第1話 赤い稲妻 ― 窮地②

「おい、ろよ。若頭様わかがしらさまのおましだ」

 うんざりするパンのつぶやきに反応はんのうして、一同いちどうはそこにった。

 しろいスーツにつつんだ細身ほそみおとこが、鼠人そじんれの先頭せんとう悠然ゆうぜんっている。

「なるほどなぁ、マウのくそ野郎やろう仕切しきってたってわけだ」

嫌味いやみふくやがって……いけかねぇ」

 チンが納得なっとくしたようにつぶやき、ジーがちいさく舌打したうつ。


 風格ふうかくただようマウとばれる鼠人そじん片手かたてげると、やかましくわめいていた構成員こうせいいんがピタリとだまった。そして、細身ほそみ体躯たいくから想像そうぞうもできない、凄味すごみのあるこえはっせられる。

「おいさる! それからうさぎ!」

 とどろこえ大気たいきふるえ、ビリビリとはだく。

大人おとなしくコアをわたせ! いてびれば、いのちだけはたすけてやる!」

 それをいた構成員こうせいいんたちが、下卑げひわらいを一斉いっせいらした。

一分いっぷんだ! 一分いっぷんめろ!」

 片手かたてげたまま、マウがふところ煙草たばこしてくわえると、小太こぶとりの鼠人そじんがすかさず近寄ちかより、手際てぎわよくをつける。


わたしちゃうの?」

 チビが座席ざせきすみいてあったコアを、不安ふあんそうにぎゅっとげ、そばにいるアムの顔色かおいろをうかがうようにながめた。

「バカうな。あたしたちのナワバリをうみにされてたまるかっての」

「……うみ?」

 大事だいじかかえている金属きんぞく球体きゅうたいが、殺戮兵器さつりくへいきゴルゴンの起動きどうコアである事実じじつらないチビ。

 そのキョトンとした無垢むくひとみが、ぐにアムを見詰みつめる。

 アムはわずかにはらち、少年しょうねんひたいつよめのデコピンをれると、三兄弟さんきょうだい視線しせんうつした。

「これからどうする?」

「…………アム、おまえはチビを使つかってボスと合流ごうりゅうしろ。さくはある。パン、ジー ――」

 チンは神妙しんみょうかおになり、手短てみじか作戦さくせん指示しじする。

「……オーケー、突破口とっぱこうおれつくる」

「そのタイミングで一気いっきけ」

 パンはバイクをでて鼠人そじんにらみ、ジーはチビのかたかる小突こづいた。

「ちょっとってよ! そんな作戦さくせんよりも小回こまわりのくバイクを使つかったほうげやすい、あんたらのだれかがコアを ――」

「アム」

 パンが言葉ことばさえぎると、チンがサングラスをずらして、しずかにアムを見詰みつめた。

おんな子供こどもがすのが、おとこたしなみってもんだろ?」

 いつもかくしてせはしない ―― ひとみ宿やどやさしいひかりにすると、アムはなにえなくなり、くちつぐんだ。

 かたわらでそのやりりをにするチビのちいさなむねは、けられたようにねつび、まえにいる男達おとこたちかおをしげしげと見詰みつめていた。

「……そううこった、あとまかせろ!」

 ジーが力強ちからづよさけんだその瞬間しゅんかん三人さんにん一斉いっせいにアクセルを全開ぜんかい。チンとパンは後方こうほうに、ジーは前方ぜんぽうかってはしす。


 同時にマウがげたまえへとろし、攻撃こうげき合図あいずおくった。

「やれ!」

 せきったように、怒号どうごうげて、一斉いっせい鼠人そじん集団しゅうだん

 その喧騒けんそう只中ただなか小太こぶとりの鼠人そじんがマウに近付ちかづき、つばのないかたなうやうやしくした。マウはぞんざいにそれをつかり、煙草たばこけむりをくゆらせながら虚空こくう視線しせんげる。

「……スー。もうすこしだけっててくれ」

 白煙はくえんはマウをきしめるようにただようと、いとおしくもはかなえていく ―― かれつぶやきにめられたおもいとともに。


 一方いっぽう、ジーのバイクは爆音ばくおんとどろかせ、機動歩兵きどうほへいかって一直線いっちょくせんけてく。

 はば鼠人そじんが、鈍器どんきまわしておそいかかるが、それらをたくみにかわして機動歩兵きどうほへいまえ辿たどくと ―― 土煙つちけむりまきげるようにタイヤをすべらせ、機動歩兵きどうほへいわまりをまわりながらバイクをはしらせる。

 がる土煙つちけむり視界しかいさえぎり、まとしぼらせないようにうごつづける、これは周囲しゅういにいる鼠人そじんへの牽制けんせいにもなった。

 強固きょうこ装甲そうこう強靭きょうじんなパワーをつものの、バイクのような小回こまわりの相手あいてには、対応速度たいおうそくどなんがある機動歩兵きどうほへい蒸気じょうききながら、爪型つめがた手指グリッパーまわしててきとらえようとするが、 相手あいて挙動きょどう見極みきわめ、つね一歩先いっぽさきんで行動こうどうするジーに、その攻撃こうげきたるはずもなかった。

 敵最大戦力てきさいだいせんりょく足止あしどめとう、自身じしん役割やくわりまっとうできると確信かくしんしたジーは、チンとパンの様子ようすうかがう。

 

 そして、二人ふたり姿すがたにした瞬間しゅんかん、ジーははげしく動揺どうようし、この作戦さくせん放棄ほうき決断けつだんするのである。

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