長期休暇まで一緒に朝食食べることもないからな!今日は一段と気合い入れたんだぜ~!」


「オルフェン、ジェーン、おはよう」

のんびりとした声が聞こえ、そちらを向く。

同じくネージュソリドール学園の真新しい制服を着たレインが、彼女の部屋から出てくるところだった。

真っ白い制服は、彼女の透き通るような肌と銀色の髪によく似合っている。

今朝はその綺麗なロングヘアーを一本の三つ編みにし、結び目に瞳と同じ青いリボンをくくっていた。

「おはよ~!レインもよく似合ってんね!」

「ありがとう。三つ編み、おかしくない?」

「しっかりできてる…と思うぞ。似合ってる」

オルフェンがそう言うと、レインは嬉しそうに笑ってその場でくるりと一回転した。


「改めて二人とも、合格おめでとう!」

朝食を採りながら、ジェーンは二人に祝福の言葉を贈る。

「名門学園の新入生って言っても、入学式が終わった後は三日間レクリエーションだし、あんまり気負わずにな」

「はーい」

「ジェーン、オリエンテーション、って何するの?」

レインの問いにジェーンはふふんと笑う。

「それは始まってからのお楽しみ、かな。まあ、楽しみにしてなよ」



朝食を食べ終わった後、学園指定のカバンを持って二人は玄関へ向かう。

「あ、そうだ!これ渡そうと思ってたんだ」

そういうと、ジェーンは鞘に納められた剣を二本抱えて持ってきた。

「アタシからの入学祝い!これから課外活動とかでダンジョンに行くこともあるからな!」

「え!?これ、本物?」

「偽物じゃ魔物は狩れねえだろ?こっちのオレンジ色の魔石ジェムがはまってんのがオルフェンので、青色がレインのな!」

「ありがとう、ジェーン」

レインは笑って剣を受け取る。

オルフェンも、もう一本の剣を受け取る。

ずしりとしたその重みに、ジェーンからの確かな愛情を感じた。

「…大事に使う。ありがとう!」



ネージュソリドール魔法学園は、ジェーンの住むアパートから歩いて10分程度の場所にある。

オルフェン達と同じく真新しい制服を身に纏い、緊張した面持ちだったり自慢げな表情を浮かべたりした少年少女達が、厳つい門の中へ吸い込まれていく。

オルフェンとレインは顔を見合わせ、同じタイミングで思わず吹き出す。

「なんだよレイン、緊張してんのか?」

「オルフェンだって」

それから笑い合い、互いに頷いて、共に学園の中へ一歩踏み出した。





屋内武道場の中へ通され、入り口で教員に指定された椅子に座ってしばらく待っていると、予定通りの時間にステージ上に一人の老女が現れた。

年の頃は60代後半くらいだろうか。

きっちりと白髪を纏め、魔女のような黒衣を纏い、伸びた背筋と鋭い眼光は彼女がただ者ではないとわかるのに充分だった。


「皆様ごきげんよう。わたくしは当学園の学園長、ブランシュ・アイスバーグです。それでは予定の通り、ただいまから入学式を始めます」


ブランシュ・アイスバーグ。


前もってジェーンから話は聞いていた。


元王国騎士団所属で、一時は副団長にまで上り詰めた優秀な騎士である。

30代の頃、隣国ピンカ王国(現モルドア帝国の従属国)との戦争で怪我をし騎士を引退。その後、カシュリア王国のために自身の資産を投げ打ってこのネージュソリドール魔法学園を設立した、と。


「まずは皆様、ご入学おめでとうございます。当学園、ネージュソリドールは国内最高峰の教育機関。皆様がこの学園で6年間学び、生徒や教員と絆を育んで、私の愛するカシュリアの繁栄を支える人材となることを願っています」


手短に話を終えると、彼女は「それでは」と一礼し壇上から降りる。

代わりに柔和な雰囲気の初老の男性、校長であるジゼル・フランベルジュが登壇する。

彼もまた、王国軍隊で中尉として働いていた経歴を持つ者だ。


「では皆さん。長い話を長々とするのもなんですので。以上で入学式を終わり、レクリエーションに移りましょう。まずは武道場に入ったときに教員から渡されたブレスレットを腕にはめて、不備がないかどうか確認してください」


言われた通り生徒たちがブレスレットをはめると装飾が淡く光りだした。

瞬間、外から轟音が響く。

生徒たちがざわめく中、校長は大きな声で言い放った。



「今から三日間、皆さんには無人島で魔石ジェムを集めてもらいます。この成績によって所属するクラスが決まりますので、皆さん怪我しない程度に頑張ってくださいね~」

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