第4話 え…そんな…
児童施設から帰って来た真夜は、いつまで経っても全額返済出来ないと言う代理先生の言葉を信じて、朝夕の配達の間にも働ける所を探す事にした。
今住んでいる会社の寮を住所として履歴書に書き…手当り次第、貰える金額だけを気にして…時には年齢を偽り色んな職種の面接を受け始めた。
◆
朝夕の配達の間にも仕事を始めて…早1ヶ月。
朝刊の配達を終えると、そのまま次の仕事へと行き、帰って来るとそのまま夕刊の配達へと向かい、ご飯もそこそこにすぐ寝るという日々を過ごしていた。
幼い頃からイジメ続けられ、中学卒業前まで元気に外で遊ぶ様な事も出来なかった真夜は、知らず知らずのうちに自分の体がどんどん危険な状態になりつつある事に気付いていなかった…。
「はい。これ今月分ね。ご苦労さま」
「はい。ありがとうございます」
「明日は児童施設に行く日だったか?」
「はい」
「…わかった。ゆっくり休みなさい」
「はい」
翌日、児童施設に向かい入院費用の返済をする真夜だが…。
「先生。今月分です」
「ありがと。…10万ね」
「…はい。もう払い終えましたか?」
「まさかぁ。まだまだ残ってるわよ!早く終わらせたいなら、もっと空いてる時間に働く事ね」
「え?…は、はい」
「今月はこれでいいわ。来月もよろしく」
「…はい。では…」ガチャ
(まだ足りないんだ…。私どれだけの怪我してたのよ…)
代理先生の言葉を信じて、さらに寝る時間を削り毎日3つもの仕事を始める真夜…。
仕事場は3つだが…新聞配達は朝夕の2部に分かれている為、実際には毎日4つも働いている状態だった真夜…。幼い頃からイジメられ、中学卒業前まで必要以外は部屋に引きこもる様になっていた真夜には、こんなキツイ生活がいつまでも続くはずも無く…。
「…先生。これ…今月分です」
「ご苦労さま。…15万円。これぐらいの金額が続くなら全額返済までもう少しよ」
「…そうですか。まだあるんだ…」
「そうねぇ。この金額だと…後1年はかかるわね」
「え?そんなに…」
「あの時のあなた…ボロボロだったからねぇ」
「…わかりました。では…」ガチャ
このまま3つの職場を毎日、後1年も続けないと返す事が出来ないと知った真夜は…。
「只今戻りました」
「おかえり。今日も児童施設に行ってきたのかい?」
「はい。なんか…まだまだ全額返済まで足らないらしくて…」
「……あのさ?」
「はい?」
「お前、いつ寝てるんだ?配達終わったらすぐ出掛けているし…」
「…それは」
「聞いた感じだと、早く全額返済したいから仕事増やしてるってとこか?今日も夜から何処か行くんだろ?」
「…」
「飯も全然食ってないらしいじゃないか?このままだと倒れるぞ!」
「…はい」
「お前が頑張ってるから、何か出来ないかと思って…あの児童施設が貰っている税金について調べてみたんだ」
「え?」
「あの児童施設は税金で成り立っている。その対象は勿論、建物だけじゃなく…そこに住んでいる子供たちにも適応される」
「え?…それって」
「そうだ。わかるか?あの児童施設は10年前から税金を貰っている。お前が入院していたのは何年前の話だ?」
「…10年前」
「…ハァ。お前、それ…先生に騙されているぞ!お前の入院費用は税金から出されたはずだ。その先生は1円も出しちゃいない!もう支払いなんてしなくていいんだ!」
「え…そんな…」
「明日の朝刊が終わったら、俺と一緒に県庁まで行こうか?あの施設の悪事を暴いてやろう」
「…先生」
「…今日はもう飯食って休むといい。部屋に戻りな?」
「…はい」
社長は、見る度にどんどんやつれていく真夜の様子が気になり…ここに来るまで住んでいたという児童施設の事を調べてくれていた。明日にでも県庁に児童施設の資金について相談しようと話してくれたが…。
代理先生の事を信じきっていた真夜は、予想外の事を聞いてしまったショックで…フラフラと割当てられた寮の自室に戻ると、敷きっぱなしになっていた布団に倒れ込んだ…。
そして…そのまま目を覚ます事は無かった…。
◆
翌日、いつまで経っても寮から起きて来ない真夜の事が気になり、社長自ら真夜を呼びに行くが…。
「おい?真夜ちゃん起きてるか?開けるぞ?」
「…え?…真夜!真夜!おい!」ユサユサ
「先生に騙されていると気付かずに…こんな姿になるまで…働かされるとは…」
そこにはもう…布団に向かって倒れ込んだままの冷たい真夜の体だけが残されていた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます