第1話 赤い稲妻 ― 逃走①

 ビットが酒場さかば裏口うらぐちからすと、視界しかいひろがったのはしずかな中庭なかにわだった。洗濯物せんたくものかぜれ、にわすみにはてられた鉄筋てっきんたば鉄骨てっこつが、雑草ざっそうもれてびている。周囲しゅういにはガレージや倉庫そうこならび、かすかに機械油きかいゆにおいがただよっていた。


「チビ! けろ!」

い!」

「ボケがぁ!」

 チン、パン、ジーの三兄弟さんきょうだいおどすように怒声どせいげて、ガレージのとびら力任ちからまかせにたたいている。しかし、なかからはなん応答おうとうもない。

 しびれをらしたコングが「どけ!」とこえあらげた。

 即座そくざ兄弟きょうだいみちけると、コングの巨体きょたいとびらめがけて突進とっしんする。

 ドカンという衝撃音しょうげきおんともとびらはぶちかれ、ひかりがガレージのなからしした。


 そこには ―― 修理痕しゅうりこんのこ未塗装みとそうのレースマシンがあった。

 

 銀色ぎんいろかがやくマシンは、屋根やねのないレトロなデザインでありながら、ひく車高しゃこう流線形りゅうせんけいのシルエットをち、重厚じゅうこうなリアウイングをそなえている。特徴的とくちょうてき面長おもながのボンネットは、フロントグリルと一体化いったいかしたふと格子状こうしじょうのパーツで構成こうせいされ、そこから大型おおがたエンジンの一部いちぶがはみしていた。助手席じょしゅせきはずされ、わりにボンベじょう物体ぶったいよこたわり、窮屈きゅうくつちいさな運転席うんてんせきだけが存在そんざいしている。さらには、不釣ふついなほどのドデカいタイヤがけられており、スピード重視じゅうしにカスタマイズされたモンスターだと一目ひとめかった。


 突然とつぜん爆音ばくおんとどろき、エンジンがうなりをげる。車体しゃたいふるえ、排気煙はいきえんのぼり、まったままの状態じょうたいで、高速こうそくにタイヤが回転かいてんはじめた。はげしく空転くうてんするタイヤは甲高かんだか摩擦音まさつおんともに、げたにおいのする白煙はくえんをまきらす。

「そこどいてー‼」

 運転席うんてんせきからひょっこりとあたましたチビがさけぶと、マシンは猛然もうぜんはしした。

 コングは咄嗟とっさよこ退き、せまるモンスターを間一髪かんいっぱつでかわす。

 爆音ばくおんらしてけるモンスターは、またたとおざかり、視界しかいそとへとってく。

「くそ! チビの野郎やろう!」

 苛立いらだちをおさえきれず、コングはガレージをたたいた。

「チン、パン、ジー、まちそとられたら厄介やっかいだ! あとえ!」

「ガッテン!」

 三兄弟さんきょうだいいきった返事へんじかえすと、みせまえめてあるバイクへとかった。

「アム! おまえはイーストどおりでってろ! 誘導ゆうどうおれがやる!」

了解りょうかい!」

 うと同時どうじにアムがすと、それをにしたビットがあとう。

て! イヴ!」

 そのさけごえいたアムは、うんざりした様子ようすでためいきき、くことなく目的地もくてきちへとかった。

 

 そんな二人ふたり姿すがたにするバイクにまたがった三兄弟さんきょうだい

「あのウサギ野郎やろう、もう復活ふっかつしてやがる」

「ジー、いまはチビに集中しゅうちゅうしろ」

 口惜くちおしそうにてる末弟まっていかたを、次兄じけいかるくはたいてたしなめる。

 直後ちょくご長兄ちょうけいゆびらして、二人ふたり注意ちゅういいた。

街中まちなかじゃ小回こまわりのくバイクのほう有利ゆうりだ。チビが大通おおどおりにまえいつくぞ!」

「あいよ!」

「あいよ!」

 チンの号令ごうれいにパンとジーがこたえると、三台さんだいのバイクは特徴的とくちょうてき排気音はいきおんとどろかせて、一斉いっせいはしす。


 一方いっぽうコングは、かれた大量たいりょう鉄筋てっきんかたかかえ、近隣きんりんにある時計塔とけいとう目指めざしていた。

 

 戦中せんちゅうでは見張みはだいとしても機能きのうしていた時計塔とけいとうたかさはやく六十ろくじゅうメートル。このまち一望いちぼうできる要所ようしょひとつだった。

 

 時計塔とけいとういたコングは、壁面へきめんながめて足場あしば見定みさだめたあと、ためらうことなく悠然ゆうぜんのぼはじめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月30日 07:00
2024年12月7日 07:00

Trigger!! 徳山 匠悟 @TokuyamaShogo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ