第2編 ホール
11 M78
一番、気になっているところだ。
オリオン座にあって、紫っぽいんだ。
明るく光っているんだけど、近くにもっと明るいところがあるんだよ。
78ってのは、確か見つけられた順番だ。
よく記録に残したな。
何がいると思う?
多分何もいない。
あるのは常に我々の頭の中だ。
結局のところ、我々は光を見ている。電磁波だって光だし、粒子だって光ってる。
我々だって光ってる。
でも光なんてものは近づかないと見えないものだ。
自分で光っているのは太陽で、照らされているのが地球だから。
でもあそこは遠い。
だから光の国と呼んでもいい。
12 アストロノーツ
ステーションの外に出てごみを拾う。
ステーションの中でごみを拾う。
新しいのがやってくると、ちゃんと誘導しないといけない。
まあ、たいていは向こうが微調整するから、
あえて、手を出す必要はないんだけれど、行き過ぎると、これが厄介だ。
位置を決めて、まずはこちらを開ける。で向こうが開ける。
問題はつなぎ目はどうやったって残ってしまうってことだ。
慎重に様子を見る。
実はこれは、状況によって異なる。
出すものが先か入れるものが先か。
決まってるだろう。まずは出さないと何も入らない。
出して、詰め込んで、終わり。
送り出す。
後はどうなるか、決まりきったことだし。特に感慨もない。
ただ、たまには見えなくなるまで見たい時もある。
13 昼、リビング、弁当を並べて
何を考えたか、弁当をいくつか買い込んだ。
で、選んでやろういうわけだ。
仮にこの真ん中のやつを太陽としよう。
一番大きいからだ。
でも、よくよく考えると、左から3番目は厚みがものすごい。
でも、よくよく見てみると、右から2番目はおかずがかなり多い。
待ってくれ。
太陽は俺の一番好きなものだ。
これが好きでわざわざ弁当を買ったんだ。
他の連中は何だって俺のところにいるんだ?
目移りしたから?
よさそうに見えたから?
今更戻せないし、しょうがないから冷蔵庫に入れておく。
冷めたら、まずいが、今熱くても、それだけでしかない。
14 旅行
夜空を見上げると、満天の星空。
無数の光が降り注ぐ。
一歩踏み出すと、自分の足は何もない空間をしっかりと踏みしめる。
もう一歩踏み出すと、自分の足は無数の光としっかりと踏みつける。
目の前に光が広がっているのに、どうやってもたどり着けない。
歩けば歩くほど、光がどんどん遠ざかっていく。
しかしそれが心地よい。
足元には無数の光が敷き詰められていて、頭上には無数の光が散りばめられていて、前を向けば決して手が届かない光が待っている。
目の前に光がある限り、足は止まらない。
足が止まらない限り、目の前に光が瞬き続ける。
旅に出た。
面白い旅だ。だが、二度と戻ってこないだろう。
振り返ってもそこには無数の光しかないのだから。
15 ぱらぱら
ぱらぱら
ぱらぱら
ぱらぱら
ぱらぱら
ぱらぱら
もし、こんな風にあの光が落ちてきたらどうしようか。
まあ、一個ぐらい飲み込んでもいいんじゃないか?
多分面白い味がすると思う。
16 ドロップ
前回、一個食べたわけなんだけれども、これが意外といけたんだ。
なのでもう一回食べてみようと思うんだけど、そう簡単に落ちてこない。
しょうがないから、何とか記憶を引っ張り出して、再現してみた。
最初にできたものは失敗。
砂糖じゃ甘いだけだってことが分かった。
次にできたものも失敗。
塩を入れ過ぎた。
その次にできたのは成功。
普通にうまい飴玉だ。これはいずれ飯のタネに使用。
その次にできたのは失敗。
硬すぎた。
次のを最後にした。
こういうものはだらだらやっていても成果は出ない。
どうなったと思う?
飲み込んでみればわかると思う。
17 ダイヤモンド
ダイヤモンドを手に入れる機会があった。
手に入れたのだが、カットされていない。
これではそこらの水晶と見た目は何も変わらない。
カットしようにも職人技だ。素人には手が出せない。
何とか、ちょっとした輝きだけでも感じ取りたいと思った。
金槌を取り出した。
電気を消した。
ペンライトのスイッチを入れて、適当に置いた。
大きく振りかぶって、金槌を振り下ろした。
ダイヤモンドが砕け散る。
粉々の破片が周囲に飛び散る。
僅かな光を反射しながら、四方八方へ飛び散った。
ほんの一瞬、ダイヤモンドは瞬いた。
その一瞬の記憶を引き延ばすと、世界はダイヤの光に満ち溢れている。
18 3号車、少し暗い
4号車、明るいからか人が多い。
5号車、明るいから人が多い。
6号車、明るいせいか人が多い。
7号車、遠すぎて暗く見える。
車窓の外は黒一色。
暗さとは、明るさ。
明るさとか、暗さ。
暗いからこそ、明るいかどうかがわかるのだ。
明るいからこそ、暗いかどうかわかるのだ。
何もわざわざ、歩いていく必要はない。
ここが暗いのなら、どこかに明るいところが必ずあるはずだ。
目を凝らしてみるしかない。
運よく見つけたのなら、それは忘れられない記憶になる。
19 会いたい人がいるんです
その人は、今日、この時間、この場所に、来るはずです。
その人は、昨日、あの時間、あの場所に、来ました。
その人は、電話を持っていません。
その人は、手紙を書きません。
昨日、会えたはずだったのですか、すっかり忘れてしまって。
今日はきっと会えると思っています。
会ったら何をしましょうか。
最近あったことをいろいろ話してあげましょうか。
面白いことは一つ、二つは覚えていますが、知らないといいですが。
足音がして振り返ると、足音が粉々に砕けて、私の顔に降り注いできます。
砕け散った足音に、耳を澄ませると、何も聞こえてきません。
その代わり、砕け散った音が私の目にしっかりと焼き付きます。
よかった。会えました。
では、また今度。
20 ホール
見上げた世界は、光と闇の入り交ざる無限の海。
瞬く光は、星と星とが張り上げる、叫び声に他ならない。
ある星が叫ぶ。まもなく燃える。
またある星が叫ぶ。体が回る。体が回る。
またある星が叫ぶ。こんなにも体が大きく体が重い。
またある星が叫ぶ。誰も聞いてはいませんでしょうが、私の名前は。
そしてある星がうなる。ザーッ、ザーッ。
光は不変永久ではない。今この瞬間を生きる星々の叫び声の塊で、その残響だ。
遠く離れた世界では、無機物の魂の叫びが空間中を響かせる。
宇宙に音はない。だから光るのだ。
あの光はあるいはフルートの優雅な音色かもしれない。
あの光はコントラバスの重厚な響きかもしれない。
あの光はブブゼラのつんざくような破壊の調べかもしれない。
ならば私たちの光は何と言っているのだろうか。
どんな調べをこの世界の外に響かせているのだろうか。
そして、その声の主は誰なのだろうか。
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