詠集 「星海(ステラマリン)」
劇団騎士道主催
第1編 コンタクト
1 散歩
ただ思うまま、気の向くまま歩く。
見慣れた場所、歩きなれた道、億劫な路地。
日が落ちると、何もかもが入り混じる。
迷路ができて、迷宮の中に取り残される。
明かりが一つ光っている。もう一つ光っている。どんどん増えて、数えきれなくなる。
どれか一つを目印にして、ひたすら足を前に出すけれど、そのたびに何もかもが遠く離れる。
ここはどこで、あそこはどこで、自分はどこへ行くのだろうか。
下を見ると、小汚いアスファルトが微かに道を示す。
見上げれば光が何もかもを欺いていく。
まだ、歩き出したばかりだ。
2 コンタクト
見上げると夜空に瞬く光。
じっと見ていると、いつの間にかお気に入りが一つ。
そっと二本の指で掴むと、
透き通ったレンズに光が瞬いている。
そっと片目にはめ込む。
広がるのは世界で、自分の居場所はあの星の果て。
けれど、何も変わらない。
見上げた夜空に瞬く光を見る。
3 銀河
川、渦、川、渦、川、渦。
何もかもを巻き込んで、ただひたすら回るもの。
何もかもを引っ張って、何もかもを巻き込んで、ただそれだけでしかない。
銀とは言うけれど、白い、赤い、青い。
河というけれど、ただの点にしか見えない。
近づいてみれば、なるほど確かに河なのかもしれない。
光が恐ろしい速さで、流れているのだろう。
しかし、近づいてみれば、きっと何も変わらない。
何もかもが止まったまま。
なぜなら自分も流されているから。
4 塔
塔が一本立っている。
どこまでも伸びているその先は、あの星を突き刺している。
塔が一本立っている。
どこまでも伸びているその先は、あの星を突き抜けている。
本当か?
首をかしげると、塔は別の星に狙いを定める。
これはまずいと慌てると、塔は夜空をかき乱す。
星雲がまき散らされ、星がバラバラになって、星が固まる。
今度は塔に上ってみる。
そうすれば、
今度は、伸ばしたこの手が、星をちりばめるだろう。
5 まるいもの
ボール 転がっていく。弾む。
顔 かわいらしい。食べ過ぎだ。
石 珍しい。川底を探した方が簡単に見つかる。
丸井 誰? 今のところ知り合っていない。
性格 気を付けないと、いつの間にかいなくなっている。
まるいとは何かを調べてみると、幾何学の文字列が頭の中を取り囲む。
それは丸い、丸い?
円周率と直径が示すのは丸いものではなく丸いところ。
コンパスは?
ちょっとするとあれこそ本当に丸いものかもしれない。
6 ※
なにかあったのか?
何かやらかしたのか?
何か気づいてもらいたいのか?
でも、本当のことを教えてあげると、こんなもの小さすぎてまともに読むやつはいない。
そういうやつは言われなくても分かっているから。
こういうことははっきりさせておけばいいのだ。
※もしかすると思い違いなのかもしれません。ご了承ください。
7 火星
火星の大地は赤い。
本当にそうだろうか。
行ってみたいのはやまやまだが、どう頑張っても無理だろう。
君は宇宙飛行士になれるかい?
あいにく、私は空すら飛べない。
写真で見ると確かに赤い。
動画で見ると、赤く見えない。
じゃあ目で見たらどう見えるのだろうか。
赤く見えるし、赤く見えないんだ、決まっているだろう?
なら火星色とでもしようか。
ちなみに夜明けは青いらしいぞ。
そういうことは色を決める前に言ってくれ。
8 糸電話
いいものを手に入れた。
どこでも通話できる衛星電話。
これがすごいのは、何と言っても字のごとく。
衛星と電話がつながっている。
電波だ。電波が互いから伸びてしっかりと結ばれている。
見えない糸でつながっている。
だったら引っ張り上げればいいだろうね。
糸じゃない、波だ。
波は粒だろう?
粒は繋がっている。
なら糸でいいじゃないか。
9 アンドロメダ
ベテルギウス、フォマルハウト、ポラリス、ベガ、スーパーノヴァ、クエーサー、ブラックホール、マグネター、グレートアトラクター、ボイド、グレートウォール、ガンマ線バースト。
アンドロメダって銀河なんですよ。
で、地球にも近いんですよ。
でも、何が中にあるんでしょうか。
星です。星ならいっぱいあるだろうね。
光っているのが恒星なら、その100倍どころの騒ぎではないだろうね。
知りたいなら望遠鏡で覗けば見えるだろうさ。
割りと整った形の銀河がね。
10 船
今日、船を見つけた。
昨日、船を探した。
一昨日、船が落ちた。
明日、船に乗った。
昨日、船が見当たらなかった。
先月の初めの頃、船に乗ったと思ったら乗っていたのはただの夢で、起き上がったら船を探しに行こうと心に決めていた。
船は星の中を進んだとか。
まってくれ、どこからどう見ても木製じゃないか。
ならいいだろう。
良くない。
もろくて、命がいくつあっても足りない。あいにく一つしかないんだけれど。
だったら喜べ。
水平線が新しくなったところだ。
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