正気のまま狂い果てながら筆を繰り、闘い続けた絵師がいた

 幕末から明治の世で浮世絵師として、日本画家として名を馳せ、“画鬼”の二つ名で呼ばれた河鍋暁斎。その波乱に満ち満ちた人生を当人と、弟子にして親友となったイギリス人建築家ジョサイア・コンドルの語りで綴る物語。

 実在の“画鬼”を主人公にしたこの物語、まず目を惹き込まれるのは暁斎さんの語りです。エピソード自体も実におもしろいのですが、穏やかな語りに滲む彼の異様さ――正気の中に灯った狂気を感じさせてくれる著者さんの筆、本当にすばらしい。彼の有名作のひとつである女幽霊を描いた「幽霊図」、本編にも登場していますのでぜひ注目を。まさに背筋を冷たい指先で撫で上げられるような、狂おしいまでのおそろしさを感じずにいられませんから。

 そしてジョサイアさんの語りを最初と最後に配した構成もいいのです。これによって作品テーマ(正体は本編で!)が一層はっきりして、読後の感慨を深めてくれるのです。

 ひとりの絵師ととことん向き合った一作、ずずいとおすすめいたします。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)

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