第13編 火星人

1 ドアの色


茶色のドアを開けて飛び出る桜の木、緑のドアを閉じると向こうでうなる鳥。白のドアに手をかけて、そこには何もなくなった。



2 カメラのレンズの割れた破片


レンズの破片を手に取って、覗くと見えるあの景色。電波が舞って、摂氏が歌う、砂のビートでUVダンス。



3 折り鶴


君の手本の折り鶴を真似てひたすら折り続け、ふやけた紙がなくなった。夜も更ける自己満足。



4 懐中電灯


僅かな電池に恨み節。草の音色と羽音に踊り、見えない獣に見える人。消える世界と消えない心。



5 馬肉


紙吹雪、舞う中首を垂れて啼くと、迫る後悔、たまらない。駆けて入ったカウンター、八つ当たりの赤身肉。



6 フランスパン


互いの願いを剣にかけ、決闘、幕を切って落とす。煌めく刃が刃を断ち、落ちた刃が香ばしく、凱旋門を潜り落ち。



7 乙女


夜空を仰ぎ、幼馴染の女を探す。スピカ、ポリマにミネラウヴァ、そらで分かるほど見てるのに、LINEはどこにも見当たらない。



8 半チャーハン


ラーメンがそろそろ伸びる頃合いに、慌てた店員、大騒ぎ。悔しいけれども心地よい、焼けた舌に泣きっ面。



9 熊手


孫の手を借りたいけれどもいざ知らず、暇ゆえに猫の手外をぶらりぶら、奥の手、熊の手、でかすぎる。



10 火星人


大阪で一番会いたくない人と出会った私の運は尽く。気の毒に思い声をかけてみる。いや、もう6つも食ったのか。

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