第4話 妖狐族の村に来てみた

フロンの住む村までの道中何度かウサギと遭遇したが、フロンは索敵能力が高いことがわかった。

僕が目視で確認するよりも早く、音や匂いでウサギを見つけることができるようだ。


「すごいな。獣人族は皆んな五感が鋭いのか?」

「そうですね。基本的には人族よりは身体能力が高いと思います。でも、種族ごとに特性も違うし個性もありますので皆が皆、一概にそうとも言い切れませんが…。」


フロンは獣人族に分類される『妖狐族』というものらしい。

詳しく聞けば、祖先となる神獣が何かによって一言で獣人族と呼んでも、多様な種族がいることがわかった。


妖狐族は神獣『フローレス』を祖先に持つ種族だそうだ。


「その、フローレスとはどんな神獣なんだ?」

「フローレス様は1000年以上生きる九つの尾を待つ、美しい白狐のお姿をしていると言い伝えられています。千里眼を持ち、人々の本質を見抜くことができるそうです。そして、フローレス様に見出された人間は、その国の繁栄に大きく貢献する人物として扱われるそうです。」


(なるほど…中国の伝承に存在する天狐、またの名を九尾の狐のようなものだろうか。もしかしたら、向こうの世界の伝説上の生物はこちらの世界の神獣と何か繋がりがあるのかもしれないな。)


「神獣に出会う為には、その神獣に見出される素質が必要ということだな。フロンの名前もその神獣からあやかったものなのか?」

「そうですよ。私達、獣人族の中には神獣の加護を得て種族を導く巫女の役割を持つ者が生まれるのです。私のお母さんがその巫女の役目を持つ星に生まれたと聞いています。」


 (種族の長のような者だろうか…?加護を得たものは何か特別な才能を授けられるのかもしれないな…。)


「加護とは具体的にはどんなものなんだ?」

「加護とは、神様や神獣のようなこの世の理を超越した存在から与えられる寵愛のことだと聞いています。加護を得た者が大きな困難にぶつかった時に天啓として未来が視えるそうです。とはいえ、言い伝えのようなもので、私のお母さんも天啓を聞いたことは無いそうですが。」


(うむ。異世界物の定番設定だな。きっと、魔王とか厄災の魔獣とか、そういう世界の危機に天啓とやらで奇跡が起こせるのだろう。かっこいい……!)


そんな事を話していると、ようやく森を抜けることができた。


「ここが私達、妖狐族の村です。ようこそ、健さん。」


建物の構造や田畑のある風景は、まるで日本の田舎か縄文時代のような懐かしさを感じさせる。


「のどかな村だな。良いところだ。」


俺が村の景色に感動していると、村人達がゾロゾロと集まってくる。

どうやら、森を抜ける頃には俺たちの存在を認知していたみたいだ。


「おかえり、フロン。そちらの方はどなたかな?」

「村長、ただいま戻りました。こちらは須藤健さん。森でご飯を分けて頂いたので、お礼に村に連れて参りました。」

「はじめまして。すまないが俺はどうやら迷い人というものらしくて、この世界に来たばかりなんだ。色々、迷惑や失礼な事を聞いてしまうかも知らないがよろしく頼む。」

「なに!?迷い人じゃとな。これはまた、珍しいお客人じゃ。フロン、健殿を巫女様の元にお連れなさい。」


(どうやら、俺が迷い人だと聞き、警戒しているみたいだな。確かに異世界人の俺が何をしでかすのか不安に思うのは当然のことだろう。ここは大人しく、村長の言うことを聞こう。それに、フロンの母親の巫女様というのも気になるしな…。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る