第10話 疑心
山田を味方につけてからは、驚くほど作業が進んだ。
理由は、山田は想像していたよりも、英介に近い存在だったからだ。
婚約者の社長令嬢に内緒で借りているマンションの場所や、パソコンのパスワード、スケジュールについてなども把握しているのだった。
そのことついて山田は、
「たぶん弱味を握ってるから、わたしが裏切るはずがないって思ってるんだと思う」
と、寂しげに笑っていた。
確かに誰もがインターネットを使える昨今、知られたくない画像を撮られてしまった場合、足枷となって一生縛りつけることになるだろう。間違って表に流出するようなことがあれば、まさに「デジタルタトゥー」となって苦しむことになる。
山田には同情するし、同じ女性として英介のやったことは許せない。
ただそのおかげで、英介に
復讐する材料を難なく集めることができているのも確かなため、複雑な心境ではあった。
救いがあるとすれば、山田は出会ったころよりも元気になっているということだ。
このころには「美優ちゃん」「和葉ちゃん」と呼び合う仲にまで打ち明けることができていたのだった。
「このまで来ると、もう病気だね」
美優がそう言うと、山田もうなずく。
「バレるなんて、微塵も考えてないんだろうね」
すると山田は声を落とした。
「やっぱり美優ちゃんと結婚してた時も、浮気してたの?」
「もちろん」
実は山田には全てを打ち明けているのだった。
仲間に引き込むためには、隠し事をしていてはうまくいかない。逆に誰にも知られたくないほどの秘密を共有することで、一気に溝は埋まると考えたのだ。
「美優ちゃんも……辛い目に遭ったんだね……」
「和葉ちゃんが落ち込む必要ないじゃん」
美優は努めて明るく言った。
「正直、ホッとしてるの」
「どうして⁉︎」
「だって心を入れ替えて、いい人になってたら困るじゃん。でも相変わらずのクズだってわかったから、心置きなく地獄に堕とせる」
そうでしょ? と、山田を見ると、彼女も微笑みながらうなずくのだった。
「それはそうとさ」
今度は美優の方が声を落とす。
「和葉ちゃんの例の画像は回収できた?」
英介に握られている弱味の件についてだ。
「うん。あとは部長のスマートフォンの中にあるぶんを消去できれば大丈夫だと思う」
「てことは本番をまつだけだね」
美優は立ち上がると、大きく伸びをした。
「じゃ、昼休憩もそろそろ終わりだから、戻りますか」
「だね」
山田は歩いて行く美優の背中を見て、頬を持ち上げる。
「和葉ちゃん! どうしたの? 早く戻らないと、部長に怒られるよ!」
「うん! 今行く!」
山田は小走りに駆け出すと、すぐに美優に追いつくのだった。
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