第1話 赤い稲妻 ― 酒場のバニーガール③

つけたぞ! クソガキ!」

 せた男達おとこたちながとがったはなげ、おおきな前歯まえばをむきして怒鳴どなごえげた。まるみをびたみみ目一杯めいっぱいてて、無頼ぶらいいで威圧いあつする。

 彼等かれらねずみ特徴とくちょうった、鼠人そじんという人種じんしゅだった。


なんだいあんたら! わたしみせ勝手かって真似まねゆるさないよ!」

 おんなまもるように少年しょうねんまえつと、ひたい血管けんかんかせた鼠人そじんが、血走ちばしったをひんきながらってた。

「ああぁ、なんだババァ! てめぇは関係かんけいねぇ! すっゴんッ ――」

 怒声どせいげていた鼠人そじんあご一瞬いっしゅんにしてがり、背筋せすじぐにばしたまま仰向あおむけに卒倒そっとうする。

 おんなのスカートのすそがひらりとはためき、そこから毛並けなみのしろあしが、天井てんじょうかってびていた。

「やりやがったな⁉」

 殺気立さっきだ鼠人そじん集団しゅうだんが、三人さんにんかこむ。

「おい、おれ関係かんけいねぇぞ」

「やっちまえ!」

 偶然ぐうぜん居合いあわせたおとこ発言はつげん無視むしし、一斉いっせい鼠人そじんおそかかかった。

「ッ、関係かんけいねぇってってんだろ」

 おとこ突進とっしんする鼠人そじんかるくあしらうと、おんなまえにいる鼠人そじんなぐたおして提案ていあんする。

「ビールだいってことであきらめなよ」

んでねぇよ」

「あら、した以上いじょうだいはちゃんといただくわよ。それともおんなにだけにやらせるってうのかしら?」

 おんながまたひとり鼠人そじんなぐばしてはおとこ挑発ちょうはつする。

 あおられたおとこ観念かんねんしたようにためいきくと、おそってきた鼠人そじんにすれちがいざまのりをれた。そして、こぶしげてかまえると、つきは一変いっぺんしてするどくなり、周囲しゅうい空気くうき一瞬いっしゅんめる。気圧けおされた鼠人そじんあしんでいると、おんな視線しせんてんじながらおとこ背後はいご陣取じんどった。

 荒事あらごと場馴ばなれした勇猛ゆうもうおんなは、おとこかって快活かいかつはなつ。

うしろはまかせるわよ」


 ―― その言葉ことばみみれると同時どうじに、おとこ記憶きおく突然とつぜんいてれた。記憶きおく片隅かたすみいやられたとおむかし出来事できごとが、あのころおもいととも鮮明せんめいよみがえる。


 ―― うしろはまかせるわよ ――


 硝煙しょうえんにおいがただよ戦場せんじょうなかで、たがいに背中せなかたくかれった。


 ―― マリア。


 一秒いちびょうにもたない、ほんのわずかにまたたいた記憶きおく

 うしがみかれるように、おとこ無意識むいしきおんなった ―― 刹那せつな鼠人そじんこぶし顔面がんめんはいり、現実げんじつへともどされる。

 

 おんながちらりと横目よこめて「手伝てつだおうか?」と様子ようすうかがう。

 おとこれた鼻血はなじぬぐい「問題もんだいない、にするな」とてて、手当てあたり次第しだい鼠人そじんちのめしていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る