第13話 お宝探し

 お宝さがしには、結局、渡辺が動員されることになった。日当8800円、昼飯付きというバイトに釣られたのだ。小牧山までスバルサンバーで行き、お宝を探してスバルサンバーに乗せ帰ってくるというバイトである。無論、小牧山まではワープ機能を使って瞬時に行くつもりであった。だが、しばらく使用していなかったので、ワープ機能が正常に立ち上がらない。結局、ガソリンをいて行くことになった。高速に乗れば八時間ぐらいだろうと思っていたが、渡辺の他に信長、蘭丸、弥助、帰蝶と合計五人が乗るとアクセルを踏み込んでもう80キロも出ない。危険なので一般道を行くことになった。丸一日はかかるだろう。渡辺の他に運転できる者がいないので大変な重労働だ。

「えらいこと引き受けっちまったもんだ。日当8800円じゃ割に合わないぜ」

 ぶつぶつ言っていると、

「何か不満か? 言いたき事あらば遠慮のう申せ」

 助手席に座る信長の言葉が投げかけられた。

「いえいえ、何でもございません。乗り心地はどうかと思いまして、へへへ」

 渡辺は、隣に座る男の正体は未だ知らない。だが、得体の知れぬ雰囲気を漂わせている人間四人の中のボスであることは分かった。そして、すでにペコペコしながらへつらっている。幼いころからいじめられっ子だった渡辺の危険に対するアンテナはまされている。

心地こごちはまことに良い。この伴天連風ばてれんふう椅子いすも柔らかで心地よい。満足しておるぞ」

「それは、それは、私どもも嬉しゅうございます。ところで、この安全ベルトをこのようにつけてくださいませんか。近頃、取り締まりが厳しいので、へっへっへ」

 渡辺は、自ら付けている安全ベルトをつかみながら言った。

「なに、この襷掛たすけがけをせねば、罰を受けると。なるほど、刺客に襲われた時にたすけをしておらねば反撃が難しいからのう。良い心掛けじゃ」

「刺客に襲われたときじゃなくて、ぶつかった時のためでやんす」

「何、平成の刺客しかくは体当たりで来るのか。なるほど、戦の時も体当たりでこかされて首を取られることはよくあることじゃ」

 ちぐはぐな会話をしつつ車は一般道をひた走り、途中、給油もし、コンビニ弁当を食い、静岡の旅館で一泊した。初めてのガソリンスタンドでの給油では、信長が訊いてきた。

「この車に何を入れておるのじゃ?」

「ガソリンでやんす」

「ガソリン?」

「油でやんす。この車は油で走るんでやんす」

「油? 菜種油なたねあぶらか?」

「菜種油でも走りやするが、ガソリンは石油とも申しまして、地中より取れる油でやんして・・・」

 渡辺は、会話を続けながら、金はいいから一秒でも早くこのアルバイトから解放されたくなった。

「地中より取れる油か、聞いたことがある。越後の辺りで時々出るそうじゃのう。すぐに火が付くものじゃとも謙信けんしんが寄こした使者が申しておった」

 静岡に近づいた頃、窓の外に富士山が見えてきた。

「おお、不二の山ではないか。三月ほど前に家康に案内して見せてもろうたわ。何度見ても見事よのう。だが、あのような窪みは無かったような気がするが・・」

 信長は本能寺の変の少し前に富士見物をしている。

「あれは、宝永の大噴火の噴火口でございまして、手前の小山は、その時の火山灰でできた山でございます」

「であるか。で、家康は無事だったのか?」

「無事というか、噴火は今から300年ほど前でして、徳川家康は、既に死んでおりますので心配することはないかと………」

「はっはっは、家康め果報者かほうものよのう。美しき富士の山を自慢しつつも、一たび火を吐けば、我らは何の仕様しようも無くほのうに焼き尽くされる天命だとか申しておったのう」

 信長の言葉に、渡辺は、ある種の疑問を抱き始めていた。もしかしたら、この男、本物の織田信長なのではないかという疑問である。


~~そう言えば、カレンの奴にあの転送装置を牛丼一杯で売ったのだ。もしかして、カレンの奴、何か細工してとんでもないことをやっちまったのか~~


 とんでもないことをやっちまったのか確認することにして、カレンに携帯電話を掛けた。

 返事は、あっけらかんとしていた。

「そう、そのとおりよ。彼は織田信長、蘭丸様も弥助も、奥様の帰蝶さんも一緒よ。ご機嫌そこなわないでね。彼らは怖いよ。じゃあ御無事ごぶじでね。グットラック、バイバイ~~」

「ちょっと待ってくれよ」

 電話は切られた。御機嫌ごきげんが悪くなったらどうなるんだ。首から下を埋められて頭をのこぎりで切り刻まれた川谷拓三の演じた杉谷善寿坊すぎたにぜんじゅぼうの最後の姿の大河ドラマの映像が脳裏をよぎった。


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