第9話 村を出る決意をしてみた
「健殿、ご足労をおかけし申し訳ございません。村長、すみませんが健殿と2人きりにしていただけませんか?」
「畏まりました巫女様。失礼いたしますじゃ。」
……「さて、健殿。此度の件のご活躍、本当に心から感謝申し上げます。して、どの様な褒美を所望されますでしょうか。」
「いやいや、俺はただこの村が気に入って、守りたかったから知識を貸しただけだ。特に褒美は必要ないぞ。」
「いけませぬ。妖狐族の巫女たる私が、村の役職に就く者たちの前で貴方様に依頼したのです。これに、褒美の一つも与えないのでは周りに示しがつきません。」
(そうは言ってもな…。俺はただ、向こうの世界の知識を少し貸しただけだしな…)
「健殿、貴方様が謙虚な方なのはもう十分に理解してございます。しかし、此度の件は村の、引いては妖狐族の未来にとって大きな借りでございます。ここで無理にでも何か褒美を所望して頂かなければ、こちらの果敢に関わります。……とはいえ、直ぐに思いつく事のない、その健殿のお人柄が私も気に入っております。明朝、ここで表彰の儀を執り行います。それまでにお考えください。」
「ああ、わかった。何か考えておくよ。」
(褒美か……特に何も思いつかないんだよな…。ちょっとエッチなことでも頼んでみるか…?いやいや、表彰式でそんな冗談の許されるわけないし……)
「クスッ…。私の身体にまだ興味がお有りのようで。健殿に未来永劫、種族を背負う覚悟がお有りでしたら私としてもやぶさかでは御座いませんよ?」
『長の間』を出ようとする俺にフローラが笑いかける。
(また、心を読まれたか。未来永劫…死ぬまでこの村で過ごすのも悪くは無いかもな。けど、せっかくの異世界、まだまだ見たことの無い世界を見たいかもな……。)
――――その日は、ジャイアントボア討伐の宴会が開かれた。
「おー!美味いな。やっぱり猪肉に似た味だ。しかし、獣臭さは全然ないな。」
「美味しいですよね。ジャイアントボアのお肉はたまに、人族の商人が村に売りにきます。皆んな、大好物なんですよ。」
フロンは美味しそうに肉を食べている。
妖狐族は、作物も食べるが主食は肉らしい。
これも狐の他の名残だろう。
「なあ、フロン…。」
「なんですか?健さん。」
「俺は2日後には、この村を出ようと思う。」
「そうですか…。」
「せっかく異世界に来たんだ。俺はもっとこの世界を見て回りたい。他の獣人族と仲良くなったり、俺と同じ、迷い人としてこの世界に来た奴に会ってみたい。まだ食べたことの無い物を食べてみたいし、行ったことのない場所に行ってみたい。そう思うんだ。」
「わかりました……。」
その日の晩、俺はフローラの屋敷で明日の表彰式のことを考える。
(褒美を決めないとだな…。まあ、適当にこの世界の地図か知識の詰まった図鑑とかなんかにするのがいいかもな…。)
そんな事を考えながら眠りについた。
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