第5話 族長に会ってみた
フロンに連れられやってきたのは、村の中心にある一際大きく、豪華な家だった。
家というより、屋敷と呼んだ方がいいかもしれない。
「デケェ家だな…流石は妖狐族の長。他の家が竪穴式住居のような作りに対して、この屋敷だけがどこか近代的だな。」
「竪穴式住居というのがどんな物か私には分かりませんが…この屋敷は古くは妖狐族と交友のあった、人族の迷い人が設計したそうです。だから他の村人の家との作りが異なるらしいですよ。」
(なるほど、これは日本人が作ったのか…。やっぱり、かなり昔から日本人の迷い人は存在して、少なからずこの世界に影響を与えているみたいだな。)
つまりは、此方の世界と向こうの世界は何かのきっかけで繋がることがあり、その時に此方の世界に来た人間が『迷い人』で、向こうの世界にこちらから行ったものが、向こうの世界で神話となっているのだろう。
(そうだとすれば、異世界転生物とは空想物語ではなく、実体験記なのかもしれないな…。)
この世界について知れば知るほど、俺の中で何かが繋がっていく。
(もしかしたら、俺が向こうの世界に帰ることも可能かもしれない…。けれど、帰ってもどうせブラック企業勤めになるだけだし、それだけは何としても避けなければ!)
そんな事を考えながら、フランの後をついて屋敷の中を歩いて行く。
「ここが私のお母さんのいる『長の間』です。……あの、健さん。」
「ん?どうしたフロン?」
「私のお母さんは妖狐族の長にして、フローレス様の加護を待つ巫女です。くれぐれも失礼の無いようにお願いしますね。……えっちな目で見るなんて、言語道断ですからね。」
(……気をつけることにしよう。)
内心きっとナイスボディの美人がいるのでは、と期待していた俺は、彼女に先に釘を刺されてしまった。
(妖狐族は、いわゆる第六感も鋭いのかもしれないな。獣の血の名残りだろうか?)
―――「失礼します。お母様、ただいま戻りました。こちら森で私を助けてくださった須藤健様です。彼は迷い人のようで、村長よりお母様に助言を頂くよう言われて参りました。」
フロンの口調が急に大人びたものになった。
(自分の母親とはいえ、一族の長であることに変わりなくフロンもそれを理解しているのか…。ヤバい…ちょっと緊張してきた…。)
「おかえりなさい、フロン。そして、ようこそ迷い人殿。私は妖狐族の巫女であり、そこにいるフロンの母親、フローラと申します。」
彼女の澄んだ声はとても美しかった。けれども、どこか普通の人とは違うオーラを纏っていたのだ。
彼女の見た目も、まさに白狐の神獣を祖先に待つ者という感じで、白く長い髪や耳、尻尾、そして真紅の瞳が、人とは異なる美しさを持っている。
肌は白く、首筋はスッとしていて、胸元は少し広めに開けられた着物のような服装をしている。
(いかんいかん、つい目線が下に行ってしまう……それにしても、この村に来てから薄々気付いていたが、女性の胸が余り発達していない…。妖狐族は、貧乳種族なのだろうか…。とても素晴らしい!)
「初めましてフロンのお母様。俺は須藤健、フロンの言う通り、いわゆる迷い人だ。」
「そのようね。貴方の目には、この世界の物全てが新鮮に見えているみたい。……私の事も少しエッチな目で見てるわね。変な人。」
「健さん!お母さんのことやっぱりエッチな目で見てるじゃ無いですか!?」
(仕方ないだろ!俺は獣っ娘が大好きなんだから!いや…娘って歳じゃ無いかもだけど…?)
「とても、失礼な事をお考えになられる方ですね。妖狐族に限らず、獣人族は人族よりも比較的長命な種族ですよ。年齢なんて人族の寿命で決めたものさしでしかないのよ。」
(やはり、彼女には俺の心の中が読まれているみたいだ………。決して俺の下心が顔に出ている訳ではない…と信じたい。)
「さてお喋りはこのくらいにして、健殿、一つ聞いてもよろしいかしら?」
「はい。俺に答えられることなら何なりと。」
「あなたは何をしにこの世界に来た?」
俺は頭を殴られた様な感覚を覚えた。
(確かに…俺はなんでこの世界に呼ばれたんだ?)
「本来、迷い人とはこの世界に繁栄か破滅をもたらすもの。その多くが、この世界に召喚される際に何かしらの天啓を受けていると聞くわ。でも、貴方からは何も感じない。あなたの本質が見えないのはなぜ?」
この質問にも俺は答えられなかった。
「すまない…。俺にもよくわからないんだ。向こうの世界で、おそらく俺は死んだのだと思う。そして、気がつくとこの世界に転生していた。天啓とやらも本当に記憶にないんだ……」
「わかったわ。今はそれで良しとしましょう。ただし、何か思い出した際には直ぐに私に報告しなさい。それまではこの村に滞在する事を許可するわ。」
「ありがとうございます。」
(この世界に俺が連れてこられた理由か…。少し興味があるな…。こういうのは異世界転生ものだと、終盤で何か重大な秘密が明かされるものだ。あれ、もしかしてコレって王道ルートなんじゃね?)
フローラの話を真剣に聞きつつも、俺の頭の中は邪な考えでいっぱいであった。
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