転職回数99回の俺、記念すべき100回目は異世界勤務!?

@YumeUturo

第1話 異世界転生してみた。

「―――転職するか…。」


就業時間をとっくに過ぎた時計を見て、俺はパソコンを閉じながら転職する事を決意する。


「この会社もブラックだったな…。これで転職回数99回か…?」


俺――須藤健は、中学を卒業すると同時に社会人になった。

社会人となったは良いものの、残念なことに職場環境に恵まれたことは一度もない。

残業代のでない会社、当たり前の様に殴りかかってくる上司、社長の詐欺がバレて倒産したことすらある。

そんな不運に見舞われ続け、気づけば転職回数が99回にもなっていた。


(そろそろ、転職のし過ぎで異世界転生してしまうんじゃないか?)


そんな馬鹿げた事を考えながら、会社を出ようとした瞬間、足元に広がる眩い光の中に吸い込まれるように意識が沈んでいった。


 (あ、コレ、過労死ってやつだ……。)







―――意識がはっきりして来た頃、目の前に広がる見たことのない動植物達。


(え!?マジで……? 異世界転生キターーー!)


どうやら本当に異世界に転生してしまったみたいだ。

連続勤務からの疲労感はなく、頭の中もとてもスッキリとしていた。


「……とりあえず、自分の姿を確認したいな。」


転生もののお決まり、といえば召喚された勇者だろう。

でも、召喚した召喚主や王様ぽい人は見当たらない。

そうなればここは異世界、もしよくわからない生き物とかに転生してたらどうしようか。

そんな一抹の不安が脳裏をよぎる。


近くの小川で自分の姿を確認する。


「俺……だよな?」


水面に映るのは、無精髭を生やしたくたびれた30代後半のオッサンではなく、若々しく肌にハリのある黒髪の20代前半の青年だった。

心なしか、身長も少し高くなっている気がする。


「よし。とりあえず人間でよかったわ。けれど、これからどうするかな……。」


見渡す限りの大自然。


(こういう時は普通、魔物に襲われる美少女とか。突然とんでもスキルに目覚めるのがお決まりだろう。)





しかし、待てど暮らせどそんな運命的な出来事は起こらなかった。

魔法が使えるかもと思い、思いつく限りのポーズや呪文詠唱も試してみた。

それでも何も起こらない。


(コレ、詰んだんじゃね?)


そんな事を考えても仕方がないので、とりあえず周囲を探索してみる。


「ココ、ほんとうに異世界だよな?………なんだこのキノコ?うわっ!?」


木陰に密生するキノコの様なものを見つけた。

手に取ろうとすると突然、木の根でできた足のような物が生えて走り去っていったのだ。


「異世界で間違いないな…。逃げるってことは、天敵に食べられる可能性があるということ……つまり食える!」


腹も減っていたし、とりあえず捕まえて食べてみることにしたのだ。

※見たことのないキノコは、危険なので食べないようにしましょう。



「うーん…。火は弓切り式で確保できるとして。ただ焼くだけだと味気ないな…。」


なんとか2本?のキノコを捕まえて、次は調味料になりそうなものを探す。


「ハーブになりそうな薬草か、香りの強い果物なんかがアレばいいのだが……。まあ、こういう時はまず虫を探すのが定石だな。」


植物の多くは匂いで虫を誘う進化を遂げている。

そんな事を考えながら草むらの中を歩き、変な植物を見つけた。

見た目はヨモギの様だが、葉の表面に薄らと透明な結晶が付いている。


「葉の表面のキラキラした結晶は……塩か!?」


焼いたキノコに塩を塗しただけ、それでも空腹だったからだろうかとても美味しく感じた。


気付けば日は沈み、空に星が出ていた。


「すげぇな異世界…。星が綺麗だ…。」


大気汚染とは無縁の夜空が広がっていた。



(とりあえず眠い…。明日のことは明日の俺に任せよう……。)


そうして俺は、簡易的な枝と葉で作ったベッドに横になる。


(火、消したら獣に襲われたりしないだろうな…。)


そんな不安を持ちつつも、心地よい眠気に誘われるがまま身を任せることにする。

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