第1話 赤い稲妻 ― 逃走②

最悪さいあくだ!」

 ガレージをしたチビは、マシンのハンドルをつよにぎりしめてさけんだ。

 れるとおもった矢先やさき三台さんだいくるまった鼠人そじん集団しゅうだん鉢合はちあわせてしまったのだ。

ちやがれ! クソガキ!」

ぬすんだもんかえしやがれ!」

ころすぞ! まれ!」

 後方こうほうからこえる怒鳴どなごえが、チビの心臓しんぞうをどくどくとかした。

 小刻こきざみにハンドルを操作そうさし、みぎひだりへとせま路地ろじがっては、追手おってくためジグザグにすすんでいく。そのせいで十分じゅうぶんにスピードをせず、マシンの性能せいのうかせないでいた。

「くそ、大通おおどおりにれたら……! こんなやつら!」

 チビはサイドミラーをちらりと後方こうほうをうかがった。

 追手おってとの距離きょり徐々じょじょはなれつつある。

 このまままち大通おおどおりにられれば、このマシンの『必殺技ひっさつわざ』で簡単かんたんれるはずだと、チビはこころなか目論もくろんでいた。

「あと……もうちょっとだ」

 ハンドルをまわしてかどがると、ながせま路地ろじあたりに、ひかりがひろ空間くうかんがあることがすぐにかった。

 ―― 大通おおどおりだ!

 視線しせんさきにあるおおきな道路どうろにし、チビの緊張きんちょうわずかにゆるんだ ―― そのとき

つけたぞ! チビ!」

げられるとおもうなよ!」

「ボケがぁ!」

 突然とつぜん三兄弟さんきょうだいのバイクが前方ぜんぽうあらわれて、せま路地ろじふさいでしまった。

「チクショウ!」

 急遽きゅうきょ方向転換ほうこうてんかん余儀よぎなくされたチビは、咄嗟とっさにサイドブレーキをき、ハンドルを一気いっきった。ロックしたタイヤが路面ろめんをこすり、マシンはすべりながら急激きゅうげき進路しんろえ、ドリフトで横道よこみちすべむ。

 三兄弟さんきょだいはそのうごきに機敏きびん反応はんのうし、チビをって次々つぎつぎ横道よこみちへとんでいく。

 鼠人達そじんたちおおきな車体しゃたい無理むりやり横道よこみちませてあとつづいた。

 

 横道よこみちくらく、かべせまり、がりくねっている。路面ろめんらすのは、わずかにかりだけで、見通みとおしはわるかった。そのうえ無造作むぞうさかれた復興資材ふっこうしざい鉄材てつざい進路しんろさまたげ、スピードをたもつのがむずかしい。そんななか、チビは必死ひっしにマシンをコントロールし、つぎかど見据みすえながらはしつづけた。

ちやがれ! チビ!」

 ハモる三兄弟さんきょうだい怒声どせいが、バイクの排気音はいきおんともせま路地ろじひびわたる。

「どけぇ! エテこう!」

 うしろにけた鼠人達そじんたち苛立いらだちながら、クラクションをらしあおてた。

「チューチューうるせぇ!」

「おびじゃねぇんだよ!」

 チンとジーがわらいながらあおかえすと、パンがスピードをとし、二人ふたり後方こうほうへとまわむ。

「おまえらはんでな!」

 そうさけぶと、パンはかべてかけられた鉄材てつざいいきおいよくばした。鉄材てつざいにぶ金属音きんぞくおんひびかせながら、バウンドしてみちふさぐようにたおむ。

 あわててブレーキを鼠人そじん。しかし、反応はんのうむなしくわず、派手はでおとして鉄材てつざいめば、つづ二台にだいくるま追突ついとつしてうごけなくなった。

「ちくしょう! おぼえてやがれ!」

 鼠人そじんしみがひび路中みちなかで、ふたた三兄弟さんきょうだいはアクセルを全開ぜんかいにし、チビの追跡ついせき続行ぞっこうする。



 

 時計塔とけいとう屋上おくじょういたコングは、かかえていた鉄筋てっきんをコンクリートにてた。

 

 かわいた空気くうきただよ街並まちなみは、かつてのうつくしい風景ふうけいとは程遠ほどとおく、建造物けんぞうぶつ基礎きそとなる赤茶色あかちゃいろのレンガがいたるところで露出ろしゅつしている。おおくの建物たてもの戦争せんそう傷跡きずあと色濃いろこのこし、くずれた部分ぶぶんのほとんどは補修ほしゅうもされずに放置ほうちされていた。

 

 とおはなれたところから、三兄弟さんきょうだいのバイクがらす、特徴的とくちょうてきなマフラーの排気音はいきおんこえてくる。

「……あそこか」

 おとのするほうをやると、がる砂煙すなけむりえる。コングはその様子ようすをじっと見据みすえながら、大量たいりょう鉄筋てっきん巨大きょだいつかんで、無造作むぞうさいた。

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