第12話 無人島上陸
外から響いた轟音の正体は、巨大な飛行船が校庭に着陸した音であった。
入学式の後、生徒たちは促されるまま飛行船に乗り込む。
この飛行船も魔力で動いているため従来の物よりも積載量が多く、教員10名と新入生1500人を乗せても問題なく学園から飛び立った。
「では移動している間に、オリエンテーションの説明をします」
飛行船の中、ジゼル校長は生徒たちに言う。
「今向かっているのは、カシュリア王国の海域に浮かぶヘルゼ島。島全体がダンジョンとなっている特殊な無人島です。皆さんにはカバンはここにおいて置いて、武器のみをもってヘルゼ島に降り立っていただきます。武器を持ってきていない人は貸し出しがあるのでご心配なく。
ルールは簡単。三日間、ヘルゼ島の魔物や自然に生成される
成績上位者の100人はクラス・リュンヌ、その次の400人はクラス・エトワール、その他の1000人はクラス・コメットとなります。入学後、課外授業でダンジョンに行くこともありますが、このクラスによって行先が決まります。
集計する
また、取得した
それに加え不正行為とされるのは、夜間の
皆さんに配ったブレスレットは、皆さんが大怪我をしたり不正な行為を検知すると我々に知らせます。その方は即失格となり、
また、やむを得ない理由でギブアップしたい時はブレスレットを外してください。すぐに我々教員が駆けつけます。ギブアップした場合も失格者同様にその時点で
…と、説明している間に見えてきましたね。あれがヘルゼ島です。
わりと広いでしょ?
最後に、皆さん怪我に気を付けて、無茶だけはしないでくださいね~」
校長の長い話を聞いていると、あっという間に島に着いた。
「我々教員はここで待機していますからね~」
その言葉を背に、生徒たちはぞろぞろと飛行船から降り、島内へ入っていく。
オルフェンとレインも船を降りた。王都はコンクリートの地面ばかりだから、久しぶりに踏む土はなんだか少しノスタルジーだ。
潮風に混じる草木の匂いにも、どこか胸が締め付けられる。
オルフェンは一度だけ深呼吸して、レインの方を見た。
「…さて、と。まず、どうする?」
「うーん。飲み水とごはん見つけたり、寝る場所見つけたり?」
「そうだな。…つっても、水場があっても飲めるやつかどうかわかんねぇし、食いもんならなおさら…」
レインの返答に、オルフェンは腕を組んで首を捻る。
「ねえ、君たち」
不意に背後から話しかけられ、二人は振りかえる。
そこには三人の生徒がいた。
話しかけてきたのは中心にいた、槍を携えた男子生徒。少し長めのライトグリーンの髪が中性的な見た目に拍車をかけているが、オルフェンよりも背が高く骨格もしっかりしていたため、たとえ制服を着ていなくても女子に見間違えることはなかっただろう。
向かって右側には腰に小型ハンマーを提げた女子生徒。ワインレッドの髪を白いリボンでハイツインテールにした愛らしい容姿だが、腕組みをし、値踏みするような表情でオルフェン達を睨んでいる。
そんな彼女とは対照的に、左側にいる深い紫色のおかっぱヘアーの少女は弓と矢筒を抱きしめて、おどおどとあちこちに視線を動かし、一瞬オルフェンと目が合うと、「ぴゃっ」と鳴き声のような悲鳴を上げて、もう一人の少女の背後に隠れた。
ツインテールの少女はちらりとそちらを見、呆れたように小さくため息を吐く。
そんな彼女たちにかまわず、男子生徒は続けた。
「君たち二人は元から知り合い?」
「え、うん。そうだけど?」
「もしよかったら僕らとチームを組まない?大人数で行動する方がやりやすいと思うんだ」
「え?チーム?」
オルフェンが聞き返すと、少年は頷く。
「校長先生も生徒同士の交流が大事って言ってたし。僕は知識には自信があるけど、戦闘面には不安があるからね。君たち、なんとなく強そうだし」
「まあ…、多少剣術の心得はあるぜ。こいつはめっちゃ力持ちだし」
オルフェンがレインを指さすと、レインは無表情のままだがどこか誇らしげにぐっと右腕を上部に曲げた。
その光景を見て、少年は少し笑う。
オルフェンも笑い返し、レインに問う。
「チーム組むの、俺はいいけど、レインは?」
「賛成。二人だけじゃ、ちょっと不安だったから」
「ありがとう。自己紹介が遅れたね。僕はアルベルト・コルドウェル。こっちの赤髪の彼女は…」
「レベッカよ」
アルベルトを遮って、少女は一歩前に出た。
「レベッカ・ドゥ・ベルナール。父はウォル村近辺を治めるベルナール子爵。つまりあたしは貴族の令嬢ってわけ。ほら、あんたも自己紹介しなさい!」
レベッカに背中を押され、紫髪の少女は「ぴぇっ」と鳴きながらオルフェン達の前に立った。
「ま…ま、マヤ・ミステフィラカ…です…、あの、あの、わ、私、人と、話すのって、に、苦手で…ごめんなさいぃ!!」
それだけ言うと、マヤはまたレベッカの後ろに隠れた。
「よろしくな。俺はオルフェン・セスリント」
「レイン・セスリント。オルフェンとは、血はつながってないけど、同じおうちで育った」
「オルフェンにレインか。よろしく」
アルベルトは手を差し出す。
オルフェンも微笑んで握手を交わした。
「はっ、くっだらねー」
不意に聞こえたその声に全員がその方を向くと、ブラウンの髪の目付きが悪い少年がこちらを見て鼻で笑っていた。
「この状況でよくチームなんて組めるよな?」
「何だよ、お前。何が言いたいんだ?」
オルフェンが問うと、少年は嘲笑しながら続ける。
「チームなんて組むやつは、自分で臆病者の無能ですって言ってんのと同じってことだよ!オレは強いから一人でも余裕でクラス・リュンヌに入れちまうけど?ま、弱者は弱者同士頑張ってれば?運が良ければエトワールにならギリギリ入れるんじゃね?」
わはは、と意地の悪い笑い声を上げながら、少年は森の奥へ消えていく。
「なっっっによアイツ!!腹立つわね!!」
その場で地団駄を踏みながら怒りに震えるレベッカに、アルベルトは冷静に言う。
「ヴァレリー・マードック。現王国騎士団長ジャン・マードックの息子だよ。あの態度を見るに彼自身の戦闘力もかなり高そうだ。クラス・リュンヌ入りは確実だろうね」
まあ、とにかく。とアルベルトは全員の顔を見回す。
「これから三日間よろしくね。…まずは活動拠点を作ろう。できれば水辺の近くが良い」
「水辺か。じゃあとりあえずは島を歩き回ってみるか」
「うん。わたしも、賛成」
「ちょっと!勝手に話進めないでよね!!」
「ぴえ…」
かくして、三日に渡るオリエンテーションが幕を開けたのだった。
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