第1話 赤い稲妻 ― 酒場のバニーガール⑥

「……イヴ!?……イヴなのか?」


 ビットは戸惑とまどいをおぼえるこえはっしながら、まえにいるいもうとおぼしき少女しょうじょに、一歩いっぽ、また一歩いっぽちかづいてく。


 イヴとばれた少女しょうじょは、眉間みけんしわせ、あからさまな嫌悪感けんおかんしめしていた。


「……おれだ、ビットだ」


 さがつづけた人物じんぶつたりにして、勝手かってふるえだすを、どうにかポケットにねじむと、少女しょうじょえるように、ふるびた写真しゃしんしてかかげた。


 少女しょうじょおとこ挙動きょどうあやしみ、かまえをかずに臨戦態勢りんせんたいせいくずさない。

 けれども、少女しょうじょから仕掛しかけることも、またしなかった。


「……おまえまだっちゃかったもんな」

 

 写真しゃしん指差ゆびさし、うったえかけるような眼差まなざしで、無防備むぼうびちかづくビット。

 

 そんなおとこ警戒けいかいしつつ、少女しょうじょはその写真しゃしん視線しせんうつした。

 

 りしの、おさなころ自分じぶん姿すがたにした少女しょうじょは、困惑こんわくいろかくせずに、ふたたおとこへと視線しせんもどす。


かるか、おにいちゃんだぞ……」


「……おにいちゃん?」

 みずかはっしたその言葉ことばに、少女しょうじょひとみうごく。


「イヴーーー!!」

 まえにいる少女しょうじょいもうとだと確信かくしんし、感極かんきわまりこうとるビット ―― に、拳一閃こぶしいっせん。カウンター気味ぎみはいった少女しょうじょこぶしはビットの顔面がんめんにめりみ、力任ちからまかせにかれた。


「 ―― その名前なまえぶな、あたしはアムだ!」


 少女しょうじょさけびをまえに、ビットの意識いしきたれ、白目しろめいてくずちる。


 興奮こうふんめやらぬ少女しょうじょかたに、コングがいた。

「アム、おまえ身内みうちか?」

「さぁね、どっちにしたって過去かこはなし。それよりも ―― 」

 そうって、あに名乗なのおとこにもめずに、アムは周囲しゅういくばった。

いまは『コア』だ」


 ―― カウンターでは、はなしについていけなくなったリディが、みせさけけている。

 

 ―― みせ中央ちゅうおうではチン、パン、ジーの三兄弟さんきょうだいが、たおれたビットを早々そうそうかこんで、んだりったりと意趣返いしゅがえしにせいす。

 

 ―― すこはなれたところで、鼻提灯はなちょうちんつくったままているガクシャがいた。

 鼻先はなさきふくらむ風船状ふうせんじょうまく限界げんかいえてはじけると、そのおとましたガクシャと、アムの視線しせんじりう。

 

 アムは自身じしんかおあかくなることがかり、咄嗟とっさ視線しせんらすと、らした視線しせんさきに、チビがえた。

 

 チビは ―― コアとばれるまる金属きんぞくかかえながらあしあるき、みせ裏口うらぐちへとかっている最中さいちゅうだった。


「チィービィー」とややかにびかけると、ぎこちないうごきでくびまわし、きつった表情ひょうじょうでアムをる。

「それをボスにわたしな」

いやだ!!これはおいらのもんだぁぁぁー!」

 そうわめきながら、チビは脱兎だっとごとした。

「あ、ちやがれ!」

 コングとアムがあわててあとうと、三兄弟さんきょうだいもそれに気付きづ追従ついじゅうする。

 

 その直後ちょくごに、意識いしきもどしたビットが「イヴ!」とさけびながらきた。

 周囲しゅうい見回みまわしても、いもうと姿すがたつけられないかれは、そばにいたガクシャの襟元えりもとつかんで「どこだ、どこにった?」とさぶりながらめる。かねたリディが「あっち」と、みせ裏口うらぐち指差ゆびさすと、ビットも一味いちみあとうようにしてく。

 

 あらしのようにさわがしい面々めんめんると、ガクシャはズレた眼鏡めがねなおして、ポツリとった。

「チビくん大丈夫だいじょうぶですかね」

「ありゃ、一回いっかいいたほうがいいね。ま、今回こんかいはコングにしつけてもらうとしよう」

 リディはあきらめた様子ようすでぼやいてから、グラスにのこっていたさけした。

「……それにしても、あのまる金属きんぞくなんだったのかねぇ」

 てた酒場さかば後始末あとしまつはじめながら、リディがひとごとのようにつぶやくと、ガクシャは手伝てつだいながらそのつぶやきにこたえた。

さき大戦たいせん使つかわれた殺戮兵器さつりくへいき起動きどうコア ―― たとえるなら、のうみそけん心臓しんぞうったところですね」

物騒ぶっそう代物しろものだね、なんかってんのかい?」

 とはくものの、まった興味きょうみのないリディは一瞥いちべつもせずに、れてがった床板ゆかいたを、力任ちからまかせにむしりる。ガクシャも掃除そうじめず、抑揚よくようなく説明せつめいを続けた。

兵器へいきは『ゴルゴン』、圧倒的あっとうてき火力かりょく広範囲こうはんいてき一掃いっそうする自己修復機能じこしゅうふくきのうった半自律はんじりつ自走型じそうがたのバトルポッド、です」

「やけにくわしいねぇ」

「あのコアをつくったのはぼくですからね」

「おや、黒幕くろまくはここにたってわけだ」

 はっした言葉ことばとは裏腹うらはらに、やはり興味きょうみのないリディは脇目わきめらずうごかしつづける。

「ハハ、黒幕くろまくだなんて大層たいそうなもんじゃないです。ただ、……むかし友人ゆうじんたのまれた……だけのことですよ」

 ガクシャはめて、とお眼差まなざしで虚空こくうながめた。

「……おかげでここの家賃やちんはらこと出来できました。半年はんとしってくれて、ありがとうございます」

「まぁかんないけど、わたしかねさえはらってくれりゃなんでもいいさ」

 そういながらリディは淡々たんたん後始末あとしまつつづけた。

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