第12話
急げ俺!電光石火のスピードで!
くらいのつもりで駆け出したら、予想を超えて速すぎて、危うくつんのめりそうになった。サンダーポメラニアンの電気を帯びたことでこの身体の活動能力が上がっているようだ。
だが、身体のパフォーマンスは向上しても、脳の方までは強化されていなかったので、動体視力が置いてきぼりになっている。
「ちょっ…危ねえ!ぶつかるぶつかるぶつかる!!こええええぇぇぇぇ!!!」
自分で走っているのに早馬から振り落とされそうになっているみたいな絶叫をあげながらも、俺は王子の後を必死に追いかけて走った。
急いだのには訳がある。追手は一組とは限らないからだ。
「ほらやっぱりまだいたあああああぁぁぁ!!!」
絶叫のままに俺は王子に迫ろうと肉薄していた覆面を撥ねた。言い間違いでも書き間違いでもない、文字通り撥ねたんだ。勢いづいて自分でももう足が止まらない今の俺は暴走戦車みたいなものだから。
撥ねられた覆面は見事な弧を描いて跳んでいった…はずだ。見届ける余裕が俺にはなかった。
止まらない俺はその勢いのまま王子を素早く抱え上げると、チクワの洞窟行き直通特急と化した。
辿り着くまでに何回か覆面を撥ねた気がするが、あまり感知できていない。そもそも特急の進路に立ち入ってくる方が無謀というものだ。
チクワ洞窟に辿り着いた頃には、電気による肉体強化の効果は切れかかっていた。無茶苦茶な動かし方をしたせいで、俺の全身は軋んで悲鳴をあげていた。洞窟の入口でとうとう俺は動けなくなった。
王子が俺に駆け寄った。
「俺のこたぁいいから…早いとこ、チクワを持って帰れよ」
「でも…賊がいる危険な場所に、こんな状態のあなたを置いてはいけない」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ。俺を誰だと思ってるんだ。何とかする男だぜ?ここまでだって、ちゃんと何とかしてきただろ?」
「そんなこと言ったって…ここまでしてくれたあなたにもしものことがあったら、ぼくは…」
王子が声を詰まらせる。
「お前さんが間に合わなかったら、それこそ俺の頑張りが無駄になっちまう。頼むからここは行ってくれ」
俺はいつの間にか意思疎通ができるようになっていた幻獣と視線を交わした。
頼む、サンダーポメラニアン。
王子を守ってやってくれ。
サンダーポメラニアンは、任せろというようにキャンとひと声あげると、その毛玉の中に王子を包み込み、あっという間に姿を消した。
よし、これでいい。
ひと仕事終えた後はやっぱり心地よい感覚だ。最後まで見届けられないのが少々残念ではあるが。
ま、あとは俺が何とかしなくても、何とかなるだろう。
俺の意識は、深い闇の中へと吸い込まれていった。
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