第1話 赤い稲妻 ― 酒場のバニーガール④

 そこらじゅうびてころがっていた鼠人達そじんたちを、おんなみせそとへとした。

「これでしまいだ」

 パンパンとひらたたいてほこりはらい、おんなおとこ視線しせんうつした。

「あんた、なかなかやるじゃない。はじめはどうなることかとおもったけど」

 たたかれしたおとこ近付ちかづきながら、興味津々きょうみしんしんにジロジロとながまわす。

わたし名前なまえはリディ」

 握手あくしゅもとめてされたを、おとこいぶかしそうに見詰みつめた。

べつっていはしないよ。あんたはなんてうのさ?」

「……ビットだ」

 不愛想ぶあいそうおとこは、されたにぎらずに簡潔かんけつこたえた。すると、そのしりだれかがたたく ―― ビットと名乗なのおとこはそこにった。

「あんちゃんすげぇよ! おいらはチビってうんだ。よろしくな!」

 をキラキラとさせた栗毛くりげ少年しょうねんが、興奮気味こうふんぎみはなけてる。

「………………全部ぜんぶまえわるいんだろ。なにがよろしくな、だ」

 ビットの拳骨げんごつろされ、あたまかかえて悶絶もんぜつするチビ。

 そんなチビにリディがただす。

「あんた一体全体いったいぜんたいなにをやらかしたんだい」

「そうだよ、チビくんきみなにをしたんだい」

 突如とつじょとしてあらわれた灰色はいいろ兎人とじん男性だんせいに、ビットはおどろおもわずからだふるわせた。

「だ、だれだ、てめぇ。どっからてきた」

「あ、はじめまして。ぼくはガクシャといます。ここに下宿げしゅくさせていただいてる、しがない科学者かがくしゃです……ふあぁ」

 欠伸あくびをするガクシャと名乗なのるそのおとこは、とてもねむたそうなかおをしており、まるで先程さきほどまでていたかのような、ひどいぐせがついていた。はなにかかったメガネはだらしなくズレていて、怠惰たいだ印象いんしょうあたえるも、がいがあるようにはえなかった。

 欠伸あくびをしえ、むにゃむにゃとくちうごかすガクシャが、ズレたメガネをゆびげてもともどすと ―― まるいレンズにひかりたってしろ反射はんしゃする。

「……それにしても、あなた。めずらしいものこしけていますね。【トリガー】なんてはじめてました。これって【たま】ははいってるんですか?」

 と、よそもののクロークからはだけてえるこしのナイフ、そして、そのさきにある機械きかいみたドスぐろかたまりに、炯々けいけいとした眼差まなざしをける。

 途端とたんにビットのするどわり、空気くうき瞬時しゅんじこおく。

「……てめぇには、関係かんけいねぇだろ」

 しずかなトーンのこえなかに、あきらかな殺気さっきはらんでいる。

「おっと、ただの好奇心こうきしんです。悪気わるぎはないんですよ、本当ほんとうに。わるくしたのならあやまります。ごめんなさい」

 ガクシャは飄々ひょうひょうとした態度たいど取繕とりつくろい、ビットから視線しせんはずし、チビへとけた。

いま問題もんだいにすべきはチビくんきみですね。彼等かれら一体いったいなにをしたんですか?」

 チビはリュックから球状きゅうじょう金属きんぞくかたまりをおもむろにし、みんなにえるように、ゆっくりまえへとした。

 異質いしつなその物体に興味きょうみかれ、リディ、ガクシャ、ビットの三人さんにんかおちかづけて凝視ぎょうしする。

 表面ひょうめんにはこまかい部品ぶひんまれており、内部ないぶにはいくつかのプラグが垣間見かいまみえた。中央ちゅうおうにはまるみをびたレンズじょうのガラスたいが、あおひとみのようにひかっている。

「……これ、おいらのマシンの運転うんてん制御せいぎょユニットに使つかえるんじゃないかなっておもって。どうかな……ガクシャ?」

「おや、これはこれは……はい、チビくんのマシンにも使つかえますよ」

「やった!」

「やったじゃない!」

 リディがちいさなあたま拳骨げんこつろすと、チビはいたそうにうめいた。

「そんなガラクタどうでもいい! こっちはあの鼠共ねずみどもなにしたかっていてんの!」

「……おいら、なんにもしてないよ」

 チビはあたまをさすりながら反論はんろんするが、リディはややかな視線しせんびせる。

うそうんじゃない、まわりをてごらん」

 チビがあたりを見渡みわたすと、酒場さかばきゃくはいつのにかり、破壊はかいされた椅子いすやテーブルが無残むざんらばっていた。ゆかかべにはおおきなあながいくつもき、店内てんないひど有様ありさまである。

なににもしてないなら、こんなことにならないでしょ」

 かおさえけるようにり、あつけてチビのぶんっててる。


 そんななか自身じしんとは関係かんけいのないはなしつづき、ごうやしたビットが二人ふたり会話かいわってはいってた。

「……おい、そんなはなしどうでもいいから、おれかねはやかえせよ」

使つかっちまったってってるじゃんか」

 くちとがらせてかえすチビに、さげすむような視線しせんげたあと

「……だったら、保護者ほごしゃのおまえはらえよ」

 と、リディに矛先ほこさきける。

 リディはまるくしておどろくと同時どうじに、ぎたことをウダウダときずるビットの態度たいどにカチンとて、反射的はんしゃてきみついた。

「は⁉ バカうんじゃないよ! だったら、あんたこそおかねはらいなさいよ!」

「んん? ビールはおごるって、おまえったろ」

「ビールはおごるわよ、でもおみせ修理代しゅうりだいはらってもらうわ! あんたもあばれたんだ、おみせがこうなった責任せきにんがあるわよね!」

「なっ⁉ おまえたすけてやったんだろ!」

たすけてなんて一言ひとことってない! らないあんたに発破はっぱかけてやっただけだ!」

 そのもギャーギャーとあらそ二人ふたり横目よこめに、ガクシャが欠伸あくびをしながらしりいた。

「……で、チビくんきみ本当ほんとうなにをやったんですか?」

「おいら ――」と、チビがこたえようとしたそのとき

 

 唐突とうとつ野太のぶとこえ店内てんないひびいた。

邪魔じゃまするぜぇ」

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