第11話 そして僕は途方に暮れる

僕には祖母がいた―――亡くなって今はもういないけれど、僕が小さい頃にはよく可愛がってくれた大好きなおばあちゃん…そう俗に言う僕は『おばあちゃん子』でもあった、そしてその祖母の好きな花が『椿』…だから僕も自然にその花が好きとなった。 そしてそれは連綿と…例えそれが仮想の現実世界『ネットゲーム』でも同じ事だった。

それにこのゲームでは“勝利時”にド派手なエフェクトで飾れることができてしまう、そして『ダレイオス』がその時飾った“勝利時”のエフェクトと言うのが―――『ミザリア三橋京子』も気付いたように僕の“メイン・キャラ”でもある『トラビアータ』…イタリアの作曲家ジュセッペ=ベルディの代表作の一つであり、和訳すると『椿姫』となる。


「ちょ―――待てよ…まさか?」


『しまった』―――と思っても遅かった、つまり今回一緒にプレイをしていたミザリアには山本健闘である事がバレてしまったのである、しかもよりによってこいつ三橋京子かよぉぉ~~しかも三橋京子は『トラビアータ』が“誰”であるのかも知っている、きっとこいつの事だから明日から学校で顔を突き合わす度に絡んで来るんだろう―――なあ…と、思っていましたら?


「ど、どうしたの?ミザリア様…急に言葉遣いが変わられて?」 「ああ―――それにそいつの事知っているかのような…」


しめた!確かに僕の事がバレてしまって一時はどうなる事かと思ったんだけど、三橋京子にしてみても『山本健闘』=『ダレイオス』=『トラビアータ』の構図は衝撃だったものとみえ、“素”が出てしまったみたいだったのだ、しかも―――この時一緒にプレイをしていたプレイヤーに何一つ弁明することなくログ・アウト…きっと彼女にしてみてもネットゲーム内では“清楚系”を押し通しているから、本来の彼女自身(ギャル)を知られる事は不味いのだろう…いやあ~それにしても三橋京子の方から退いてくれて助かったああ~~~…


          * * * * * * * * * *


―――なんて、思っていたら…それは盛大な『フラグ』である事に僕は気付かなかった…と、言いますのも。


「ちょ、山本健闘…屋上に顔貸せやし。」


ですよねえ~~~この人があの時緊急ログ・アウトしたのも頭を冷やすため―――しかし頭を冷やした処で“お熱”をお持ちになったのは致し方のなかった処のようでして、朝のHRホーム・ルーム終わりに屋上に呼び出されてしまったのだ、それも、ものすごい形相で……一体何を要求されるんだろう、自慢じゃないけどここ10年間イジメられっぱなしの僕にはこの後の展開が判るかのようだった、授業の合間だとか放課後だとかに屋上や体育館の裏側に呼び出されると何が起こるのか決まっている―――


「あの…何かご用件でしょうか―――三橋さん…。」

「(……)うちもまだ頭ん中そーとー“こんらん”してっし、整理もついてないから率直に聞くことにする、アンタ―――昨日の『ダレイオス』つってアンタだよな?山本健闘。」


キタ…コレ―――ああ~やっぱり気付いていらっしゃったんですねえ?僕としましては気付いてくれない方が良かったんですけど……


「あーーーはい…そうであるかもしれませんし?そうであるとも言えます…」


『出来る事ならば』―――と、飽くまでシラを切り徹す…その為の灰色回答……


「そんな事聞いてやしねえし!アンタ昨日のあのキャラ『ダレイオス』かって聞いてんだし!」


―――したんですが、無理、ですよねえ~~~あちらさんとしちゃ確信お持ちになられてこんな場所屋上に呼び出したんだろうし。


「はい―――あの『厨二キャラ』は僕の“サブ・キャラ”です。」


あ~あ…僕らしくないなあ―――けどこのままシラを切り徹そうとしても確信持ってる人には通用しないだろうし…それよりこれからどうなるんだろう?それに幸いと言っていいのか三橋京子は“一人”だった、日頃引き連れているギャル集団やここ最近よくつるんで一緒にいるヒルダさんもいなかった、それにしてもうん―――それは幸いだ、この人だけならまだしもヒルダさんも一緒だったならと想像しただけでも“ぞっ”とする、それにしても―――そう言えば…ヒルダさんここ数日ログ・インしていないよなあ?


「そっか―――なら、いい…」


……えっ?終了?僕はまた無理難題を突き付けられるものと思っていましたのに―――なのに確認作業だけで終了? 良かったあああ~~~


なあーーーんて、思っていましたらそうじゃなかったみたいです。

それと言いますのもまた別の日に―――


「(ん?メール…一体誰からの―――げっ!三橋京子…)」


いつの間にか僕のスマートフォンの情報が三橋京子に流出…いや、けどうん―――僕はその原因を知っている…と言うより最早一人しか心当たりがない!異世界より来たエルフの居候に怨みを募らせつつ、僕は三橋京子から送られたメールの内容を噛み締めていた。


 <土曜の11:00に公園で待つ、この約束守らなかったら秘密をバラす。>


…これ、『脅迫メール』ですよねえ?行きたくないんですけど行かなかったら今後生き地獄を見るのは見え見えだ、だってそうでしょう!?折角現実から逃避できる場所だと思っていたネットの世界ですらおちおちいられなくなっちゃうんですよ?しかも―――三橋京子が『バラす』と言っている“対象”も気になる…まあ下手に勘繰りするなどして、まずヒルダさんは確定だろうな、あとは……サイアクなのは瑠偉ちゃんにも知られるのはイヤだ!絶対に!イヤだああ~~~!


         * * * * * * * * * *


―――なあんてな事、思うもんじゃありませんでした…いや、と言うより最近の僕全部が裏目だなあ~~~え?何を言っているのかって?『フラグ』ですよ―――『フラグ』、絶対に僕の思っている様な未来になどならないで欲しい…と言うモノの“逆”―――


「おー来たな、それよか男の方が1時間も待って『いや、いま来た処だよ』とか言うもんじゃねーのか?」

「イヤイヤみっちょ~ん、それケントに言うのは酷てなヤツだしー。」

「あ…あの、私はね?ヒルダさんから誘われて言われるがままに…そしたら三橋さんも一緒にいて、それで―――」


あ…これ、“詰んだ”わあーーー“詰み”ましたわあ~~~コレ、いやまさしく『こうならないで欲しい』の真逆―――それもオン・パレードですよ!


「あ…あのぉ~三橋―――?これ一体どう言う事…」

「(ンーフフン…)うちらと一緒に遊ぼ☆健闘―――いや♡」


は?いやちょっと待って?待って下さいよ?こいつ…っ、言うに事欠いてなんて事を言っ―――

すると『えっ』と言う感嘆の言葉が漏れた…しかもその言葉の主は誰あろう―――


「ちょっと待ってよ…健くん?一体どう言う事なの?三橋さんが健くんの事『ダーリン』て…どう言う事なのよ!」

「あ…あの、ちょ、ちょっと冷静になろうね?瑠偉ちゃん―――ちょっと三橋さん、瑠偉ちゃんがいる前でなんて言う事を!」

「あっ!そういやあー忘れてたわーみっちょんこの前のパーティーでケントが『許嫁』だって事を皆の前でゆっちゃったしねーギャーハハ!」


余計な事を言うなあー!これ以上事態をややこしくしてどうする!あんたは黙ってろヒルデガルドぉお!

するとここでまた余計な事を三橋京子が―――


「どー言う事―――って、ちょいスマホ貸してみ…ホレ、これがしょーこ。」

「う…嘘―――『トリプルプリッヂ・コーポレーションのご令嬢婚約を発表』?!もしかしてこの『トリプルプリッヂ・コーポレーションのご令嬢』と言うのは……」

「そ、う・ち☆で、『婚約した相手』ってーのが―――」

「け…健くん―――」

「ちょおーッと待ったあ!三橋さん、あのあと言ってくれたよね…あの場はその場しのぎ的にそうやったんだって、あのね瑠偉ちゃん…この人対抗している会社の若手社長から結婚を前提にしたお付き合いを迫られてたんだって、その防衛策の為に僕を敢えて指名して―――」

「けどそれって、なにも健くんじゃなくても良かったって事ですよね…それに見せかけだけの婚約ならどうしてを―――」

「ちえーうちの内情全部バラすとかないしー、それにお蔭で面白さ半減しちゃうしー」

「面白半分でこんな事をするなあー!それに…健くんや私の気持ちも知らないで―――」

「へえ~?―――判らないなあ~うちには。」

「(!)そう言う処…そう言う処が大ッ嫌いなんだ―――お金持ちって言うのは…『漫画』や『アニメ』や『ゲーム』であっても、いつでもお金持ちが庶民私達の前に立ちはだかって来る…そしてそれは『現実』でも―――けれど私はそうは行かないよ…そんな簡単に私健くんを奪わせてなるものですか!」


えっ?ちょっとお待ちなさいよ?というか冷静になろうよ瑠偉ちゃあ~ん!あんたも頭に血が上り過ぎて何言ってるか自分でも判っていないんじゃ?それにこの時ほど僕は『ゲーム』の中が恨めしかった、それというのも今の状況を例えるとするなら『白チャ全開で言いたい事を言い合う』じゃないですか?!けれど今は現実―――現実では『PTチャ』や『フレチャ』なんて便利なモノはない、口からいて出た言葉がそのまま反映されてしまう世界なのだ、しかも行き交う人々もこの喧噪けんそうの有り様に(興味のある人は)足を止めて見たり聞いたり中にはスマフォをかざすヤツも出る始末、けれど一番恐ろしかったのはこんな状況の中を言ってのけれる―――


「なら“戦争”だ―――うちの“ダーリン”とアンタの“カレシ”を賭けた…アンタ今はっきりと言ったよなあ?『私の健くん』と―――」

「(……)言いましたけど?私あなたみたいな人に譲る気なんてこれっぽっちもありませんよ―――」


これは……!『嬉しい』と言っていいのだろうか―――それとも『哀しむ』べきなのだろうか…『山本健闘』と言う冴えない男を賭けての争いが今まさに起ころうとしている、片や昔からの幼馴染みにして校内一のマドンナとして知られる『高坂瑠偉』、そして対抗するは『トリプルブリッヂ・コーポレーションのご令嬢』と言う身分を隠し(?)同じ学校に潜む(??)様な形で在学している『三橋京子』―――(※この際ギャルしてて目立っているって言うのはナシで)

こう言うのは“男”としてはどうなんだろうなあ~そりゃあ嬉しくもあるけど男の甲斐性としては……

しかし、この僕とした事が重要なヤツを忘れていた―――今の今までこうした状況を俯瞰として視ていたヤツが、その重たい口を開けたのだ…


「なぁんかさーーーみっちょん…さっきからあんたの挙動みてたけど、もしかしてケントに“惚れた”?」

「なっ……なななななななななにゆってんだし!う、ううううううちがこんなダサ男ホレるとか―――」

「なに今の反応!そんなの二次元世界じゃ確定じゃんかあ~!」


うん…黙ろうか―――高坂瑠偉さん…今あんたのそれ、自分で『私はオタクです』言ってるようなもんだからああ~!

しかし―――まなかった…いやまなかったどころか益々拍車をかけてくるとはあっ!


「ふッ…判るよ、二人とも―――私も身持ちじゃなかったら真っ先にケントのDT奪ってました、奪ってえ~その胤仕込ませてえ~私は私の異世界へと帰る!何故だと思うね、お嬢さん方―――」


「もう、その辺にしときましょう…ヒルダさん。」


「(ヒョッ!)ケ…ケントが私の事を汚物のよーな目で視てりゅぅぅ~!?あはッ♡なんだろこれ…身体の芯が“むずむず”と疼いてりゅうう~!」


これ以上、この人放っとくと益々ヘンな事を言いかねないので、最終手段を使ってめました。

それにここまでの一連のやり取りが、『オタク』活動をしている少し頭のイタイ連中のしている事と見られ、一時いっとき注目を集めていた観衆の目は三々五々さんさんごご散らばっていったのだった。


         * * * * * * * * * *


結局芝居かかったヒルダさんのお蔭で大惨事になるのは避けられたけれども―――それにしても、気まずい…があった直後だものなあ、そりゃ気まずくもなりますよ…実際、三橋京子と高坂瑠偉のやり取りのお蔭で僕達の周りには人だかりが出来ていた、そこを『茶化した』とは言えヒルダさんが解消をしてくれた、うんそこのところは感謝をしよう―――だが!やり方があったんじゃなかろうか?止めるにしてもなにもまた僕を引き合いに出してんじゃないよぉ~!


それより今は騒動が鎮静したのに伴い、この4人で話し合いの場を設けている―――(しかもこの提案の発動者がの、この人だとは…)


「んーでさ…それよりさっきも言った事だけど何かあった?キミタチ…それも―――」


鋭いよなあ…ホントこの人―――確かに日曜だった昨日、僕は『ダレイオス』と言う2年前に活動的だった厨二病全開キャラを使ってログ・インし、この場にいる三橋京子と一緒になってプレイをしていました、うん…誰も信じてくれなさそうだけど『偶然』と言うのは本当なんです。


「その事…話さなきゃ、ダメ?」

「話したくないんだったらいいんだけどさ~~~その場合、このヒルダさんが妄想した“ある事”“ない事”尾鰭端鰭おひれはひれ付け足してやってもいいんだがあ~?」


ひッどいわ―――この人…この人自身は『異世界のエルフの王国のお后様』なんてな事を仰っていましたけど、あんた絶対『魔王』とかにくみしてた手合いだろう!(※言い得て妙)


「わかった―――じゃ、ちょっとだけ話す…アンタ達も知っての様に、あのゲームには“対人”要素が含まれてる…ま、それを提唱したのは斯く言うこのうちなんだけどさ―――けどそれも“テコ入れ”に過ぎなかった。」

「あのゲームに“対人”要素取り入れたのって2年前の話しよね、けどそう言えば…3年前から利用者が少なくなってきていて、そのうちやがては“サ終”になるって噂もちらほら―――」

「はあ?ナニその―――“対人”?“サ終”?もう少し私にも判り易い言葉で説明してよ。」

「その前に…ヒルダさんはこれまであのゲームをして来て、あのゲームって何を目的をしてるんだと思った?」

「はあ?そんなの私が元いた異世界みたいに、魔獣や野獣を狩ったり、敵性亜人種のゴブリンやオーク、オーガ達を討伐したり、ダンジョン攻略したり―――とかじゃないの?」

「うん、そこまでは合ってる…けれどそれで認識の半分―――確かに運営がアップデートする度に新しく出してくる大型魔獣とかは、そりゃあ最初は苦労はするよ?けれど…」

「そうね―――ある程度“パターン”が読めてくればそうでもない…」

「いや、そうじゃなくて『物足りない』―――そうした物足りなさを感じた、古参の、それも腕のいいプレイヤーが離れちゃってね…それが丁度3年前、そうした時に現状打破の為の一か八かの賭けに提唱したの、“対人”の導入を…」

「ふーん…つまり、“対人”て言うのは相手が魔獣や野獣とかじゃなくて―――“プレイヤー同士わたしたち”…てことか、そこまでは判ったけどなんでみっちょんがケントに惚れた理由があるんだって?」

「うちもさ、は一応危惧はしていた―――PKプレイヤー・キラー…ゲームそのものを楽しむと言った事よりも、プレイヤーを殺す事の方に楽しみを見い出せてしまう…うちらプレイヤーの成れの果てさ、それに昨日マルチで組んでた中にそんな奴らのシンパがいたみたいでね、このうちも狙われた―――けどそこを…」

「健くんに…『トラビアータ』に救われた―――」

「それはちょっと違うね、うちを救ってくれたのはあんな『幼女趣味ロリコン』バリバリのキャラじゃなかった―――高坂瑠偉、アンタも聞いた事があるだろう?このゲームに“対人”要素を導入した直後に話題になった…」

「(…)それって―――私も聞いた話しでしかないけど、『その身を闇より深き“漆黒”の装束に纏い、あらゆる攻撃―――あらゆる障害をものともせずに全プレイヤーを恐怖の底に陥れた』って言う…」

「そう―――その余りにもの強さに全プレイヤーを敵に回し、やがて1年前に姿を晦ませた…一部の噂じゃ『引退したんじゃないか』ってささやかれもしたんだけどさ―――」

 ―――…」

「そ、一応うちの『ミザリア』も2年前に一緒にプレイをしたことがあったからね、知ってた事は知ってたけど…その―――昨日インしたらたまたまそのキャラクターがいてね。」

「そ、それで―――それで?そのキャラクターどんな名前だったの!?」


ここまでは良し―――三橋さんも僕に義理立てしてくれてなのか、中々核心を話そうとはしなかった、いいぞお~いいぞおお~そうだそうだ、そのまま謎のキャラのまま終わって…


「『ダレイオス』―――その圧倒的な立ち回りで一部では【闇の君主モナーク】とも称された事のあるプレイヤー…そしてそのプレイヤーは『椿姫』をモティーフとした“勝利エフェクト”で飾っていた。」

「(『椿姫』…)あの―――それだけなんですか?」

「それだけだけど―――ナニか?」

「いや、それだけだと何も健くんの事を惚れた…っ、て―――」


くれませんでしたね、はい、判っていました、それに確かに三橋京子は『ダレイオス』が“誰か”って事は一言も発しちゃいない―――だけどね!状況としての証拠が一揃えしてるでしょーが!

あああ゛あ゛~~~瑠偉ちゃんがこっち見てるぅ~~~得も言われぬような表情をしてえ~~~しかも察しちゃってるぽいし!なので瑠偉ちゃんの方を向けれません―――向けれません…が―――


「健くん?どうして私の方を見れないのかなあ?私怒っていないから、大丈夫ダヨ―――?」


いいや、怒ってますよね?口ではそう言ってても“ビンビン”に怒気感じちゃってますから!

この世は地獄か―――はたまたは修羅場か…こんな僕に安寧の約束された地は残されていないのかああ~!


「待ちなされ…よいか嫁ちゃんや、お前サンのケントにかける情愛は誰よりもこの私が知っておる…しかし、じゃ―――同時にみっちょんの事もよぉーく判る…そうじゃな?みっちょん」


出た!また出てきおったよヒルダさんの“謎”キャラ!しかも今度のはナニ?なんか“おババさま”的キャラ?一体この人いくつ隠しキャラ持ってんだあ~!


「うん、確かにうちはうちの会社を吸収合併しようとしてる同業者の若手社長の魔の手から逃れるために適当な男を見繕ってそいつからの攻勢を回避しようとしてた―――けどそれって言ってみたらお遊び同然…本気じゃなかった、うちらの恋愛ってさ、アンタ達が思っているほど自由じゃないんだよ、そゆ事知ってたからうちは本気で男と言うものを愛せなかった―――恋せなかった…好きって言うのが判らなかったんだよ、けどは違ってた…うちがミザリアって事を知っておきながら暴漢共の前に立ちはだかるその姿―――うちは堕ちちゃったんだよ…堕とされちゃったんだよ―――『ダレイオス山本健闘』に!」


ぃようし一旦黙ろうか三橋京子ぉ!こんな事になるならこいつを助けるんじゃなかったあ~!


「今その時の動画アップされてるの見たんだけど…ナニコレ、カッコイイ~!」

「そう思うでしょう?アンタもそう思うよね!一見、見た目は痛々しいけど洗練されたその動き!うち…知らなかったわ―――厨二がこんなにカッコイイーだなんてえ~!」

「ふむふむナニナニ…なるほどこうした時はこう言う言い回し―――イタダキマシタ!頂いてもかまわないよね?このセリフの言い回し。」

「別にそれはいいケド…なに?どうしちゃったのアンタ、このうちよりも“熱い”って―――」

「その事を説明してあげようかね…そもそも―――嫁ちゃんはネットの投稿サイトとやらに作品を提供しておる『いぶりがっこ』なる作家さんなのじゃよ…ぅわかったかね?お若いの―――」

「『いぶりがっこ』―――それ今話題となってるネット作家じゃんし!」

「そして、なによりその斬新な表現技法でこのうちも『フォロワー』の一人になりました…」

「うおおおお!すっげえし!ここまで攻めた文章表現初めて見たし!それに…敢えて細かく書かずにうちら『読み手』に想像させる!けど―――」

「お判りかな?みっちょん…そーう、この有名なネット作家殿の更新はここ1ヶ月なされてはおらん、残念ぢゃ―――ひっじょぉぉ~に残念ぢゃ!ここに今や遅しと待っておるフォロワーがいると言うのに!」

「フッ、いや違うよがるどっち、うちも今『フォロワー』なったってとこだから“2人”だね。」

「ふむ、さすがは決断が早い―――そなたは良い経営者になれる事じゃろう…それはさておき、ならば嫁ちゃん1ヶ月も更新を滞らせておる理由とは、なんぢゃ?」

「『いぶりがっこ』のフォロワーになってくれた2人には申し訳ない事なんだけど…実は私スランプなの、いくら文章を興したとしてもそれを見返した時にどうしてもマンネリに視えちゃってね…そこでここのところあのゲームにログ・インしないでいたんだけど―――それに…ね、私次の『コミケ』どうしようか迷っちゃってて…」

「ン?なんじゃね?そのーーー『コミケ』?つて。」

「東京は有明にある『ビッグサイト』…そこで“夏”と“冬”に行われる大規模同人誌即売会―――通称を『コミックマーケット』…略して『コミケ』、私もこの“夏”を目指して作品作ってるんだけども折りからのスランプもあって全然進んでないの…このまま行けば今年の“夏”は断念するしかないかなあ…って思ってて」

「そーゆー事なら遠慮なくコレ使えって!センセーこの動画見て“イイネ”思ったんだろ?だったら迷わず使え―――使った先にはあとに残される道があるだろー…なもんでさ!」

「ありがとう三橋さん―――私なんだかあなたの事を誤解してたみたい。」

「いいって事だし!それにセンセーの作品一目見て気に入っちゃったしね!んーだったらうちも協力してやんよ♪」


なんと、言う事でしょう―――普通の(普通の?)“お嬢様”だった三橋京子が、ここ最近知り合ってしまった悪い友人の影響の所為で見事『オタク』と化してしまった…て、言うより―――え?今回ってこう言う事だっけ?それより話しの流れがなんだか妙な方向に―――それが三橋京子が言っていた『うちも協力してやる』……あのぉーこれって、もしかしなくても『三橋京子あなた様個人』じゃなくて、『トリプルブリッヂ・コーポレーション』だったりしない?!


“プロ”の作家には企業などの『スポンサー』が付く事はよくある事だが、ここでよく考えて貰いたい…僕の幼馴染みである『高坂瑠偉』は紛う事なき女子高校生であり―――確かにネット作家『いぶりがっこ』としては一部(と言うより僕達限定)では知られてはいるけれども、いわば“アマチュア”だ…そこへ大企業である『トリプルブリッヂ・コーポレーション』のご令嬢直々に“推し”だとぉお~?!


これは…幼馴染として喜んでいい事なのか―――僕には悩ましい事だった…。




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