夏祭り 四
花火を見る場所は、取って置きがあると伝えていた。会場からは少し歩くけど二人ならあっという間。
アナウンスの割れた音が響く坂道を手を繋いでのぼるだけで、くすぐったい気持ちになる。
背中の方で、ドンと空気が震えた。
二人同時に振り替えれば、暗い空に光の花が咲く。線を描くもの、円を広げるもの、音と光が休むことなく、夜に輝き、消えていった。
道に立ち尽くしたまま、時間が過ぎて打ち終わってしまう。次の花火に向けて、またアナウンスが流れ始めた。
少しさみしい気持ちを払うように音無くんに顔を向ける。
「ごめん、間に合わんかったね」
「見れたから、関係ないやろ」
ゆるい笑みを残して、目的地まで足を早める。
たどり着いた公園には、すでに先客が何人もいた。レジャーシートを敷いて、飲んだり食べたり、話したりして笑っとる。水上花火は見れんけど、高く打ち上げられるものほとんど見える見える高台だ。おばあちゃん家の近くで人にもまれることのなく、アナウンスの音に悩まされることもない穴場だ。
空いたスペースでレジャーシートを取り出すと、音無くんが敷くのを手伝ってくれた。
ドドン、と立て続けに轟く音に急かされて二人並んで座る。
カラフルな小さな輪が、菊の花のように次々に咲いてしぼんでいく。ダリアのような細やかな光が広がったと思ったら、朝顔のように太く縁取られたピンク、青、白。
色を追う前に次々と散り、また記憶に焼き付ける前に消えてしまった。さみしい気持ちとまだまだ見たいという気持ちが、ふわふわしとる。
音がした方へ顔を向けるとビニール袋がぷらぷらと揺れていた。
「食べる?」
「そだね、食べよ」
それぞれ広げて、味見する?とか聞きながら、食べ進めていく。
焼きとうもろこしは間接キスが気になったけ、すすめられんかったけど、はしまきは音無くんの箸を借りてひと口あげた。エビチーズ焼きを頬張って、うま、おいしいと目で示し合わす。
浴衣だと腕を動かすのが難しい。逆に浴衣を汚さないようにすると、手が汚れる。
花火に気を取られたら、なおさらだ。
落ちそうになるはしまきを口で受けそこねて、指先にソースとマヨネーズがついてしまった。
「やっちゃった」
花火を見ていたはずの音無くんが、わたしと声に反応して気づかってくれる。
申し訳ないな、と思いつつ、身動きが取れないので頼ることにした。
「音無くん、持っててくれる?」
ん、と音無くんはいつもの調子ではしまきを取って、わたしの手首を持った。指先には今にも垂れそうなソース。
何をするつもりかと、次の行動を待ってたら、呼吸をするように指先へと顔を近づけられて、ぱくりと食べられてしまった。
暁良みたいに食べ真似ではない。爪に舌があたって、背筋が震える。血は逆流したのか、暑いのか寒いのか、のぼせたのか冷めたのか、わけわからん。体を巡る血も頭もぐちゃちゃ。背中をつたう汗が生々しく感じた。
固まるわたしを他所に、満足した様子の音無くんが口を離す。
指先に息がかかって、ひやりとした気がするし、逆に手首は一段と脈が強くなる。
指先から目を離せられんかった。花火のわずかな光が反射したように見えて、身体中の熱がさらに上がる。
「さすがに汚いか。拭こうか?」
音無くんがそう言ってくれたけど、花火の音で聞こえないことにした。
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