第1話 赤い稲妻 ― 酒場のバニーガール⑤

邪魔じゃまするぜぇ」

 一同いちどうながみみをピンとて、とびら方向ほうこうけると、くろのギャングスーツをまとった体長たいちょう二メートルをえる巨大きょだいなゴリラのような猿人えんじんが、身体からだみせはいってきた。


 ゴリラのあし極端きょくたんみじかった。しかし、それをおぎなうように上半身じょうはんしんおおきく、異様いようほどにデカいや、丸太まるたのようにふとうで、それらをささえるあつ胸板むないたが、圧倒的あっとうてき威圧感いあつかんはなっている。


 そのうしろには四人よにん人影ひとかげしたがっていたが、ゴリラのガタイがデカすぎて、それらの姿すがたははっきりとはえなかった。


ひさしぶりねぇ、コング。今更いまさらなにしにたのかしら」

 慇懃いんぎんはっするリディの言葉ことばには、苛立ちを含んだとげがある。

「こちとらいそがしいでな、細事さいじにはかまってられねぇんだ」

「は? こっちはみかじめりょうはらってんだ、キッチリ仕事しごとしなよ」

「その仕事しごと最中さいちゅうだ。おい! チビ!」

 大男おおおとこ女店主おんなてんしゅ歯牙しがにもかけず、ドスのいたこえとどろかせて、ちいさな栗毛色くりげいろ少年しょうねんへとすすめる。

「てぇめ、どえれぇもんをぬすんだそうだなぁ」

 近付ちかづくコングにおびえるチビは、そばにたビットのうしろに咄嗟とっさかくれて、かれのズボンをギュッとにぎりしめた。


 コングはビットのまえまり、ゴミでもるかのような見下みおろす。


「……どけ、そのガキにようがあんだ」

「……どいてくださいだろ? なめてんのかエテこう

 ビットはおくさず啖呵たんかり、横柄おうへい猿人えんじんにらんだ。


 すると、うしろにいた手下てした三人さんにんさわし、ビットとコングのあいだってはいってきた。くろのギャングスーツをかれらは、チンパンジーのような特徴とくちょうった猿人えんじんで、ほっそりとした体型たいけいくわえ、かおつきも服装ふくそうもまったくおなじだった。さらに、おなじハットぼう、サングラスをかけているため、だれだれなのか見分みわけがつかなかった。


「てめぇ、ボスになんてことをいやがんだ!」

かしてんじゃねぇぞ! このウサギが!」

「ピョンピョンさせたろかぁ! ボケェ!」

 一匹いっぴきさるがビットのむなぐらをつかもうとした瞬間しゅんかんぎゃく手首てくびつかまれ、そのままひねりげられた。

 おもいもよらない突然とつぜんいたみにかおゆがませ、さるは「ぐぁ」とくるしみあえぐ。


「チンにいちゃん!」

「てめぇ、兄貴あにきはなしやがれ!」

 べつさる反射的はんしゃてきにビットにおそかる。が、なんなくかわされたうえに、すれちがいざまにあしけられ、そのいきおいのまま前方ぜんぽうした。


「パンにいちゃん! てめぇよくも!」

 最後さいご一匹いっぴきなぐりかかると、ビットはくびをわずかにけ、最小限さいしょうげん動作どうさこぶしかわす。そして、そのままするど頭突ずつききを相手あいて顔面がんめんたたんだ。にぶおとひびき、さるうしろへとたおむ。


「ジー!」

「ジー!」

 あにであろう二匹にひきさるおとうとさけんだ、その刹那せつな ―― ビットのはだ粟立あわだち、逆立さかだった。背後はいごから殺気さっきかんじ、咄嗟とっさつかんでいたさるはなすと、みみり、地面じめんすようにしゃがみむ。


 つぎ瞬間しゅんかん、ナイフが頭上ずじょうかすめ、するど風切かざきおんひびく。


 ビットは即座そくざをねじり、強烈きょうれつりをかえした。襲撃者しゅうげきしゃうしろへ退き、間一髪かんいっぱつ回避かいひするが、りはサングラスをかすめて帽子キャップたり、帽子キャップはくるくるとちゅうった。サングラスは地面じめんちてくだけ、帽子キャップ回転かいてんしながらビットと襲撃者しゅうげきしゃあいだゆるやかに着地ちゃくちする。


 あいまみえる二人ふたり


 簡単かんたん背後はいごられたことから、警戒けいかいたたけずに様子ようすをうかがうビット。

 おりのサングラスをこわされ、苛立いらだまぎれに舌打したうちをするくろのジャージを襲撃者しゅうげきしゃ帽子キャップから解放かいほうされたそのあたまには、しなやかにれるしろながみみえている。相手あいて白毛しろげ兎人とじんで、十代じゅうだいなかばとられる少女しょうじょのような顔立かおだちをしていた。つきはわるく、むらさきひとみ三白眼さんぱくがんするどひかはなつ。そして、目元めもとには ―― ハートのかたちをした黒子ほくろのような模様もようが ―― かれ写真しゃしん人物じんぶつおな模様もようが、はっきりとかんでいた。


 ビットはその姿すがたおどろき、見開みひらいた。


「……イヴ⁉ ……イヴなのか?」

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