絶望をすり抜ける道はないのか。最後の子羊の選択は。
- ★★★ Excellent!!!
人類への侵略はすでに始まっていた。絶対に抗し得ない、圧倒的な力で。それも、ごく身近にいる「彼ら」によって。
選ばれた「人類への裏切り者」たる人たちが集められた、小さな箱庭のような街では、「彼ら」と「人類への裏切り者」たちによる実験が繰り返される。人類を管理するために、そして管理をのがれる道を見つけるため(のはず)に……。しかし作中の状況が明かされるにつれ、喉を締めつけられるような絶望感が、読み手にも静かに押し寄せてくる。
人類の種としての夕暮れが立ち込める街に、ばらまかれたおぞましい実験の爪跡。「彼ら」の直接間接の干渉によって、重大なものが欠落してしまった住民たち。果たして、なぜ「彼ら」は人間を管理しようとし、何を目指しているのか。そして最後の子羊となった主人公は、街からあふれ出ようとする絶望の果てに、希望を見出すことはできるのか。
パズルのように、精緻に仕組まれた街から手がかりを求めて思考する楽しみは、推理小説のようで、黙示録ミステリーとも呼べそうなおもしろさ。人の思いやりに触れたときの安堵感と、人ゆえの利己心を見たときの失望感。主人公はどうするつもりなのかというスリル盛り上がる構成。引き込まれてしまう。できればイッキ読みして、カタルシスの余韻を味わいたい。