第7話 Misty Tale

 少年は、先ほどまで少女がいた花畑を一瞥する。そして小さな円をひとつ、虚空に描いた。


 それが合図。少年をも騙していた幻は粉のように花々からこそげ落ち、鮮やかな色素の雫が花弁を伝ってしたたる。


 秋が冬を迎えようとしている頃なのに、美しく花開いているなんてありえない。


 肌寒い空気に当てられた花は、硬く変色して萎れてしまっていた。その内の一輪が風に手折られ、少年の足元まで飛ばされる。

 彼はおもむろにその痩せた茎を摘まみ、握る手の中にくしゃりと包んだ。


 実りの季節はけして来ない。


 ――――さあ、永遠の痛みが始まる。


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月狩りの森 イオリ @7rinsho6

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