第8話 ジャイアントボアに勝利してみた
森の奥から、人の歩く速度程の速さでジャイアントボアの群れが村に近づいてくる。
―――「奴等は警戒心は強いが、それは見えない罠や隠れている脅威に対してだ。見えているものに対しては自身の体躯で圧倒出来ると思っている。」
弩級戦車をどこに配置するか悩んでいた時に、狩猟班の獣人族から聞いた話だ。
「確かに普通に考えて、あの巨大に突撃されればひとたまりもないだろうな…。警戒するべきは、見えない所からの強襲だけでいいわけか。」
「あいつらは突進する直前に必ず足を止め、後ろに少し仰け反るような仕草を取る。そこからはあっという間に突っ込んでくるからな。事前に偵察に来るのも、その助走する距離が安全か確かめるためだ。」
(おそらく重心移動による加速の為の予備動作の事だろう。あの巨体から生まれる運動エネルギーを、最大限に活かして突っ込んで来るわけか…。)
「ちなみに、助走はどれぐらいの距離からするもんなんだ?」
「そうだな…。健殿が、弩級戦車の試し撃ちをした際に的に当てただろう?だいたいアレぐらいだと思う。」
「案外近いな…。弩級戦車の命中精度には少し不安もあるし、やはりリスクは高いが真正面からの射撃の方が良いかもしれないな…。」
狩猟班は高所からの、弓の命中精度の低さを理解しているみたいだ。
しかし、フロンには伝わらなかったみたいで、また不安そうな顔をしている。
「そんなことして、本当に大丈夫なんですか?」
「フロン、高所から角度をつけて射撃するには、ジャイアントボアの走る速度を計算して、その進行方向の少し前方に撃つ必要があるんだ。しかし、弩級戦車は左右だけならまだしも、上下の角度を状況に応じて狙い通りに調整できるほど、高い機敏性を持っていないんだ。」
「なるほど…。では、事前に狙う位置を決めておくのはどうですか?」
「理屈上はそれでなんとかなるだろう。けれど、相手は生き物……。こちらの進路予測と違う動きをする可能性が十分にあるんだ。それに俺は、ジャイアントボアがどれくらいの速さで走ることができるのかわからない。」
(もし、一発で仕留める事ができなかった場合、弩級戦車の再装填をしている間に、村に入られてしまうだろう…。)
「弩級戦車を横並びにして、少しでも広い角度を狙えるようにする方が遥かに命中する確率が上がるはずだ。」
「わかりました…。健さんを信じます!」
―――(まだだ、焦るな…。必ず一発で、確実に仕留める…。もう少し…もう少し…。)
ジャイアントボアとの距離が近づくにつれ緊張感が増す。
先頭の方のジャイアントボアが足を止め、振り子のように後ろに揺れる。
「今だ!撃て!」
号令と共に放たれた矢は、一直線にジャイアントボアに向かって飛んでいく。
プギィーーーー!!!
その内の一発が先頭のジャイアントボアに命中した。
「後列、放て!」
今回、弩級戦車隊は2列編成にしてある。
前列が打ち終わった後、続けて2列目が矢を放つ。
もし仮に、1列目の射撃で仕留め損なっても2列目の矢でとどめを刺すためだ。
2列目の矢も、先頭に続こうとしていたジャイアントボア達に命中する。
「どうだ……?」
矢が命中したジャイアントボアはその場に倒れ込む。
何匹かはかすり傷程度のようだったが、それでも目の前で仲間が殺されれば、直ぐに逃走を選ぶのが野生動物の本能だ。
「健さん!やりましたよ!」
フロンの嬉しそうな声が聞こえる。
俺はそれを聞いた途端に緊張の糸が切れ、その場に座り込む。
終わってみれば呆気なかった。
完全勝利である。
―――「流石に疲れたな…」
今回の戦いで、ジャイアントボア4頭を仕留めた。
仕留めたジャイアントボアは、その場である程度解体してから村の食糧庫に運び込む。
そこからは、すぐに消費する量を残し、残りは燻製や塩漬けなど、保存ができる状態にする。
「こりゃ、なかなかの量の肉が取れたな。」
「健殿、お疲れのところすまんが、巫女様がお呼びじゃ。少し着いてきてくれんかの?」
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