人類への侵略はすでに始まっていた。絶対に抗し得ない、圧倒的な力で。それも、ごく身近にいる「彼ら」によって。
選ばれた「人類への裏切り者」たる人たちが集められた、小さな箱庭のような街では、「彼ら」と「人類への裏切り者」たちによる実験が繰り返される。人類を管理するために、そして管理をのがれる道を見つけるため(のはず)に……。しかし作中の状況が明かされるにつれ、喉を締めつけられるような絶望感が、読み手にも静かに押し寄せてくる。
人類の種としての夕暮れが立ち込める街に、ばらまかれたおぞましい実験の爪跡。「彼ら」の直接間接の干渉によって、重大なものが欠落してしまった住民たち。果たして、なぜ「彼ら」は人間を管理しようとし、何を目指しているのか。そして最後の子羊となった主人公は、街からあふれ出ようとする絶望の果てに、希望を見出すことはできるのか。
パズルのように、精緻に仕組まれた街から手がかりを求めて思考する楽しみは、推理小説のようで、黙示録ミステリーとも呼べそうなおもしろさ。人の思いやりに触れたときの安堵感と、人ゆえの利己心を見たときの失望感。主人公はどうするつもりなのかというスリル盛り上がる構成。引き込まれてしまう。できればイッキ読みして、カタルシスの余韻を味わいたい。
怖いという感情は、身の危険に対する防衛本能ですが、もう一つ「明らかでない」という不確かな現象に対しても想起されます。
不明とは、突き詰めれば危機意識の表れではありますが、現代社会に於いて、おそらくほとんどの危機回避シミュレートは存在しているのではないでしょうか。
フグの毒も、落雷時の対処、横断歩道を歩いている際に赤信号で爆走してくるトラック。
どうすればいいか、みんながそれぞれに対処法を持っていることと思います。
また、不明の代名詞でもある幽霊に至っても、どんな怪異に触れたらどうすればいい、みたいな対処手段は確立されていて、昨今では口裂け女やトイレの花子さんによる犠牲者も減少の一途をたどっているとかいないとか。
いずれにせよ最近のアニメ「ダンダダン」などで語られる幽霊や宇宙人、UMAといった不明に対しても、奴らの正体は不明のままでも、対策は完璧に網羅されていると言ってもいいでしょう。もちろん、対策を知っているからといってどうにもならないことはあります。
昨今の創作界隈でも、なかなかに目新しい不明は存在しないなぁ。という印象です。
つまり、怖いという感情は「やっぱ生きている人間が一番怖いよね」といった人の異常性を追いかける創作が増えている気がします。
それはお前が知らないだけだろ! というお叱りはもっともな話です。だって怖いものは怖いんだもん。と、できるだけホラー作品には触れないように生きてきたんです。
そんな中、本作の作者である黒澤カヌレ氏が紡ぐライトで笑える短編ホラーを見かけたことが、本作に嵌るきっかけとなりました。
入りやすい短編を餌に、とんでもない作品に誘導されてしまいました。
読み始めたら止まらない、そこは読み進めなければ救済されない夢のような地獄です。
不明の提示に対し、作者が用意した伏線を辿り解き解す。公的な解を得なければ、不明の迷宮からは逃れることができない。
読み進めた先で得たカタルシスによって不明は払拭されたものの、作中で提示された疑念は心と魂に刷り込まれ、これからの人生に大きな影響を及ぼすことでしょう。
それだけ本作を観測するには覚悟が必要です。
ただそれ以上に、出会えたことに感謝するほどの快作だったということは明確でした。
人類の手には負えないような圧倒的な力を持った動物達。人の意識を操る力を持った彼らは、「人間を管理」すると宣言した。
彼らは、人間が思いつくような戦い方では絶対に倒せない。人類は敗北した状態から物語は始まります。
世界はいつも通りに進んでいるのに、限られた一部の人間だけがこの恐ろしい事実を知っている。モデルケースにされた町に連れてこられた瑞原直斗は、動物達に対してどう動けばいいのかと葛藤を続けます。
なぜ彼らは人を操る力を持っていて、どうして管理することに決めたのか?
怪異として描かれる動物達はとても不気味で、絶望感が凄まじいです。
でも真相が気になり、ホラーが苦手な方でも最期まで読めてしまうと思います。間違いなく、『最後まで読んでよかった!』と思える作品です!
ぜひ、読んでみてください!
『アナタは、ニンゲンのダイヒョウにえらばれました』と奇妙なカラスに言われて、他人を自由に操れたら、あなたは何をしますか?
これまでいじめてきた奴に復讐できます。
気に食わない奴をひどい目に合わせることもできます。
人に変なことをさせて、面白がることもできます。
ただしそれは、アナタの行動によって人間というものを観察・研究し、『人間を管理』するためのガイドラインを定めるための、カラスの一時的な協力なのです。
人間の精神を自由に操ることができるカラス。
そのカラスが、ピックアップした人間の望みをかなえてやると同時に、『人間を管理』するための方法を学んでいくさまは、ぞっとします。
そしてそのカラスだけでなく、多くの動物たちが人間の精神を自由に操る力を持っていて、『人間を管理』し、ひそかに侵略をはじめていたのです。
この恐ろしい事態を覆すことはできるのか。
ニンゲンのダイヒョウたちの苦闘が始まります。
面白いです。ぜひ読んでください。