第1話 赤い稲妻 ― 窮地①

 三兄弟さんきょうだい鉄筋てっきんてられ、チビがまよんだイーストどおりは、戦争せんそう傷跡きずあと色濃いろこのこ場所ばしょひとつだった。くるまとおれるような横道よこみちはなく、両脇りょうわきなら建物たてものて、荒廃こうはいした景色けしきとおりのさきまでつづいている。


 突然とつぜん、「ドン」というおとともに、衝撃しょうげきはしりマシンの車体しゃたいおおきくれた。

 チビが咄嗟とっさうしろをくと、そこにはアムの姿すがたがあった。

 紫色むらさきいろつめたい視線しせんが、少年しょうねんするど射竦いすくめる。

あきらめなチビ、大人おとなしくコアをわたすんだ」

「いっ、いやだ!」

 アムはナイフをき、こばむチビにける。

手間てまかせんな」

 チビはひか見詰みつめ、ゴクリとつばんだ。

 

 そして、かんがえる。


 ―― ここできゅうブレーキをければ、アムをとせるだろうか?

 

 アムはその思考しこう見透みすかすように、一段いちだんつめたい声で「チビ」と名前なまえをささやき、ナイフのくびてた。

 

 ここからはあそびでないことを、少年しょうねんにはっきりとらしめる。

 

 了然りょうぜんたる害意がいいてられ、おのれ無力むりょくさをおも少年しょうねんは、にじなみだこらえて「チクショウ」とうめき、くやしさにくちびるんだ。


「……レーサーになるんだろ、んだら約束やくそくまもれないよ」

「…………」

 さとすようなアムの言葉ことばに、強張こわばっていたチビの身体からだ弛緩しかんして、あきらめたようにマシンのスピードがちていく。

 そして、後方こうほうけていた三兄弟さんきょうだいのバイクがき、いきおいをくしたマシンのよこならぶと ―― あせった様子ようすのチンがさけんだ。

「チビ、スピードをとすな! げろ!」

うしろだ! うしろ!」

「やつらがやがった!」

 つづけてさけぶパンとジー。

 突然とつぜん出来事できごとまるくするチビとアムが、のぞくようにうしろをかえる。


 そこにえたのは、武装ぶそうした鼠人そじん四台よんだい車両しゃりょう


 中央ちゅうおうはし普通車両ふつうしゃりょうでは、まどから小太こぶとりな鼠人そじんが、路面ろめんらしたてつパイプをきずって、バチバチと火花ひばならしている。

 そのうしろには三台さんだい小型こがたトラックがいてきており、手斧ておの鉄材てつざいなど武装ぶそうした十人じゅうにんほどの構成員こうせいいんをそれぞれ荷台にだいせていた。

「てめぇら! よくもやってくれたなぁ!」

ばいにしてかえしてやる! 覚悟かくごしろ!」

調子ちょうしってんじゃねぇぞ! ゴラァ!」

 構成員こうせいいん各々おのおのさけび、ヒステリーをこした危険きけん集団しゅうだんしている。

「……ヤバイ」

 せまりくる脅威きょういからのがれようと、いそいでまえなおすチビ。

 しかし、なおした正面しょうめんからんでくる光景こうけいに、少年しょうねん見開みひらき、いきんだ。

 土煙つちけむりただよみちさきに、武装ぶそうした鼠人そじん集団しゅうだんすでみちふさいでいた。

 しかも、その中央ちゅうおうには異様いようともべる存在そんざい屹立きつりつしている。

 チビがゆっくりとブレーキをけてまると、三兄弟さんきょうだいおなじようにしてまった。

「あいつら……なんてモノしてくんだよ」

 驚愕きょうがく表情ひょうじょうかべながら、少年しょうねんふるえるこえくちいた。

 

 そびえつようにみちふさぐ、異質いしつ存在そんざい

 それは ―― 【機動歩兵きどうほへい】とばれる人型ひとがた軍用兵器ぐんようへいきだった。くらいメタリックグレーにかがや威圧的いあつてきなその姿すがたは、全長ぜんちょうさんメートルをえており、かくばった鋼鉄こうてつつつまれた重装甲じゅそうこうたか防護力ぼうぎょりょくほこる。

 関節かんせつうごき、アクチュエータがにぶうなりをあげると、その隙間すきまからに冷却れいきゃくシステムがしろ蒸気じょうきる。電力でんりょく供給きょうきゅうするバックパックは背面はいめんにあり、これらがうごかす外骨格がいこっかくひと数十倍すうじゅうばいものちから発揮はっきすることができた。


にいちゃん……あれ」

 ジーが機動歩兵きどうほへいかた装備そうびされている重火器じゅうかき注視ちゅうし、二人ふたりあにこえけた。


 右肩みぎかたにはガトリングほうが、左肩ひだりかたにはガンポッドにおさめられた二機にきのロケットランチャーが装備そうびされている。


「……ちはしないさ、このまちには『死神リーパー』がいる」

「『死神アレ』とやりうほど、やつらは馬鹿ばかじゃない。まわりをろよ」

 ジーの疑念ぎねんをチンが否定ひていし、パンが補足ほそくするようにうながす。

 うながされるままジーが周囲しゅうい観察かんさつすると、わめらしているねずみ刃物はもの鈍器どんきってはいるものの、銃器じゅうきたぐいだれにはしていなかった。二人ふたりあにとおり、杞憂きゆうぎないとジーもかんがえた。


「なんで、おいらたちがここにいることがかったんだ……?」

 おびえた表情ひょうじょうのチビが疑問ぎもんくちにすると、ジーとパンがたりまえわんばかりのおどけた様子ようす返答へんとうする。

「そりゃ、あんだけ派手はでにやったんだ」

横道よこみちのないこのとおりにむことは、まぁめるわな」

「バレて当然とうぜんってことだ」

 最後さいごにチンがちいさなあたまをぐしゃぐしゃとでた。

 いまにもおそかってくるかもしれないまえてきから、ずっと視線しせんはずすことができなかったチビは、ようやくそばにいる大人達おとなたちかおることができた。

 

 そのとき後方こうほうにある普通車両ふつうしゃりょう後部座席こうぶざせきひらき、たかそうなしろいスーツを鼠人そじんおとこが、悠然ゆうぜんりてまえる。

 

 パンが目聡めざとくそれに気付きづくと、うんざりしたようにこぼした。

「おい、ろよ。若頭様わかがしらさまのおましだ」

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