第9話 織田信長復活

5分ほどして、カレン、ジュリー、竜一、と男二人はジュリーの運転する中古のダイハツムーブに乗って北武蔵野台総合病院外科病棟きたむさしだいそうごうびょういんげかびょうとうまで急いだ。

「これは馬車か?」

「馬車にしては馬がおらん」

「馬は何処いずこじゃ?」

「この輿こしの下にかめがおるのではないか?」

「亀にしては早いのう」

「さては、うさぎか?」

 二人の男は後ろの席で竜一をはさんで、けたたましく会話している。

「静かにしてよ」

 カレンの言葉にやっと静かになった。

 病院に着いて手術室まで急ぐと、ガラス越しに医師、看護師ら数人が、信長を囲んで手術をしているのが見える。帰蝶もその様子を見続けていた。

 やがて、一人の医師が出てきた。

「如何なるか、教えてそうらえ」

 帰蝶が問う。

 医師は、

「出血がひどく、輸血が必要なのですが、血液型がBのRHマイナスという千人に一人という極めて稀な型でして、当院にあった備蓄は全部使い果たしました。あと、1000ccは必要なのですが・・・」

 と言うと、頭を抱えた。

「輸血? BのRHマイナス? 1000cc? 何のことじゃ?」

 帰蝶は、医師に問う。

 ジュリーが答える。

「色々あるのよ。とにかく先生を信用することよ。私に任せなさい。BのRHマイナス、一人知ってるから大丈夫。あいつの血液全部抜き取って、あんたの旦那さん助けてやるから」

「誰、それ?」

 カレンが問う。

「変人のB型、中でもRHマイナス、変人の中の変人、それは、渡辺太郎とか云う名前の最低変態男」

 ジュリーの答えに、

「うそー、面白い、早く連れてきてよ」

 カレンが答える。

 ジュリーは、アンドロイドジュリーに電話をする。

「今何してんのよ。渡辺そこにいるの?」

「はい、今、マッサージをさせていただいております」

ジュリーは、一言文句を言いたいが我慢をして、

「どうでもいいけど、その馬鹿野郎も役に立つこともあるってことよ。早く連れて来てちょうだい。あんたがその馬鹿をおんぶして走ってきたらいいだけよ。3分も掛らないでしょ。とにかく早くしてよ」

と言うと、

「了解しました。今すぐそちら、北武蔵野台病院外科病棟に渡辺教授をお連れします」

と返事すると、すぐさま、横になってマッサージを受けていた渡辺をおんぶし、3キロほど離れた病院まで走った。わずか1分ほどの出来事だった。

「渡辺教授をお連れしました」

アンドロイドジュリーは、体重62.7キロの渡辺をおんぶして、病院までの3キロの距離を時速300キロのスピードで1分もかからず移動してきたのだ。

「何だと、俺の血が欲しいだと。このB型RHマイナスという千人に一人の高貴な血を誰が欲しいのだ」

 渡辺がほざく。だが、簡単に押さえつけられて血を抜かれた。1000ccを抜くと渡辺は大人しくなった。急激な失血によりショック状態になったのだ。

「渡辺教授、大丈夫かな?」

 竜一が、倒れた渡辺を心配そうに見る。

「大丈夫、この男、ゴキブリに匹敵する生命力持ってるから、そのうちほっときゃ起きるわよ」

 ジュリーは答える。

 

 あくる日、信長が目覚めざめめると、白い光が目に入った。身体のあちこちに変な管が差し込まれている。状況が呑み込めない。やがて、

「ここは何処じゃ。蘭丸、槍をもてい」

 立ち上がって叫んだが、また、意識が遠のき倒れた。

 また、二日ほど眠り続けた。そして、三日目の朝、また白い光が目に入った。

「三郎殿、御目覚おめざめめか?」

 帰蝶の言葉に軽くうなづく。平朝臣織田上総介三郎信長たいらのあそんおだかずさのすけさぶろうのぶなが、復活!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る