全編を通し、とにかく迫力のある一作です。
河鍋暁斎。幽霊画などで知られる幕末・明治で活躍した浮世絵師。彼が少年期からどのように絵のために人生を費やしてきたかが語られていきます。
まず、この暁斎が鹿鳴館やニコライ堂を設計したジョサイア・コンドルと交流を持っていたという意外な事実が示されます。そしてコンドルの口により、生前に暁斎が語った話が人々に伝えられるという形式を取ります。
リアルな死体を描くために、道端で生首を拾ってきてしまった話。そして、師である歌川国芳から街中で喧嘩を見かけたら混ざって来いと指導された話。
そうした経験から暁斎が学び取った「真髄」というのは、創作の上でとても理に適ったものとなっており、思わず感嘆させられる内容となっていました。
絵のための熱意。そして絵を極めていく中で見えていくもの。そうした意識の流れを読んでいくことは、自然と読む人の心の中にも熱を灯していくものとなっています。
一人の人間の生き様と、そこに込められた圧倒的な熱。暁斎という人物の魅力と強烈なケレン味をしみじみと味わえる作品でした。
「ペンは剣よりも強し」という言葉があります。
しかし剣に身を捧げた人が修羅となるように、ペン≒絵筆も時に人を修羅になるまで駆り立てるもののようです。
それを強く強く実感させる河鍋暁斎という絵師の物語でした。
内容は一人のお雇い外国人を語り部としつつも、物語は主に河鍋暁斎の自分の語りで進みます。
この口調がとても読みやすく、読んでいて無理なく情景が浮かびます。
絵を描くということに取り憑かれ、それを「鬼」と表現するまでのいわば渇望。
それは他人から見れば、狂人と指さされても仕方ないものだったのでしょう。
この実在の人物を魅力たっぷりに書かれた物語は、語り口調と相まって心地よい体験です。
一人の画業の修羅にして、これ以上ないくらいの努力家の絵師の物語。ぜひお読みください。
幕末から明治の世で浮世絵師として、日本画家として名を馳せ、“画鬼”の二つ名で呼ばれた河鍋暁斎。その波乱に満ち満ちた人生を当人と、弟子にして親友となったイギリス人建築家ジョサイア・コンドルの語りで綴る物語。
実在の“画鬼”を主人公にしたこの物語、まず目を惹き込まれるのは暁斎さんの語りです。エピソード自体も実におもしろいのですが、穏やかな語りに滲む彼の異様さ――正気の中に灯った狂気を感じさせてくれる著者さんの筆、本当にすばらしい。彼の有名作のひとつである女幽霊を描いた「幽霊図」、本編にも登場していますのでぜひ注目を。まさに背筋を冷たい指先で撫で上げられるような、狂おしいまでのおそろしさを感じずにいられませんから。
そしてジョサイアさんの語りを最初と最後に配した構成もいいのです。これによって作品テーマ(正体は本編で!)が一層はっきりして、読後の感慨を深めてくれるのです。
ひとりの絵師ととことん向き合った一作、ずずいとおすすめいたします。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)