Trigger!!

徳山 匠悟

第1話 赤い稲妻 ― 酒場のバニーガール①

―― わたしたのだ ――


―― 重火器じゅうかきたずさえた ――

―― 兵隊崩へいたいくずれのならずものたちが ――

―― すべもなくころされていくそのさまを ――


―― このならざることわりが ――

―― かげとなって突然とつぜん姿すがたあらわした ――


―― 弾丸だんがん意味いみをなさず ――

―― 弾幕だんまくになろうとも意味いみをなさず ――


―― 人知じんちえたそれは ――

―― 悠然ゆうぜんちかづきまりはしなかった ――


―― ちから過信かしんし ――

―― 傲慢ごうまんちた顔々かおがおが ――

―― 恐怖きょうふきつり ――

―― みにくゆがんでいく ――


―― だれかれもがさけんでいた ――

―― 絶望ぜつぼうふちたされ ――

―― くちからいてる ――

―― 今際いまわきわ絶叫ぜっきょうを ――


―― そして ――

―― 恐怖きょうふゆがったかおをそのままに ――


―― みんなんでいった ――


―― あのときいた断末魔だんまつまを ――

―― いまでもわすれることができない ――


―― わたしたのだ ――

―― このならざることわりを ――

―― つかさどものを ――

―― 漆黒しっこく死神しにがみを ――


―― このまちには死神しにがみがいる ――

―― きらい、憎悪ぞうおする ――

―― 本物ほんもの死神しにがみだ ――


―― その死神しにがみこそが ――

―― このまち絶対ぜったいルールだ ――


 老人ろうじん戯言たわごとはなわらい、おとこがズタぶくろ背負せおって、そのってく。


 おとこ色褪いろあせたかわのクロークをまとい、おおきなフードをふかかぶっていた。フードのからのぞくのは、くろ頑丈がんじょうなゴーグルだけで、面貌めんぼうようとしてれない。クロークのすそはボロボロにやぶけており、重厚じゅうこうなブーツがあらわになっている。


 陽炎かげろうち、土煙つちけむり閑散かんさんとしたまちを、おとこあるく。


 おとこさがしていた。

 転々てんてんたびをしながら。

 ひとつはわかれたいもうとを。

 ひとつは一族いちぞくかたきを。


 ギラギラとした陽射ひざしが容赦ようしゃなくそそぎ、がたあつさがまちく。おとこたまらずフードをぐと、された熱気ねっきともに、しろながみみてんかってした。

 おとこ兎人とじんばれる、うさぎ特徴とくちょうった人種じんしゅだった。衣服いふくかくれた体毛たいもう全身ぜんしんおおっており、骨格こっかくは人のそれとおなじである。


 不意ふいかぜけた。


 はためくクロークの隙間すきまから、りょううで手甲てっこうと、こしからびる左右対称さゆうたいしょうのナイフが垣間見かいまみえる。刃渡はわたり三十センチのブレードをおさめる二本にほんさやは、一体化いったいかしてひとつとり、中央ちゅうおうにはウエストバックほどおおきなかたまりがあった。それはドスぐろ機械きかいみており、使つかまれてしょうじる特有とくゆうつやびている。


 突然とつぜん、ドンッという衝撃しょうげきおとこ背後はいごからはしった。おとこはよろめきもせず、ぶつかってちいさな兎人とじんをゴーグルしに一瞥いちべつする。

 薄汚うすよごれたデニムのオーバーオール、ぶかぶかであまったそですそ幾重いくえにもかえしている。機械油きかいゆにおいが、かすかにおとこはないた。

「ごめんごめん、いそいでるんだ、ゆるしてくれ」

 そういながらけて栗毛くりげ少年しょうねん


 おとこ少年しょうねんいながら、ゴーグルをはずしてひたいせた。

 茶褐色ちゃかっしょくひとみをした白目しろめちの三白眼さんぱくがんは、つきがわる凄味すごみがある。武骨ぶこつ精悍せいかんな面構つらがまえからは、二十代にじゅうだいなかばといったわかさをかんじさせた。

 おとこはそれ以上いじょうめず、ふたたすたれたみちあるはじめる。


 まちには、かつての繁栄はんえい物語ものがたるような、歴史的れきしてき建造物けんぞうぶつがいくつかあったが、おおくは弾痕だんこん爆発ばくはつ痕跡こんせきのこり、まどにはいたけられていた。十数年前じゅすうねんまえ戦争せんそうですっかり荒廃こうはいし、いま復興ふっこう只中ただなかにある。


 かたはじめたころおとこひとつの看板かんばん見上みあげていた。びた金属きんぞくかぜあおられ、かすかにおとてている。年季ねんきはいったその看板かんばん文字もじは、色褪いろあかすれていたが、かろうじて【バニーガール】とこと出来できた。

 おとこはそのさびれた酒場さかばとびらひらき、なかへとはいってく。


 なかはいると、かれおな兎人とじん何人なんにんもおり、はいってたよそもの横目よこめ警戒けいかいしていた。なかにはあきらかな敵愾心てきがいしんってにらんでいるものもいる。

 おとこかえさずカウンターにき、エプロンをけた同年代どうねんだいおぼしきしろ兎人とじんおんな店員てんいんかって写真しゃしんいた。

きたいことがある」

 フォーマルなブラウスに質素しっそなデザインのスカートをいたおんな店員てんいんは、ったグラスをいたまま、一瞥いちべつもせずになん反応はんのうかえさなかった。

 儲主義もうけしゅぎ不文律ふぶんりつ辟易へきえきして、おとこかるいためいきいた。

「ビールをくれ」

「ここは酒場さかばだ、そうこなくっちゃ」

 おんな快活かいかつ微笑ほほえんでウィンクをばした。

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