第7話 弩級戦車を作ってみた

―――「さて、揃ったようですし。村長、報告をお願いします。」


フローラの屋敷に着いた後、村の役職に着く者たちと共に俺は『長の間』に連れられて来た。


「村の警備隊からの報告によりますと、巡回中に村の北方にて多数のジャイアントボアの足跡を発見。足跡の数からして、おそらく数は10頭前後の群れだと推測されます。目的は村の作物でしょうな。奴らは今、繁殖期を迎え餌を求めておりまする故、この村を襲いに来るのは早ければ2日後の夕刻時と思われます。巫女様、如何なさいましょうか。」


(あんな巨大なイノシシが10頭もいれば十分な脅威だな……。しかも、2日後には襲ってくるとなると、十分な撃退体制も取れないぞ。)


「此度の件において、フローレス様からの天啓はありません。つまり、これは種族の存続に大きな被害を出すことは無いということでございます。それを踏まえて、健殿、貴殿の力を貸してはいただけませんか?」

「俺の力を貸すのは構わないが、俺はジャイアントボアという生き物についてあまり詳しく無い。一度、森の中で遠目で確認した程度だ。」


(銃火器類はおそらく禁忌に抵触する…。そもそも、この村には銃を製造する技術も設備もない…。そうなると、原始的ではあるが落とし穴とかか…?)


「健殿、幾度も貴殿の心を勝手に盗み見て申し訳ないのですが……落とし穴はジャイアントボアには通用しないでしょう。ジャイアントボアはその体躯に似合わず、警戒心の強い生物でございます。落とし穴を掘れば間違いなく、土の盛り方などの変化で気付かれることでしょう。」

「わかった。どうせ頭の中で考えても読まれてしまうみたいだし、ハッキリと言わせてもらうことにする。ジャイアントボアを退けるのは、かなり厳しいと思う。」


俺の発言に部屋の中にざわめきが立つ。

無理もない。

天啓もなく、迷い人の知識でもどうしようもないのだから。

いくら獣人族が人族より身体能力が高いと言えど、真正面から戦う事は絶望的だろう。



「いや……!?もしかしたら、何とかなるかもしれない!」

「本当か!?して、その策とはどのようなものじゃ。」

「その前に一つ確認したい。この村に荷車はあるか?」

「我々は、農作や獲物の運搬に荷車を日頃から使用しております。しかし、そんなものでどうするおつもりですか?」


この若い獣人族の彼の意見も当然だろう。


(見せてやるか。俺の99回にも及ぶ転職によって得た実力とやらを!)


「まずは荷車を一台、それとしなやかさとある程度の強度のある木材を一つ。後は固く編んだ細めの縄を用意してくれ!作るのは弩級戦車だ!」


―――弩級戦車。それは荷車に長弓を組み合わせた様な物だ。

荷車によって長弓を大きくしつつ、移動させることが可能である。


(欠点はその弓を引くのに、かなりの労力が必要な点だが……。それも平均的な成人男性の2倍以上ある獣人族の筋力なら可能なはずだ!)




俺の指示の下、直ぐに試作品が完成した。

荷車に横張りに木を湾曲させつつ固定し、その両端を縄で結ぶだけだからそこまで時間はかからなかった。


弩級戦車の作成中、黙々と作業する俺にフロンが話しかけてくる。


「健さん、器用ですよね…。元いた世界では何をされていたのですか?」

「ああ、以前少し大工をしててな。木材の扱いには慣れてるんだよ。」


そんなこんなで、すぐに試作品が完成した。



―――「よし、弦を目一杯引け!」


俺の号令の下、獣人族の男衆三人掛で弦を引く。

ギリギリと弓幹にした木材が軋む音がするが、折れる気配はない。


「放て!」


ヒュー――…ズドンっ!!!


目一杯引かれた弓から放たれた矢は、風切り音が鳴り、その直後重たい音が周囲に響く。

20メートルほど離れた場所に作った的に、見事に命中した。


「これなら、鏃を石刀にするだけで、ジャイアントボアの分厚い皮膚も貫通する事ができるはずだ!」


実験は成功し、すぐに量産に取り掛かる。

10頭前後の群れであることと、もし外した際に再装填に時間がかかること、それらを見越してできるだけ多くの弩級戦車を組み立ていく。

台数を作るごとに皆も慣れてきて、作業は順調に進み、遂に30台の弩級戦車が完成した。






―――予想が正しければ今日の夕方、ジャイアントボアは村を襲いに現れる。

ジャイアントボアをいち早く発見する為に森の側に偵察部隊を配置してある。


「あんな所に居て、大丈夫でしょうか…。ジャイアントボアに気付かれたりしませんか…?」

「大丈夫。あの場所なら、こちらからは見えるがジャイアントボアの進路からは風下になる。それに、彼等は狩人の役割を持っているから、気配を殺すことにも慣れている。」


不安そうなフロンに俺は丁寧に説明する。


「健さんは本当に博識ですね。」

「ああ、昔少しだけ猟師の手伝いをしていたからな。」

「大工だけじゃないんですか?」

「フロンよ…。俺はありとあらゆる職業を経験した、いわば歴戦の猛者なのさ。」

「なんですかそれ」


彼女の表情から不安の色が消えた。

いつもの可愛い笑顔の彼女だ。


(さぁ、来るなら来いジャイアントボア!転職回数99回の俺が相手だ。)




偵察部隊から、決戦の始まりを告げる合図が送られて来る。

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