第1話 赤い稲妻 ― 窮地④

 ジーは機動歩兵きどうほへい距離きょりり、真正面ましょうめん陣取じんどった。

 このとき ―― 後方こうほうからチビがらすクラクションのはげしいおとこえたが、あに窮地きゅうちらせるシグナルだとおもい、ジーはチビのほうようとはしなかった。

 

 ―― 機動歩兵きどうほへい仰向あおむけにころばすことができれば、構造上こうぞうじょうがるのに時間じかんがかかるはずだ。そのあいだ二人ふたりたすけにく。それしかみちはない。と、ジーはかんがえていた。 


 ジーはけっしてアクセルを全開ぜんかいにする。トップスピードまでバイクを加速かそくさせて、前輪ぜんりんげると、衝突しょうとつ衝撃しょうげきそなえて、前傾姿勢ぜんけいしせいった。あしはしっかりとステップにけて、両腿りょうもも車体しゃたいつよはさむ。


 一直線いっちょくせん疾走しっそうするバイク。トップスピードをたもったまま、前輪ぜんりんすように機動歩兵きどうほへい突撃とつげきした。


 衝突しょうとつ瞬間しゅんかん強烈きょうれつ衝撃しょうげきはしり、空気くうきふるわせ地響じひびききがった。

 

 ジーは反射的はんしゃてきからだかせて衝撃しょうげきがし、バイクにしがみつく格好かっこう落下らっか回避かいひしびれる身体からだをそのままに、状況じょうきょう確認かくにんするためすぐさまかおげる ―― 眼前がんぜんには、いわごとそびち、びくともせずに屹立きつりつする機動歩兵きどうほへい姿すがたがあった。

 あれほど衝撃しょうげきけてなお、微動びどうだにしない機動歩兵きどうほへい驚愕きょうがくし、ジーは無意識むいしきうちに「ふざけんな!」とさけんでいた。

 苛立いらだつままハンドルにけ、ふたたびアクセルを全開ぜんかいにするジー。エンジンがうなり、後輪こうりん地面じめんけずるように回転かいてんはげしい摩擦音まさつおんとどろき、機動歩兵きどうほへいちからづくでたおそうとこころみる。

 けれど、たおれるどころかよろめきすらせず、機動歩兵きどうほへいのアームはこともなげにうごいて、三本さんぼんつめからなる手指グリッパーがバイクをつかんだ。つづいて万力まんりきのような把持機構はじきこう動作どうさすると、つめ車体しゃたいにめりみ、するどおとてて外装がいそうくだく。フレームはきしみながら、徐々じょじょにひしゃげていき、しつぶされる金属きんぞく破壊音はかいおんが、圧倒的あっとうてきなパワーのらしめるようにひびわたった。


 機動歩兵きどうほへいはジーをせたまま、高々たかだかとバイクをげる。

 すべのないジーの視界しかいは、次第しだい上昇じょうしょうしてき、最後さいごには後方こうほう俯瞰ふかんして全体ぜんたい見渡みわたせるまでになった。そして、チビのマシンをにしたそのとき ―― あのクラクションがなに意味いみしていたのかを理解りかいする。相手あいて力量りきりょうちがえ、状況判断じょうきょうはんだんあやまったおのれおろかさにジーは愕然がくぜんとなった。

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