第12話 堕獄
「残念だったな、横山美優──いや、愛子」
英介は押し殺したように笑いながら肩を揺すった。
「危うく騙されるところだったよ。だが、生憎と俺には優秀な犬がいるんでな」
そう言って山田の襟首をつかんで引きずって来るのだった。
「山田が全部白状したよ」
美優は山田を見る。だが、彼女はこちらを見ようともしない。
ただ小声で「ごめんなさい……ごめんなさい……」と繰り返しているだけだった。
「手の込んだことをしてくれるもんだな。死んだなんて葉書をよこしやがって。おまけに整形して名前まで変えて」
美優はチラリと腕時計を見る。
(もうそろそろ式が始まるころ──!)
次の瞬間、思い切り腹を蹴られた。美優は埋まりながら咳き込む。
「何時間を気にしてんだよ! ひょっとして誰かがプロジェクターに仕掛けた画像を再生してくれんのを期待してんのか」
英介は美優の髪の毛を鷲掴みにして、無理矢理顔を持ち上げる。
「残念だったな。お前が仕込んだものは、全部部下たちに回収させてるんだよ!」
そして美優は頬を打たれる。
「執念深い女だな」
そう言って美優のハンドバッグを手に取ると、中をまさぐった。
「やっぱりな」
ボイスレコーダーを取り出すと、スイッチを切って床に叩きつけ、さらに上から何度もは見つけるのだった。
「本当にお前は俺の足を引っ張ることかしない女だ」
怒りに任せて、再び美優は足蹴にされるのだった。
「先輩!」
田崎が倒れた美優の近くで膝をついた。
「この子は後で僕が楽しむんですから、これ以上は傷つけないでくださいよ」
「お前、本当にそんな女でいいのか? 俺のお古なんだぞ。第一コイツは流産してぶっ壊れた女なんだからな」
「知ったますよ。だってあの日、この子を階段から突き飛ばしたのは僕なんですから」
美優は目を見張る。それを見た田崎は「キャハハ」と甲高い声を上げた。
この声はてっきり浮気相手の女の笑い声だと思っていたが、実は田崎のものだったというわけだ。
「英介からいくらもらってるの?」
美優はにらみつけるが、田崎はまったく意に介していない様子だ。
「え? お金なんてもらってなおよ。ただ、女の子の世話をしてもらったり、仕事を紹介してもらったりしてるんだ。もちろんこの会社で働けるようになったのも、先輩の口利きなんだよ」
田崎は胸に手を当てて天井を見上げる。
まるで舞台の上でスポットライトを浴びている役者のように、やや芝居がかったような仕草だった。
「この会社はいいよね。頭の弱い子が多くて。好きなものを買ってあげるって言ったらみんなすぐに股を開く。でも、君は違うんだよね。何より、整形してまで先輩に復讐しようだなんて──そんな子を犯せるなんてゾクゾクするよ!」
「く、狂ってる……」
美優は尻餅をついたまま後ずさると、床についた手を踏みつけられる。
「どこに行くんだよ! このクソアマが!」
英介か見下ろしていた。
「テメェのせいだからな、愛子。テメェがいなかったら、俺はとっくにこの会社の社長だったんだ」
「な、何を言ってるわけ?」
「ここのバカ女を引っ掛けていい感じになったタイミングで妊娠なんかしやがって。田崎に言って流産させて、うまい具合に植物状態になったかと思ったら、今度はお前のところのババアががねやがったんだ。
だから自殺に見せかけて殺して、これでやっと
カタがついたと思ったら、この死に損ないが現れたってわけだ」
今度は顔を踏みつけられる。
「まあ、ギリギリのところで尻尾がつかめてラッキーだった。田崎が楽しんだ後は愛子を始末すりゃあいい。そんであのハゲ親父はじっくり薬でも盛って殺してやれば、晴れて俺はこの会社の社長ってわけだ」
英介はタキシードの裾を直す。
「くだらない時間を使っちまった。今ごろ新郎が現れないんで騒ぎになってるはずだ。田崎、後始末を頼んだぞ」
「了解で~す!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます