第1話 赤い稲妻 ― 酒場のバニーガール②

 おんなはビールをそそぎながら、ちらりとつくえうえ写真しゃしんをやった。

「えらくふる写真しゃしんだねぇ」

 色褪いろあせたその写真しゃしんには、さん四歳位よんさいくらいちいさな兎人とじんおんなが、人形にんぎょうきしめて、子供こどもらしい満面まんめんみをかべていた。けてすきになっているのも、また可愛かわいらしい。目元めもとには ―― ハートのかたちをした黒子ほくろような模様もようがあった。

「これだけふるいと、いまじゃそこそこの年齢ねんれいだろうに……ほか情報じょうほうはないのかい?」

 ビールをいたおんな言葉ことばに、おとこみじこたえた。

名前なまえはイヴ。むらさきひとみとし十代じゅうだいなかば。東方とうほうまれだ」

 そうってビールにばした瞬間しゅんかんおんながそれをもどした。

「おっと、ここじゃあ一元様いちげんさま前払まえばらいなんだ」

 おとこかる舌打したうちをし、財布さいふそうとしりのポケットをさぐる。

 すると ―― そこにはずふくらみがない。かるしりたたいてもない。ぎゃくのポケットにもない、うちポケット、かくしポケット、全身ぜんしんをまさぐるもない、ズタぶくろなか調しらべてもない ―― 財布さいふがない。


 おとこかおあおざめる。


 ―― やられた! あのガキだ!


 昼間ひるまぶつかって栗毛くりげ少年しょうねんおもし、身振みぶ手振てぶりをまじえながら、ちいさな犯人はんにん特徴とくちょうを、まくしてるようにつたえた。


 そのとき ―― 酒場さかばとびらひらき、だれかがはいってる。


 おとこはそれにまったづかない様子ようすで、「そのガキさえつけたらかねかなはらう。なんならいろけてもいい。心当こころあたりがあればおしえてくれ! 全財産ぜんざいさんってかれたんだ、たのむ!」とひらわせて懇願こんがんした。

 すると、おんなふか嘆息たんそくらし、おとこ後方こうほう指差ゆびさす。

 おとこ背後はいごくと ―― あのとき少年しょうねんが、リュック一杯いっぱいはいったジャンクひんをガチャガチャとらしながらあるいていた。



「バカたれ!」

 おんな少年しょうねんあたま拳骨げんこつとす。子供こどもしかるにはつよすぎる一撃いちげきに、少年しょうねんはくぐもったうめごえげる。おんなはしゃがみこんで、ちいさな両肩りょうかたくと、ぐにおさなひとみ見詰みつめた。

「いいかい。わたしはね、あんたにはまっとうなみちあゆんでしいんだよ。ここにまわせて、お給金きゅうきんわたしているだろう。不満ふまんがあるのはかるけれど、目先めさきよくくらんでお天道様てんとうさま顔向かおむけできないことをしちゃだめだ。あんたにもしものことがあったら、わたしは……んじまったあんたの両親りょうしん顔向かおむけできなくなるよ……」

 少年しょうねんおやのことをおもしたのか、自分じぶんのおなかあたりでふくつよにぎめ、なみだぐんではしぼすようにこえした。

「……おいらは……おとこ約束やくそくを……たしたいんだ」

「……馬鹿ばかだねぇ」

 おんなほそめ、少年しょうねんあたまをぐしゃぐしゃとでた。

「そら、もういいからったもんかえしてきな」

 おんなしりたたかれうながされた少年しょうねんんは、薄汚うすよごれた財布さいふして、ながみみらしながら、おとこにそれをかえした ―― が、財布さいふあつみはまったく、中身なかみからだと一目ひとめでわかった。

 おとこちいさなむなぐらをつかんでただす。

「てめぇ、中身なかみはどうした」

「もう使つかっちまったんだよ」

 少年しょうねんがバツのわるこえはっした、そのとき


 バンッというはげしいおとともに、突然とつぜんみせとびらはなたれ、いかつい派手はで服装ふくそう男達おとこたちが、一斉いっせいにがなだれんできた。

つけたぞ! クソガキ!」

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