第6話 本能寺3

 信長はまだ眠っていた。部屋へやすみから信長の様子を二人は見ている。

 やがて、

「うるしゃきゃー、喧嘩けんかか、やめしゃせー」

 信長は起きて、そば小姓こしょうにそう言うとまた横になった。だが、時を置かず、小姓が一人あわてた様子で入ってきた。

蘭丸らんまるか。何事じゃ」

「明智殿、御謀反ごむほんにございます」

 信長はしばしちゅうを見つめていたが、

是非ぜひに及ばず」

 と言うと、かたわらに立てかけていた太刀を手に取り、

「弓をもてい」

 と命ずると、部屋を出て行った。蘭丸も後に続く。

「蘭丸様、やっぱりかっこいい。こんなイケメン見たことない!」

 カレンは、うっとりと蘭丸の後姿ごすがたを追いかけている。


 信長は、湯帷子ゆがたびらの姿で迫りくる明智勢に弓をかけている。つるが切れると新しい弓に取り換え弓を射続ける。

 明智勢は、

「家康はあれぞ、首を挙げよ」

 と叫び、弓を射かけ、鉄砲を撃つ。

「やっぱりね」

 カレンがささやていた。

「明智光秀は、家康を討つと兵たちをだましていたのよね。じゃないと、謀反むほんを働いて、信長を討つと分かると、さすがに兵たちも引いてしまうよね。明智勢と言っても、その大半は信長の家来でもあるんだから」

 カレンは、自分の推測が当たったことで満足げだ。

「しかし、信長の顔を見て家康じゃないこと分からないのかね?」

 竜一は、カレンに問う。

「この時代、写真がある訳じゃなし、信長や家康の顔を知ってる兵なんてまずはいないよ。尾張の豪族時代だったら足軽たちも顔は知っていただろうけど。この頃になると、下っ端になると全然だろうね」

「なるほどね」

 信長は、弓が途絶え、やりを持って戦っていたが、やがて、ひじと太ももを負傷した。小姓を呼び、火を放つよう下命し、奥へと退いて行った。カレンと竜一はその後を追う。奥の部屋に入り戸を閉めた。カレンと竜一はその戸をすり抜ける。中には、信長の他に、森蘭丸、黒人の弥助、そして、おばはんが一人。

帰蝶きちょうつづみを打て」

 信長が、おばはんに命じる。

「あいよ」

 おばはんが答える。

「帰蝶さん、やっぱり一緒だったんだ」

 本能寺の変前後の信長の正室「濃姫のうひめ」こと帰蝶の消息は分かっていない。カレンは、ここでも自分の推測が当たり喜んでいる。


 信長が舞い始めた。御存じ十八番、幸若舞こうわかまい敦盛あつもり」だ。何とかの一つ覚え、生涯唯一の一発芸「敦盛」。

゛人間五十年、下天げてんの・・・・

 帰蝶の鼓の音が調子よく入る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る