音無くんの場合
オープンキャンパス 一
太陽は今日も朝早くから顔を出して、すぐに暑苦しくなった。夏と冬で地球との距離は変わっていないはずなのに、うっとうしさが違うとは困ったもんだ。
同じ県内でも広大すぎる駅のホームには疎外感を覚えた。どっちもそれなりの都市だけど、県庁所在地は別格だ。
キャンパス周りに時間を潰す場所があるのか分からず、とりあえず馴染みのあるコーヒーチェーンに入店した。人魚を看板に掲げるそこは、期間限定のパッションフルーツなんちゃらをおすすめしているらしい。ミントシロップの入った爽やか仕立て。もうそれでいいやと注文して、窓際のカウンター席に座った。ひとくち飲んだだけで生き返ったような気がする。死んでたわけじゃないんだけど。
足早に歩く人たちをぼんやりと眺めていて、見覚えのあるようなないような影が通りすぎたような気がした。
そういえば、ここの期間限定ドリンクを熱心にチェックするヤツがいたな……涼しい顔をして、高校は県外を受験した――
「タイヨウ、だっけ」
タイミングよく窓越しに再会した俺たちは二人とも驚いていた。どちらも軽く目を見開いただけで、互いに互いのことを驚いてないと思ったらしいけど。
太陽との関わりを持ち始めたのは、中学初めの中間テストで、
県外の小学校から入ってきた太陽は、あたりさわりのない奴、ていうのが周りの認識らしい。女子は影でかっこいいと騒いでいたらしいけど、俺には全く関係ないので存在自体を知らんかった。いたっけ、そんな奴と言ったら穂高に叩かれたような気がする。
まぁ、放課後の教室とか、どっかのファミレスとか、たまに颯真の家で勉強なんかしてたら、中学三年間が過ぎとった。
ちなみに、太陽が英語、穂高が国語、新太が数学、俺が理科担当で、
三年間も
冬休み直前の期末テスト。俺らは例のごとく、颯真の追い込みで彼の実家に転がりこんでいた。
勉強に飽きた颯真がゴロゴロと猫よりもうっとうしい態度で太陽の脇腹に頭突きを食らわす。
「なんで、県外の高校行くんだよぉ」
「大切な人の近くにいるため」
素っ気ない言い方やったけど、目は真剣やった。さみしいだろぉ、と嘘泣きをする颯真に何か語るわけでもなく、ほろ苦く笑う彼がなんだか、まぶしく見える。
よくわからんけど、そんなに大切な人がいるのは幸せなことなんだろうと、心の端を引っかいた。
お声かけさせていただいて、
タイヨウくんとミヅキさんシリーズ@肥前ロンズさま
https://kakuyomu.jp/users/misora2222/collections/16818023212062271761
に登場するタイヨウくんお借りしています。
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