第2話 獣人族と遭遇してみた

「これが若さか……。」


簡易的に作ったベッドで寝たにも関わらず、体の節々に痛みも疲労も感じない。

そんな事に少しの感動を受ける自分が、いつのまにかオッサンになっていたのだとを実感させる。


「さて…どうしたものかな…。こういう時は、やっぱり人里を目指すのが王道だよな〜。とはいえ、むやみやたらと森の中を進むのはナンセンス!川を辿って行くのが最適解だ!」


軽く身支度を整えてから、まるでハイキングにでも出掛けるかのような軽やかな足取りで、川に沿って下流を目指す。

しばらく歩いたが、疲労はそんなに感じていない。


「若いってすごいな…。結構歩いたがまだまだ余裕だな。でも、無理は禁物。こういうのが二、三日後に筋肉痛として出てくるんだよな…。」


少し森が開けた場所を見つけたので、そこで休憩する事にする。

川に沿って来たため、水分には困らなかった。


「水はあっても腹は減るか…。昨日のキノコモドキでも、近くに生えていないかな?」


近くの木陰を探してみるが、キノコモドキは見つからなかった。

しかし、対岸の方で草木が揺れるのが視界に入る。


(あれは…ヤバい感じのやつだろ…。イノシシか?それにしてもデカいな。こっちは風下、静かに動かず様子を見るか……。)


異世界にきて初めて緊張が走る。

幸いにもデカイノシシは川の水を飲んで、少ししたら立ち去っていった。


「あんなのもいるのか…。これはちょっと考えないとだな……。今後、どうしても避けられないタイミングで出会えばひとたまりも無い。」




―――「よし…こんなもんか。とりあえず打製石器の刃はできたし、後はこれを枝にくくりつけて…。」


何も無いよりはマシというものだ。

おそらく、本気で突進でもされたら太刀打ちできないが、少し離れたところから威嚇する程度には役立つかもしれない。


「杖代わりにもなるな…。」


案外、槍という武器は使い勝手が良いのである。

短所としては開けた場所でしか使えないが、杖代わりにもなるし、先の見えない草原なんかに出れば草木をかき分けるのにも使えて、旅のお供としては丁度いい。


「それにしても腹が減ったな…。昨日からキノコモドキしか食べていないし…。なんなら、向こうの世界では10秒でチャージできるゼリーが最後の食事だったしな……。」


ブツブツと文句を言いながら進むと、岩陰に生き物の気配を感じた。


「ウサギだよな…?異世界のウサギといえば、ツノとか牙とか生えて襲ってくるのが定番だ…。ここは慎重に近づいて、背後からこの槍を投げるか…?」


足音と風向きに注意しながら近づき、槍を投げて刺さるぐらいの距離から狙いを定める。


「くらえ!」


腰あたりに槍は刺さり、キューっと言う鳴き声が一瞬したが、ウサギはその場に倒れ込んだ。


「よし!だがここでも油断は大敵だ。焦って近づいて死に際の反撃を喰らわないようにしないとな…。」


5分ほど経っただろうか。

ウサギが完全に動かなくなるまで様子を見て、槍を作る際に出た破片で作った石斧を手に持ち、慎重に近づく。

ウサギはピクリとも動かなかった。


「ごめんな。美味しく食べてやるから。」


そう呟き、念の為に頭に石斧を振り下ろす。





―――「うまい!」


解体したウサギの肉に、昨日見つけて集めておいた塩ヨモギの塩をふりかけて焼いただけ。

しかし、久しぶりの肉の味にとても満足していた。


そんな俺の背後から、突然女の子の声が聞こえた。


「あの、すみません。できればそのお肉を一口だけ分けていただけないでしょうか…。」


反射的に振り返るとそこには、土に汚れた服を着た女の子が立っていた。


(これが、エンカウントイベントか…。)


そんな事を思いつつ、彼女の容姿に目を凝らす。


肩ぐらいで短く切り揃えられた、茶色混じりの髪。

目は朱色で、顔立ちは整っているが少し痩せ気味。

服装は、どう見ても森を歩くには不向きなワンピース。

歳は10代前半くらいだろう。

しかし、何よりも目を引くのは、彼女の腰あたりからチラチラと見える狐のような尻尾と大きな耳だ。


(獣っ娘というやつだろうか…。モフモフしたい。)


そんな邪な考えを見透かしてか、彼女は少し引き気味に目を逸らす。


「あぁ、マジマジと見てしまってすまんな。腹減ってるのか?よかったら食べていいぞ。」

「ありがとうございます!」


彼女は俺の返事を聞いて、目を輝かせながら近づいて来る。

そして、差し出したうさぎ肉に頬張り美味しそうに食べている。


「一つ、聞いてもいいかな?その耳と尻尾は本物なのか?」

「あっ。すみません、気持ち悪いですよね…。」

「いやいや、そんなことないぞ。初めて見たから少し驚いて、気を悪くしたなら謝る。」

「獣人族を見るのは初めてですか?私みたいに、人と獣の特徴を併せ持つ種族を獣人族と呼ぶんです。」


彼女の話によれば太古の昔、人と獣の王である神獣との間に生まれたのが彼女達、獣人族の起源なのだそうだ。

神獣とは、長い年月を生きた獣が知恵を得て、神の加護により、万物の理に干渉する力を得た存在らしい。


(神獣か……。流石は異世界。そんなものもいるのか…。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る