第1話

つけたぞ! クソガキ!」

 せた男達おとこたちながとがったはなげ、おおきな前歯まえばをむきして怒鳴どなごえげた。まるみをびたみみ目一杯めいっぱいてて、無頼ぶらいいで威圧いあつする。

 彼等かれらねずみ特徴とくちょうった、鼠人そじんという人種じんしゅだった。

なんだいあんたら! わたしみせ勝手かって真似まねゆるさないよ!」

 おんなまもるように少年しょうねんまえつと、ひたい血管けんかんかせた鼠人そじんが、血走ちばしったをひんきながらってた。

「ああぁ、なんだババァ! てめぇは関係かんけいねぇ! すっゴんッ ――」

 怒声どせいげていた鼠人そじんあご一瞬いっしゅんにしてがり、背筋せすじぐにてたまま仰向あおむけに卒倒そっとうする。

 おんなのスカートのすそがひらりとはためき、そこから毛並けなみのしろあしが、天井てんじょうかってびていた。

「やりやがったな⁉」

 鼠人そじん集団しゅうだん三人さんにんかこむ。

「おい、おれ関係かんけいねぇぞ」

「やっちまえ!」

 偶然ぐうぜん居合いあわせたおとこ発言はつげん無視むしし、一斉いっせい鼠人そじんおそかかかった。

「ッ、関係かんけいねぇってってんだろ」

 おとこ突進とっしんする鼠人そじんかるくあしらうと、おんなまえにいる鼠人そじんなぐたおして提案ていあんする。

「ビールだいってことであきらめなよ」

んでねぇよ」

「あら、した以上いじょうだいはちゃんといただくわよ。それともおんなにだけにやらせるってうのかしら?」

 おんながまたひとり鼠人そじんなぐばしてはおとこ挑発ちょうはつする。

 あおられたおとこ観念かんねんしたようにためいきくと、おそってきた鼠人そじんにすれちがいざまのりをれた。そして、こぶしげてかまえると、つきは一変いっぺんしてするどくなり、周囲しゅうい空気くうき一瞬いっしゅんめる。気圧けおされた鼠人そじんあしんでいると、おんな視線しせんてんじながらおとこ背後はいご陣取じんどった。

 荒事あらごと場馴ばなれした勇猛ゆうもうおんなは、おとこかって快活かいかつはなつ。

うしろはまかせるわよ」


 その言葉ことばが ―― おとこみみれたつぎ瞬間しゅんかんりし情景じょうけい突然とつぜんいてれた。記憶きおく片隅かたすみいやられたとおむかし出来事できごとが、あのころおもいととも鮮明せんめいよみがえる。


 ―― うしろはまかせるわよ ――


 硝煙しょうえんにおいがただよ戦場せんじょうなかで、たがいに背中せなかたくかれった。


 ―― マリア。


 一秒いちびょうにもたない、ほんのわずかにまたたいた記憶きおく

 うしがみかれるように、おとこ無意識むいしきおんなった ―― 刹那せつな鼠人そじんこぶし顔面がんめんはいり、現実げんじつへともどされる。

 

 おんながちらりと横目よこめて「手伝てつだおうか?」と様子ようすうかがう。

 おとこれた鼻血はなじぬぐい「問題もんだいない、にするな」とてて、手当てあたり次第しだい鼠人そじんちのめしていった。

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