第2話 生きてた
「ん…ここは?」
「あっ!よかった。ここは病院だよ」
「病院?」
「うん。覚えてるかな?あなた…交差点を渡ってる時に自動車にはねられたんだよ?」
「…そうなんだ」
「お医者さん呼んでくるね?」
次に目を開けると、そこには白い服を着た看護婦さんが私の身の回りの世話をしてくれていた。
どうやら…私はあの時、横から来ていた自動車にはねられたらしい。体を動かそうとしてみるが、あちこち骨が折れているのか…少し動くだけでも体中に激痛が走る!
あまりの痛さに…体を動かす事を止めた時、看護婦さんがお医者さんを連れて戻って来た。
「よかった。目が覚めたようだね?」
「…うん」
「君は…死んでいてもおかしく無いくらいの大怪我だったんだよ…。目が覚めたならもう安心だね。後は安静にして静かに寝てるんだよ?」
「…うん」
「じゃあ、また様子見に来るからね」
「…うん」
看護婦さんを連れて、再び部屋を出るお医者さん。廊下に出た二人の会話が私にも聞こえてきた…。
「それでご家族には連絡付いたのか?」
「はい。連絡は取れましたが…どうやらあの子は児童施設の子になっているらしく…。実のご両親からは拒否されました…」
「なっ!なんてことだ…。ではその施設に連絡を」
「わかりました」
「大人ならともかく…まだ小さな子供なんだ。誰か来てくれる人を見つけてやってくれ」
「そうですね。わかりました」
「…先生。…夢ちゃん。会いたいよ…」
廊下で話している会話を聞いてしまった私は、ガバっと布団を頭までかぶり…しくしくと枕を濡らして、その日は寝てしまっていた。
次の日、私が目を覚ますと児童施設の代理先生と一緒に警察の人がやって来た。今回の交通事故の調査らしい…。
「…ん」
「…おはよう」
「…え?おはよう」
「おはよう。真夜ちゃんだったかな?今回の交通事故の事で少し聞きたいんだけど、少しいいかな?」
「…はい」
「君はどうなって、事後になったか覚えてるかな?」
「…え」(キョロ)
「…どうしました?真夜さん」
警察の人に今回の交通事故が起きた時の事を聞かれた私は、咄嗟に代理先生の方を見るが…。今までずっと放任していた代理先生は私がイジメられていた事など知るはずも無く…。このまま黙っている訳にもいかなくなったので、今までの事を全部話し始めた。
「…なるほど。じゃあ君は、頭の中が真っ白になってボーッとしていたから赤信号になった信号機にも気付かずに歩いていたんだね?」
「…はい」
「ありがとう。辛かったね。今はゆっくり休んでいいよ」
「…はい」
「先生。私たちは廊下で」
「…わかりました」
「そちらにも育児のやり方等あるでしょうから、私どもからは何も言えませんが…然るべき所への報告だけはさせていただきます」
「…わかりました」
自動車にはねられ、奇跡的に復帰できた私は折れていた骨が治ると、次はゆっくりとリハビリをする事になり…数ヶ月の入院の末、何とか施設に戻って来ていた。
当時の私は、警察の人と代理先生が話していた内容がわからなかったけれど…私が施設に戻った時から毎日あったイジメが無くなっている事に気付いた。
(きっと警察の人が注意してくれたんだ…。勇気だして話してよかった…)
次の日からもあれほど毎日続いていたイジメは無くなり、代理先生も偉い人に注意されたのか子供たちの行動を注意して見るようになった。
◆
月日は流れ…あれから9年が経ち、私も中学3年生(15才)になりました。資金に困っていた児童施設も国や県から税金で補助して貰えるようになったらしく…施設にいた私たちの食費とその他必要経費、義務教育だけは終える事が出来るようになりました。
ある日、代理先生に呼び出された私は先生の部屋をノックしていた。
「先生?真夜です」コンコン
「入りなさい」
「はい」ガチャ
「真夜さん。あなたはこの春で義務教育を終え、16才になりますね?」
「え?はい。そうです」
「では、中学を卒業したら働いて下さい」
「え?は、はい」
「もうわかっていると思いますが、この施設では義務教育終了までしか面倒を見てあげる事が出来ません。16才になればアルバイトなり、自分でお金を稼ぐ事が出来るはずです。この施設を出て行って下さい」
「…わかりました」
「あっ!あと…あなたが小さい時に入院した時の費用、毎月ちゃんと返して下さいね?」
「え?」
「言ってませんでしたか?あの時の入院費用、全額を私が立て替えておいたのですよ」
「…そうでしたか。…わかりました」
「あの時のあなた、ボロボロでしたから…結構な金額になってますが、今のあなたなら毎月ちゃんと払えるでしょ?お給料貰ったら毎月ちゃんと払いに来るんですよ?」
「…はい。わかりました」
「よろしい。春までに新しい住む場所と仕事と探しておいて下さい」
「…はい」
わずか1年と少しの短くも長く感じたイジメが終わったと思ったら、次はいつの間にか作っていた借金…。この時、代理先生に立て替えて貰った金額を聞いて紙に残さなかった事がこれから先の私の人生を狂わせる事になるとは…当時の私にはわからなかった…。
「…はぁ。住む所とお仕事か…すぐに見つかるといいな…」
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