第9話 僕達の“お嬢様”の別の顔
今回のレイドボス戦はなんとも型破りな僕の同居人様の『拳ひとつ』で終わってしまいました、けど……うん、まあーーー『キャンペーン期間中』だからこう言うのも“1回”には数えられますよ?数えられますけど…なんだか納得いかねえええーーー! だってそりゃそうでしょう?!ああ言った『倒せるか倒せないか』のギリギリの強敵を、多少の犠牲を払いながらも討伐達成するその行為こそが“
「お主というヤツは…何と言うか―――」
「ヘ~イ、ヘヘ~イ♪どうしたもうちょい喜べよッ!私の“大”活躍で楽できたっしょ」
「まあそりゃそうなんだが…オレ達だって互いの技量を競わせに来てるようなもんだからなあ、だからなんつーか肩透かし喰わされた気分になって来るぜ」
「そうだぞ…それにこう言ったモノは協調性をやかましく言うヤツもおるでなあ?そこへ行くとワシらで良かったと思えよ」
「なあーンそれ…思いくそサガる事ゆってんじゃねえしぃ~ちょーつまんねえ…」
「とは言え、目立ち過ぎる者は目をつけられます、今はいいようなものですが今回あった事を他人を介してしまうと
「(…)判った―――あんたがそう言うならそうする」
僕達も中々のベテラン勢だと思うんですけど、やはりといいますか―――何と言いますか…トップ・プレイヤーの言う事は違う!なによりあのヒルダさんが大人しく従ってるのってどう言う事?!ミザリアさんが言っている事と同じ様な事を『
「⦅しっかし実際凄いよねー
「⦅それは僕も同じだよ、格好つけてミザリアさんからありったけの『
「⦅それより健くんヒルダさんと何か話してたよね?何を話してたの⦆」
僕の幼馴染みはそこんところを見逃してくれていませんでした、まあ怪しまれるのも無理はないか……だって僕は先程言ったとおりに、ミザリアさんからありったけの『
「⦅まあ信じているか信じていないかはともかくとして、瑠偉ちゃんはヒルダさんの来歴を知っているよね⦆」
「⦅ええ―――まあ、確かこことは異世界のエルフの王国でお后様やられてたんだよね?⦆」
「⦅そ、そして同時に現役の冒険者だって事も、でねその冒険者をしてたって時に今回の
「⦅あ~~~それにしたってヒルダさんは『アーチャー』だよね、それもステ“前線職”並の―――⦆」
「⦅それも関係しているんだよ、それにヒルダさん、あっちの世界でも別の名前を持っていたらしくてね、確か―――【閉塞した世界に躍動する“光”】だったっけかあ?⦆」
「⦅ナニソレ―――カッコイイ~!まるで厨二みたいだけど私のアゲてる作品に使ってもいいかなあ?!⦆」
「⦅あ―――ああ~それはヒルダさんに相談してみたらいいんじゃないかな⦆」
そう言えば、忘れていました、僕の幼馴染みは『いぶりがっこ』と言うPN《ペンネーム》を持つ投稿サイトの作家であった事を、僕も割かしオタクをしてるけれど、僕も知らないような処で僕の幼馴染み“様”は僕以上のオタクになってしまってました、それはそれで話し合える仲間が増えていい事なんだけれど…彼女の事を昔から知ってる僕としてはショックだなあ~。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
とまあレイドボス戦はこうして終了しましたのですが、これも言ってみればゲーム内のイベントのひとつに過ぎず、だったらいつもはどうしているのかと言うと―――
「(暇だなあ…何をしよう―――素材でも集めようか、それとも時間つぶしにクエストでも受けようか…)」
僕はレベルをカンストしていると言う事もあり、普段は何をするにしてもやる事がない―――武器も装備もこの時点での最上級のモノを着けているし、だからそれらを作る為の素材集めにあくせくしなくてもいい…まあオークションに出せばそれなりの金額にはなるのでそれを見越しての素材を集めるべきか…それとも本当に『時間つぶし』するようにクエストをするべきか―――迷っていた処に…
「⦅申し訳ありませんがトラビアータさん、今時間は空いていますでしょうか⦆」
「⦅おおミザリア殿か、時間なら空いておるがどうかしたのか?⦆」
「⦅実はPTの1人が抜けてしまいまして、その穴埋めと言っては何なのですが…⦆」
「⦅PT―――のう…なんぞかクエストでもするのか⦆」
「⦅はい、少し難易度の高い『ストーリー系』のものでもしようかと思いまして⦆」
おいおいおい―――ミザリアさん?あんたが言っている『ストーリー系クエスト』って最難度のモノですよ?それを少々―――って…トップ・プレイヤーの言う事は違うわぁ、それにまあ僕もSランクで解いた事があるけれど、時間つぶしには持って来いだったため―――快諾しました、快諾……したまでは良かったのですが―――
「(げ)リーゼロッテ…」
「(…)―――うーす」
気まずいったらありゃしない、そうこのやり取りを見ても判る様に僕とヒルダさんはまだ仲直り出来ていないんです、というかやり方教えてえ?いやだって僕この前までは“ぼっち”だったんですよ?自慢じゃないですけどゲーム内では初期フレンド枠の200人はすぐ埋まりましたけど、リアルでは友達の一人もいない―――まあ良く会話をする瑠偉ちゃんはともかくとして…けど瑠偉ちゃんとも会話をよくするようになったのは『ゲーム内で互いのリアルが割れた時』からだし…それより前は瑠偉ちゃんの方から一方的―――だったしなぁ…それが僕の周りの環境が一変したのがヒルダさんと会ってからだった。 本当に今でも、そして僕でも信じられない様な事…ある朝起きてみたら見知らぬエルフの美女が僕のベッドで寝息を立てていたんだもんなあ~~~しかもそのエルフの美女は割と血の気が多めで、そのお蔭で僕をイジメから助けて頂いた事には大変感謝しておりますです―――はい。
話しは幾分か
「な、なあーーーミザリア殿?もしかするとお主、ワシを
「
「ワシとこやつが喧嘩…のう」
「よ、ヨケーな事しゃべくんじゃねえつぅのー!ま…まあ私も?あんたからこのゲーム教えられたって事だし…それより早くクエストやろし」
聞いていた話しでは自分の王国の不正貴族達と
「⦅ワリーねみっちょん、なんか変な事に巻き込んじゃって⦆」
「⦅がるどっちヘンなとこで意地っ張りだしネーーーあ、そうそう聞いてるよー、あんた、がるどっちと同棲してるんだってね、ガッコじゃあんまし目立たないようにしてっけっど、“ヲ・ト・コ”じぁ~ン?山本健闘きゅん☆⦆」
ン?ちょっと、待って? 今―――聞き違いじゃないとすれば、ヒルダさんはミザリアさんのことを『みっちょん』?んでもってミザリアさんはヒルダさんの事を『がるどっち』?それに…『トラビアータ』の事を『山本健闘』~?!
「⦅ちょ…まさか―――ミザリアさんて『三橋京子』?!⦆」
「⦅まだうちの事を呼び捨てすんなし~、サイテーでも“さん”か“様”くらいつけろやし⦆」
「⦅あ、すみません…てか、『ミザリア』って結構な古参のプレイヤーですよね?三橋さんそんな昔から?⦆」
「⦅ン~?つってもまー、うちサービス当初からやってっし?更に言うなら『アルファ・テスト』『ベータ・テスト』やってっし⦆」
こうしたゲームを作る時に、実際に
「⦅もしかして『三橋』…って、このゲームの製作会社『トリプルプリッヂ・コーポレーション』の…!⦆」
「⦅ちえーバレちゃしょうがねえっし~、つまりそう言う事ーーーうちの家のコネ使いまくっちゃいましたーテヘ☆⦆」
そこは『ブルジョアめ!』と激しく反発するような処だけれど、ミザリアの凄さはこの前のレイドボス戦で実感した―――その噂に偽り一切なし、日頃はおチャラけた言動が目立つもののそのプレイに関しては非の打ちどころがなかったのだ、もしかするとヒルダさんはこの事を知ってて―――
「⦅ヒルダさん、もしかして三橋さんの事を知っていたから…⦆」
「⦅あー私もみっちょんがこのゲームしてたの知ってびっくらしてたもんよ、で、ケントと距離空けた時にたまたまミザリアと出会ってね、ミザリアがみっちょんだって判ったのはあのレイドボス戦のあと、そん時は運命感じたねー私とみっちょんとは断ち切れない鋼の交わりだって気付いた時にケントにもこの事知らせたら面白いだろーなーと思ってさ⦆」
「⦅まあうちもトラビアータの噂は聞いてたしねー、なんでもちびっこのクセにやたらと頑丈なのがいるってのはね、けぇーどさぁ
まあ…そこはご指摘の通り―――なので“グゥ”の音も出ないのだが……それこそがネットの特性、秘匿性を前面に押し出したモノのお蔭でリアルでは到底出来ないような事が出来てしまう、“男”が“女”になったり―――と言うのはそのほんの序の口、更にエスカレートさせれば“年齢”や“体型”“性格”まで変えられる…演じられる、リアルでは他人とのコミュニケーションが苦手な僕でもネットにログ・インすれば少々こまっしゃくれたおしゃまな喋り方をする幼女にだってなれるのだ、けれどこう言ったのは常に危険と隣り合わせ―――『
(*ちなみにクエストの方はクリアできましたとさ)
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『三橋京子』は、ここ数年IT業界で業績を伸ばして来た『トリプルプリッヂ・コーポレーション』の娘である、そう本来ならば僕達が通う高校で『ギャル』をしている彼女は実業家の“お嬢様”だったりするのだ、その事実を僕は最近知ってしまった、数日前に関係が気まずくなっていたヒルダさんの頼みの
それに三橋京子は『ギャル』なだけに口調もあんな感じ―――普段聞いていても“軽く”、礼儀もなっていない…実業家の“お嬢様”ならばそれ
「おーーー山本健闘、今日ヒマしてんかー?ヒマしてんならこれからちょっと付き合えし。」
「えっ?!『付き合え』…って?」
「バーカ、変な風に勘繰るなし、じゃヒマしてるって事できょーせー参加な。」
“色黒”なギャルに誘われてしまった…まだ瑠偉ちゃんとも
「山本健闘様でいらっしゃいますね、お嬢様のご要望によりお迎えに上がりました。」
くっ…黒塗りの高級外車―――しかもお迎えの運転手は黒のフォーマルなスーツを“ビシッ”と着こなしている…よく“国内”や“海外”の『ドラマ』でも見る様式―――TVの中だから現実離れしているなあとは思いましたけど、“現実”はここにこうしてあったああ!アレって脚本や台本の中だけの世界じゃなかったんですね?いやしかし―――僕を拉致ってどうしようというの?そう言えば三橋京子は『今日ヒマしてんなら“ちょっと”付き合え』って言ってたけども……
しかしこの時僕は、大変な事を失念していた―――その事はあまり乗りつけない高級外車の中で思い出していたのだ…
あれ?そう言えばヒルダさんは……?
* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
物事の流れと言うのが急すぎて“彼女”の事を失念していた、日頃はあれだけ騒がしい彼女がここ最近では鳴りを潜めたように静か…だったのだ、その事を高級外車に揺られる中思い至った僕は一種異様な不気味さを感じていたのだった。
そしてまさに大金持ちの家を絵に描いたような豪邸に高級外車が吸い込まれて行くと、そこには―――
「おーーーようやく来たか、しっかしま、冴えないカッコしてんな。」
「あのぉ…三橋―――さん?僕をこんな処に連れて来て何をしようと…」
「あーン?なんも聞かされてないの?ちえーーーしゃあねし、ま、いいケドさーーー」
『冴えない格好』…ええまあそりゃそうでしょうよ、高校に通学する際は制服を着用しますが普段は『ジャージ』がメインな僕、“オシャレ”には最も無縁な僕に何を求めていると―――それに有無を言わさず連れて来られた様なものだからどうする事も出来やしない、とは言ってもまあジャージは部屋着、たまに外出する時に着る服だってオシャレに
「ちょーとあんた、これから小奇麗になってもらうよ、なぁに別に怖がるこたぁないって―――キャハハ☆」
「(は?)『小奇麗』…って、僕に何をするつもりなんですか?!」
「フフ~ン、がるどっちから聞かされてないならうちから聞かせてやるし、これからうち主催のパーティーあんだわあ…」
「(は?)『
「PTちゃうしいーーーなにゆってんだか…パーティーつったら宴だろし、それにがるどっちもイキなことするよねーーーキャハハハハ!☆」
何か
…と、僕がここにいないヒルダさんに怨み辛みを募らせている間にも、あれよあれよという間に僕の“改造”は進むわけでして……そして我に返って目の前の姿見を見た僕は―――
「えっ…何これ、本当にこれが僕?!」
「はい、その通りです、もうすでにお嬢様もご友人の方も済ませられてお待ちかねでいらっしゃいますよ。」
皆似たような格好だから見分けがつかないけれど、黒いスーツを“ビシッ!”と着こなした運転手さんと同じ様な格好をした人にそう告げられた…って、ちょっと待って?この人(達)の言ってる『お嬢様』って間違いなく三橋京子の事だよね?けども三橋さんはさっきまで僕の為に色々指示を出してた―――はず?
そんなまた、大金持ちの知られざる実態に思いを馳せながら辿り着いた現場には、なんと―――あの?!
「ようこそおいで下されました山本健闘様、今宵はわたくしの催しに来て下された事を感謝している次第です。」
目の前の―――透き通るような“白い肌”をし、厭味ではない程度の“薄いメイク”、華美ながらも慎ましやかなドレスに身を包む
「おお、ここにおりましたか三橋京子殿、今日はこの様な華やかな場に私をお招き頂いた事、感謝しておりますぞ。」
「これはヒルデガルド様、いえいえ今宵は身内だけの集まりの様なもの、本来であれば某国のお后であられますあなた様をお誘いをするのに相応しくはないとお思いでしたのに。」
「今の私は『お忍び』の身、故に身分を明かそう等これほども思うておりませぬ。」
いや…それより三橋京子よりも“色白”で、身に着けている衣装も雅やか…その身を飾るアクセサリーも光り輝いて、嵌められている宝石なんて『何カラット?』と言いたくなるような―――しかも肩書が『某国のお后様』だとぉぉう!?ヒルダさん、あんたそれ隠す気満々でないだろぉー!
けれど、僕が気にするべきはそんな処にはなかった、僕は今回強引に連れて来られたこのパーティーの趣旨を理解していなかったのだ、でもそれは当然と言えば当然―――何しろ今回の
「それよりも今日という日はなんともおめでたい事よ―――この私の友人である三橋殿に似合いの『
「えっ?ヒルダさんちょっと待って?今…なんて言ったの?僕が…三橋さんの―――」
「おっほほほほ!ええそうですの、お父様と来たらまだ学生の身分であるこのわたくしに、これまでにも既に両の手では収まり切れぬくらいの『お見合い写真』を見せられましてね、正直困っていた処なのです。」
「判りますよ、その悩み…私にも国に残した一人娘が居りますが、夫はまだ幼い
「ヒルデガルド様の処でも…けれどわたくしもお父様の言っている事は判っているつもりなのです、不幸にも三橋家は女の身であるわたくしのみ―――本家を継がせるなら男児が好ましかったのですが…けれどそれは適わぬ事でした、わたくしの両親は今年で70になろうかと思います…そう、高齢での出産―――そこで女児であるわたくしを授かった時には喜びもしたものの男児ではなかった事に落胆も激しかったとか、けれどわたくしの両親はわたくしを可愛がってくれました、多少の我が儘は笑って許してくれるようなそんな両親…そこでわたくしは思ったものです、そんな両親に感謝の現れとするには何をするべきか、『最低でも三橋家を絶えさせてはならない』…そうではありませんか、ヒルデガルド様。」
「よくぞ申した、さすがは私の友人よ、そう言う事です―――我が王国でも跡取りの出産は急務、いくら凡愚であろうが“いる”と“いない”のとでは大違い、
なんだか…色々と固められているのが判る―――2人が共有する認識の下に並べ立てられる論理、そりゃまあ確かに僕もゲーム内でそう言う場面に出くわしましたから理屈としては判りますよ?けど、なんで
「ちょっと待ってよ―――僕の同意を得ないで勝手に進めないでくれるかなあ…だって僕が三橋さんの婚約者だなんてさっき聞かされ―――」
「どうやら健闘様におかれましては慣れない場の雰囲気にお疲れのご様子、誰か―――彼をわたくしの寝室に。」
そこで僕は『最後の抵抗』とでも言うように反論しようとしていた、だってそうだろう僕の意思なんかそこには存在していない、好きでもない女性からいきなり『婚約者』だなんて言われていい迷惑だ、だから僕は反論しようとした―――けれど向うの方が一枚も二枚も上手、僕の反論を遮ると同時に僕は三橋京子の部屋へと連行されたのであった…。
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